透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

美味しい 仕事

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「私は 小さな~星~ ♫♪ 」

ご機嫌に鼻歌を歌いながら、黒の廊下を歩く。

本部長に「美味しい仕事」を仰せつかった私は、ウキウキと黒の廊下をスキップ、していた。

うん、「歩いていた」とは語弊があるだろう。


「好きに、歌っていいぞ」

そう言っていた本部長が許可を出したのは、礼拝堂、図書館、白の礼拝堂と赤の秘密の場所だ。
もし、他の区画にもが在ったなら教えてくれる約束をしている。

フォーレストも同意した、「繋げる」事ができるであろう、あの空間の事。
まだそれについては分からないが、何故だか「バンバンやっていい」と許可を貰ったのだ。

基本的に、制限される方が多い、私が。
そんな魅力的な仕事を言いつけられたものだから、既に朝からテンションはうなぎ上りなのである。


いつもの様に、右にフワフワ左に今日は極彩色の狐。
人型だと可愛くない、と言った私にこれ見よがしに「ポン」と変化する彼はどうやら今日は狐の気分らしい。

それならそれが、一番いい。

大分溢れる星屑が落ち着いてきた私を、時折確認に来る金色は毎日会える訳じゃ、ない。
それに対してずっと一緒の、この極彩色の彼。

なんとなくの罪悪感と寂しさが、狐の姿だと薄れる気がして。
フォーレストとのバランス、私のモヤモヤ、それを両方取るとやはりこの姿の方が落ち着くのだ。


それを知ってか知らずか。

チロリとこちらを見た紫の眼は、濃茶の区画へ入ると私から離れ、辺りをチェックし始めた。
誰も居ないか、確認しているのだろう。

そこから視線を滑らせ顔を上げ、まじないの青いガラスランプを目に映し、紺色の壁紙との相性をまた心に取り込む。

これから祈りに、謳いに、行く私に。

美しいものは、不可欠だからだ。

「うん、今日も綺麗。」

臙脂色の絨毯を進む、銀白の靴も。

なんだか足取りも軽く、喜んでいる様である。

その、キラリと光るビーズの煌めきを見ていると「おい」という千里に呼び止められた。


「どこまで行くんだ。」

「あ、ごめん。」

大きな樹の扉を通り過ぎようとして、足を止める。

一瞬だけ人型になり扉を開けてくれた千里にお礼を言って、その隙間から中へ滑り込んだ。



「うーーん、やっぱりしょっちゅう来る訳じゃないから、新鮮だね………。」

薄暗い礼拝堂、誰もいない今日は「なにかが込もる」この空間を味わい放題である。

今日も前方にある扉から中に入った私達は、銘々好きな場所へと歩き出していてフォーレストはどうやら端の方の外れのベンチへ向かった様である。
いつもの様に隅っこで休むつもりなのだろう。

白いフワフワを目に留めると、そのまま極彩色を探し始めた。


いないな………。

きっと狐の姿に戻ったのだろう。
そうなると、探すのも面倒である。

それにきっと。
何処かで、私の事を見ているに違いないのだ。

ま、放っておいて大丈夫でしょ………。

そう一人頷いて、一人の礼拝堂を堪能すべく久しぶりの赤絨毯を歩き始めた。





しかし。

謳おうかと思って、周囲の美しい彫刻を眺め始めた私は。

何故だか脱線し、ぐるぐるの沼にハマり始めていた。


周囲の調度はどれもとても美しくて、申し分ない職人の仕事である。
重厚感のある造り、濃茶のアンティーク達に施された艶のある彫刻は、よく磨き上げられ大切にされてきた年月を物語っている。

しかし、その、どれもが。

私の世界のアンティークに、似ていて。

そこからぐるぐるは「私の世界」、「白い部屋」「世界のこと」に飛び。
滅びに向かうというデヴァイこの空間に飛び、ティレニア白い森のことにも飛び、「でも職人といえばシャット」と、あらぬ方向へも、飛び始めた。


でも。

「あらぬ方向」でも、ないよね?


シャットあの世界は、あの世界で、異質なのだ。

いつからで、全てが橙なのかは、分からないけど。

やはり、全ては。
どの、世界も。

の方向へ、動いているという事なのだろう。

だから、繋げるんだけど。
でも、繋げれば?

戻る?
豊か?に?

なる、のかな…………??

ラガシュは確か祈りで力を溜めて、世界を繋げて戻す、そんな事を言っていた筈だ。


て、言うか。

一番最初?
世界?その、「全部が繋がってた」世界って。

どんな、世界だったんだろうか。

ただ、それぞれの扉が繋がった様な形で移動すればラピスからシャットへ行ける、みたいな??

そんな単純な話?
…………わかんないけど。


ぐるぐるの頭の中、しかしまた新しい場面がポンと提示される。

あの、魔女部屋で朝たちと会議をした時に話した、こと。


 「きっと世界を救うって 単純なこと」


この間「そんなに難しいわけはない」と。
そう、思ったんだ。



「なんだ、ろうな…………?」


いつの間にか溢れ出した星屑が、足元を伝い赤の絨毯が埋もれ始めているのに、気が付いた。

「あれ?ぐるぐるしてるだけなのに………なんで?まあ、いいか…。」

キラキラが溢れて、困る事はないのだ。

それに、今日本当は。
謳い、溢す為に、ここに来たんだし………。


ぐるりと辺りを見渡し、壁に揺れる蝋燭の灯りを見る。
古く何かが込もる空間を温かく包む様なその灯りを、またしっかりと味わいながら全体を見渡していた。


私の世界にもある、写真で見た古い教会の様な、光景。
この雰囲気が昔から好きで、好んでよく、調べて見たりしていた。

こんな重厚感溢れる重めの空間も好きだし、白くスッキリとした光溢れる空間も、勿論好きだ。


なんでだろうな………。
でも、多分。

「祈りの場」が、好きなんだよね………。



いかん、今日は全然脱線気味。

あちらこちらに行って、結局「美しいものはいい」という事に着地して、星屑は溢れているのだけど。

思考が纏まらないのが、分かる。
いつもならもっと、集中して謳ったり、祈ったりしているのだ。
これが駄目な訳じゃ、ないんだけど。

なんかな………。
ちょっと、散漫………。


そこまで考え、一旦思考を切ると。
ドサリと黄色のサテンに、腰を下ろして深呼吸をした。




でも、何だろうか、もっと。

全体的に。

世界的に、と言うか。


 を繋げて、考えないといけないんじゃ、ない?


再び始まるぐるぐる、パッカリと拡げた私の頭の中に、並んだ幾つもの、世界。

しかしこうなればとことん考えようかという気になった私は、頭の中を並べ直して整理を始めていた。


この、世界デヴァイの綻び、グロッシュラーの何も無くなった灰色の世界。

シャットでは良い作品は全てデヴァイへ納められる。
ラピスでも石はもう良いものは採れなく、「本当のこと」は、隠されていて。

「他の世界」があること、そもそもの世界の関係性、自分達が搾取されている事、すら。

分からない、知らされていない、感じ取ることもできない、世界で。

でも、全ての世界が何処かしら歪で、不完全で少しずつ崩壊が始まっていて。


よく考えれば私の世界だって、そうだ。

あそこ地球は、1の扉。

この、世界はあの白い空間で繋がっていて、どの世界も。


「少しずつ、…………、方へ向かってるよね………。」

「崩壊」とは。
口に、出せなかった。

言葉にしてしまえば。

「本当のこと」に、なりそうだったから。


私は「おまじない」が、好きなだけあって「言葉」にもチカラはあると思っている。



できるだけ言葉と行動が一致する様にしてきたつもりだし、嘘は吐きたくない。

を、重ねる毎に。

「私のなかみ」が、「嘘・偽り」で塗り潰されて、いく様だから。


「でも、を。満たす?繋ぐ?…………でもそもそも、「繋がってた」とは、思ったけど…?」

は、で。
元々、繋がっていると予想していたけれど。

「えっ。」

思わず口を抑えた。

「ま、さか?」

いや、あり得ない、ことじゃ、ない。

かつて繋がっていた事は、本部長達の間では周知の事実だ。


「繋がっていた世界」「同時に存在する時間と空間」
「扉」「バラバラに同時存在する情景」
「心に留めた 景色」


そう、思ったんだ、この間。

「私が、想えば。できる。」って。
私が、行き来すれば寂しくないだろうって。


「………えーーー………。」

ホントに?
全部?


何処かに、存在、していて?

うん?繋がる?
いや、バラバラだけど、行き来できる?のか??

えええぇ??


…………うん。でもな?
よく分かんないけど、あながち「間違い」とは言い切れないよ。


「だって。「本当のこと」は、誰も。分からないんだ。まだ。」


「根拠」とか、「証拠」とか。

そんな問題でも、なくて。

だと、しても。不思議じゃない、って事だけは確かなんだ…………。」



    『歴史は塗り潰されている』


ウイントフークから聞いた言葉が、頭を過ぎる。
歴史を調べたいと言っていた私に、釘を刺す様に伝えられた「隠された過去がある」という事実。

だから。

「本当のこと」は。


「えっ。うん?…………ああ、でも。…だから。」

 やっぱり、誰も。

 分からないんだ。


一旦深呼吸して、胸に手を当てる。

自分の中が、少し混乱してきて頭を落ち着かせる必要があるのが、分かるのだ。


手に、ポワリと温かなのは、あの焔だろう。

あの、私をいつだって「真ん中」に連れ戻してくれる美しい焔だ。
それに意識を集中させて、暫く目を閉じていた。


「いかん。」

あぶ、危な…………。

余計な事まで思い出しそうになって、パチンと頬を叩く。

「なにしろ今。すぐ、どうこう、って事は無いし、すぐに解決もしないし、て言うか…………?えっ、これって解決する系の問題…………?」

問題、は問題だけど。
問題っていうか、疑問??

どっちだか分かんないけど、その「問題」が、デカくない???


パタリとベンチに横たわり、溜息を吐いて天井を見上げた。

いいよね、誰も居ないし………?


ほの暗い、礼拝堂。

その、小さな揺れる灯りに照らされた重厚な天井の造りと真ん中の黒い窓、周りに施された濃密な彫刻を近くで見たいと、思う。

あの子達みたいに、飛べたら。
いいん、だけど…。


薄暗いが温かな木の温もり、時の重みと「なにか」が込もる全体の造りに、既に蝶は舞い出ていた。

この、言葉にできない空間、瞬間と、目に映る光景の美しさにまた、目をしっかりと開け全てを刻みつける。


また何処かで思い出すであろう、「私のなかみ」の一部になる、この光景。

ことある毎に「刻みつけておかなければ」と思う、自分のこと。

何故、どうして。

、思うのか。


そして。

何故、時折思い出してその光景を自分の中から取り出し、味わうのか。


 分からないけど。


「なんだか、くさびを打ってるみたい………なんだよね。」


もし、本当に時間、空間を移動できるならば。

きっとこの楔に向かって私は跳ぶのだろう。
現に、これ迄も。

この「しるし」に向かって跳び、味わい、寂しさを癒したり、美しい空間に癒されたりしてきたのだ。

「多分、「なかみ」だけならいつでも跳べるんだけどな………。」


いつか本当に。
肉体からだも。

跳べる様に、なるかなぁ?

そうだと、いいのだけど。



「さ、そろそろいいだろう。しかし、今日は歌わなかったんだな?」

「うん、うーーーん。」

ピョコリとベンチの陰から顔を出した極彩色、いつの間にか近くに来ていたフワフワに、背中を押され立ち上がった。

「よし!とりあえず、帰ろっか。」


そう、どれも、これも。

しっかり考え、自分の中に落としておけば。
その時が来たら、きちんと何かのヒントになるに違いないのだ。

そうして気持ちを切り替え、手を広げ蝶達を回収する。

ゆっくりと、赤い絨毯を歩きながら。

染み込んでゆく、美しい色達を眺めていたのだった。
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