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8の扉 デヴァイ
残っていた もの
しおりを挟むうん?
そう言えば、返事してないよね?
薄暗い通路、前を歩く癖毛は既に赤のフードで見えなくなっている。
あの空間で、一人ぐるぐるに着地した私は自分が返事をしていない事に、気が付いたのだけど。
しかし、それについては彼も何を訊く訳でもなくそのまま帰路についているのである。
まさかこの人みたいに他人の考えている事が分かるって訳じゃ、ないよね…?
チラリと隣を歩く極彩色を見るも、何食わぬ顔で正面を見据え歩いている彼はきっと私の考えを読んでいるに違いない。
もしかして、千里の所為?
いやいや、どうなんだろうな………?
しかしさっきの紺の瞳は納得の色を映していた筈だ。
それなら、大丈夫か…。
まあ、考えるのが面倒になったのも、ある。
それに、私がわざわざもう一度蒸し返す内容でも、ない気がした。
そうして相変わらず何も無い、茶の通路を黙々と戻って行ったのである。
「あまり少数で彷徨かない方がいいぞ?」
帰り際、ジロジロと千里を見ながらもそう注意してくれるハーゼル。
結局彼は、味方になったという認識でいいのだろうか。
でも、私的には敵とか味方とか、無いんだけどね………。
軽く「パシン」と千里の背を叩くと、何やらボソボソと耳打ちするハーゼル。
半分聞いていない紫の瞳は、しかし嫌そうな顔をするでもなく「じゃあな」と言って私の背を押した。
「そうホイホイ、別の場所へは行けないからな?」
黒の廊下を歩きつつ、ぐるぐるしていた私の頭の中を覗いたのか。
そう釘を刺してくる極彩色は青の通路が見えると、サッサと先に行ってしまった。
「そんなすぐ、行こうと思ってないもんねぇ?」
少しだけプリプリしながら、緑の瞳に同意を求める。
本当は早速、パミールかガリアの所にでも訊きに行こうと思ってたけど。
「確かに相談しないと………秘密にされてるなら、巻き込まない方がいいのかなぁ。」
行く先には青のホールの明かりが見え、私の姿勢もだらけてきた。
なんだかんだ、赤の区画で疲れたらしい。
いつもの青、外が出来たホールの光は安心を齎し私を「おかえり」と包み込む様で。
ホッとした私は半分フワフワに寄り掛かりながら、光に向かってヨチヨチと歩いて行った。
「はーーーーー ぁ あ 」
乙女らしからぬ声を出して、大きく息を吐く。
あの後千里はウイントフークの書斎から出て来なかったし、多分玉虫色も見えない。
きっと今日の事を報告しているのだろうと、早々に夕食を済ませのんびりお風呂に浸かる事にした。
やはり、初めて入った慣れない場所、しかも沢山、泣いた所為で。
身体に残る疲労感は、ジワジワと夜になるにつれて足を重くしたからだ。
珍しく白い雲が頭上を覆い、ハラハラと降るのは白銀の星屑である。
あの空間が、白かったからだよね………。
民族的な意匠の赤の区画に、意外にも白い祈りの場。
もしかしたら。
「他の場所も、みんな白いんだろうな………。」
なんとなくだけど、そう思う。
あの、場所は。
きっと何かに影響される事がないのだろう。
そう一人納得して、揺れるお湯を掬う。
キラキラと溢れ落ちる星屑は、銀盤に乗ったマスカットグリーンと混じり合い美しい葉の色に変化している。
なんかあの、白っぽい葉っぱ………何だっけな?
ハーブでもたまに使う、葉の形を思い浮かべながらハラハラと落ちる星屑をただ、眺めていた。
水面に小さく爆ける、銀色の、星。
あの白い空間に在った、美しい色の光の、柱。
その、丁度人一人程度の長さと太さ、柔らかく光るそれは。
やはり、誰かの「想い」「祈り」そんな様なものなのだろう。
「…………やっぱり。」
何故、涙が出たのかは、解らないけど。
あの灰色の大地で想った、「人は美しかった」ということ、キラキラと昇った「想い」。
「かたち」は、無くなってしまっても。
「どこか」に、「想い」は。
在る、と。
思ったんだ。
だから。
そうだよね………。
それが分かって、嬉しかったんだ。
涙はきっと、あの場所の「誰か」の想いで、きっと真摯に祈った想いに同調したのかも知れない。
「なにしろ。…………良かった………。」
無くなってしまって、なくて。
みんなの、「想い」が。
誰かの、「祈り」が。
消えてしまうなんて、そんなの寂し過ぎる。
それに。
私は、「祈り」や「想い」がチカラになると信じて、いて。
だから。
きっと、デヴァイも、繋がるし、繋げるし。
きっと元々は、全部。
「ひとつ」だった、筈なんだ。
チラリと紺色の夜空を確かめ、あの青の街を思う。
ラピスとデヴァイも、繋がって。
だってもう、ここは繋がってるし?
もう、一息で?
いやいや、他の家も確かめないと………。
でもウイントフークさん、いいって言うかな………。
湯煙に見えなくなる窓、見上げた枝は暗く、くっきりと葉の形が影絵の様に、見える。
でもな………。
駄目って、言われても……………。
「ちょっと。そろそろ、いい加減にしたら?」
「…………う、ん?うん、そうだ、ね。」
朝の声に、ハッとしてバスタブの縁を掴んだ。
危うくウトウトして、沈みそうになっていたからだ。
いかんいかん。
とりあえず、出なきゃ………。
そうして呆れた目の朝を見張り役に、再びノタノタと寝る支度をする事にしたので、ある。
うむ。
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