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8の扉 デヴァイ
ひっそりとある、色
しおりを挟むどうしてなんだ、ろうか。
何故?
隠されていたの?
それとも?
荒らされないように、自ら「閉じた」の?
どちらも正解のような気がする。
ただただ、純粋な祈りの光を浴びて、私の涙腺君は行方不明だったし。
でも、その「涙を流す」ことすら、気持ちよくて。
ただ、ただそのまま想いに任せて、泣いていた。
純粋な祈りの、場所。
ハーゼルは「どの家にも秘密の場所はある」と、言った。
どの、家にも?
これが?
それなら。
「繋がる」
多分、この、光ならば。
繋げることは、できるし。
できた、筈だ。
昔は?
できてたの?
でも。栄えてた、って?
結局歴史って、どうだったんだっけ…………?
ああ、有耶無耶であの二人が仲直り…?して?
うーーん?
でも。
とりあえず。
なにしろ。
「繋げれば、多分。大丈夫なので、あって。」
目を瞑ったまま、泣き独り言を言い始めた私に、フワフワが寄り添うのが分かる。
そのまま袖で、顔を拭き目を開けると正面に大きな子の大きな瞳が、あった。
「 そうだ 」
真っ直ぐに私の「なか」に、侵ってくる言葉、全てを映すその瞳の言いたい事が解って、言葉を飲み込んだ。
「なにが」「そう」なのか、訊きたい気持ちも、あるけど。
多分、そうなんだろう。
今私が考えた事が、「それでいい」という事だ。
「合ってる」「間違ってる」とかじゃ、なくて。
そうなるんだ。
それを、したならば。
どうなるのかは、分からないけど。
「でも。そうした方が、いいのは確かだよね?」
大きな緑と、下の小さな緑も確認する。
やはりフォーレストは普通のスピリットでは、ないのだろう。
それをあの言葉で確認した私は、そのまま真っ直ぐに、その瞳に問い掛けた。
きっと答えを、知っている筈だ。
この子は。
四つの緑の瞳は、「そうだ」という色を映してしっかりとそれを私に見せると。
そのまま、座っている私の横に、寄り添い寝そべった。
顔を上げ正面の窪みを眺める。
涙は止まっていたが、少し疲れた身体、息を整えようとゆっくりと呼吸を意識し、自分を「ここ」へ戻していた。
「ここは。誰でも、入れる訳じゃ無いんだ。赤でも知らない奴は多いし、ある意味俺がここを見つけたのも、偶然に過ぎない。長老達でも、もしかしたら知らないかもな?知っていれば………このままでは、なかっただろうな。」
「お前の他に知っている奴は、いるか分かるか。」
「多分、力が強くないと判別できないまじないだ。昔はもっと力が満ちていただろうから、もっとみんなが利用できたんだろうな。俺は誰にも話してない。知ってる奴がいるかも知れんが、そいつも黙ってるんだろうよ。なにしろここに、いるだけで回復する気がするからな?」
そのハーゼルの言葉に、振り返る。
落ち着いた紺色の瞳は、確かに先程よりはキラキラと美しく輝いていて力が漲っている様に、見えた。
「俺がどうしてここに連れてきたのかって言うと。あの人と約束したのもあるが、ヨルが来てから明らかにここから受け取れる力が増してる。」
「まあ、そうだろうな。」
勝手に返事をしている極彩色を横目に、「あの人」が誰なのか気になって質問する。
多分、あの人だと、思うのだけど。
「約束、って?」
少し苦い顔をして笑ったハーゼルは、水色の癖毛をクシャクシャとしながら話してくれた。
「あの、最初の時。俺はその日は当番じゃなかったが、セレベスが君のローブを掴んだ。そのまま、持っていたのがなんでだかバレたんだよなぁ。まあ、あの人だからな。ウイントフークのまじないは、一流だ。しかし流石に銀に収まるとは思ってなかったけどな?上手くやったもんだ。」
失礼な言い草に、キロリと睨んでみたがそれすら楽しそうに紺の瞳が細まった。
「ローブを返す時に、問題にしない代わりに俺達の知っている事は話すと約束している。それに、あの人は味方に付けとかないとヤバいからな。」
そう言って正面の千里をチラリと確認したハーゼル。
きっと「ウイントフークのまじない人形」という千里の事も、ただの人形だと思っていないのだろう。
しかし、そう警戒する様子もなく白い空間を彷徨き始めた。
「ヨルは、どうして。そうなんだ?」
突然、そう問い掛けられて一瞬訳がわからなかったけど。
多分、さっきまでの話からして私が「振り撒いてる」系の、話??
「ヨルが来てから力が増した」様な事を言った、ハーゼル。
さっきも私は「溢す」為に、廊下を彷徨いていたし。
パッと思い浮かぶアラルの部屋、あの時耳元で話してくれたベイルートは「この世界では裏が無い事が無い」と言った。
ハーゼルも、それが気になるのだろうか。
チラリと確認した紺の瞳は、ただ純粋に私の答えを待っている。
少し楽しそうなその色を確認して、改めて考えてみることに、した。
この人は多分、私の出した答えを曲解する事はないと分かったからだ。
でも?
「なんで 溢すのか」?
えーー。
なんでだろう。
「癒したい」も、なんか、違うんだよな………。
ぶっちゃけ、私は自分に「癒し」なんて大それた事ができるとは、思っていない。
あの時だって。
あの子達に、「この世のものとは思えない美しい光」を、見せる事はできても。
「癒せる」なんて、奢りだ。
「救う」なんて。
あの、造船所で幻の魚を見ながら、思ったんだ。
「この人達は、自分で立てる」って。
私が、手を差し伸べなければならない、そんな弱い、存在じゃないのだ。
みんなが、みんな。
自分で、立てるし、自分で立たないと。
意味が、無いんだ。
だから。
「癒したい」も、違うし?
「変えたい」………って、すぐ思っちゃうけど。
うーーん。
正直。
お店も、やってるけど。
きっと、面倒な相談が来たならば、匙を投げたくなるに決まってるし。
「嫌だって、言えばいいじゃないですか」とか、すぐ言っちゃうと思う。
だって「なんで従うのか」とか、「嫌なのにやるのか」とか、面倒だからスパッと終わりにしちゃえばいいのに、と思ってしまう私に相談役は向いていない。
ウジウジ悩む人はあまり好きではないし、面倒だと思ってしまうのも、本音。
私そんなにいい人じゃないしね…………。
それよ、それ。
「誰かの為に自分を犠牲にする」とか、無いし。
「基本自分優先」である、私が。
「置いて行けない」「連れて行く」
「光を溢す」「魔法の袋」
沢山の事をする、その、理由とは。
「えーー。やりたい、から、かな………?それをしないと、なんとなく気持ち悪いし、スッキリしないし?」
「だから結局。…………自分の為に、やるんだよね………。」
偽善なのかも、しれないけど。
自己満足なのかも、しれないけれど。
そうすることで、「私が」心地良いし、スッキリするし、そうして満たされた自分から溢れる「なにか」で。
また、誰かが。
満たされるなら、助けになるならば。
それが、1番良くない??
「………これぞ、循・環……………。」
隅の方から小さな笑い声が聞こえて来る。
大きな身体を揺らしているのは極彩色で、その豊かな髪はふわふわと揺れこの白い空間でキラキラと美しく反射している。
深い、紫に金茶、銀髪と灰青、所々に光る色はもう、何色なのかも判らずただ、美しい。
深い辛子色のシャツと調和したその姿に、自己満足しながら色を堪能していた。
千里の服は、基本私が作っているからだ。
「コホン」
背後から咳払いが聴こえ、振り返ると意外と近くに赤ローブがある。
私の言葉を聞いて、何を言うのかと思ったけど。
意外にも、ハーゼルはそれについては何も言わず入り口を指し示した。
「とりあえず、そろそろ。戻るぞ。ここは時間の経過が、分かり辛いんだ。」
そう言って差し伸べられた手。
少し迷ったけど。
チラリと確認した緑の瞳がそのままだったので、その手を取って立ち上がる。
そうして銀のローブを叩いて。
私達は、その場所を後にする事にしたのだった。
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