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8の扉 デヴァイ
隠された なにか
しおりを挟む「さあ、いいかな。」
そう言って先に、その奥へと入って行ったハーゼル。
赤ローブの水色髪が消え、無意識に紫の瞳を探していた。
ハーゼルが押して顕にしたその穴は、扉になっている大きな石が向こう側に消えポッカリと口を開けた入り口となっていた。
始めに見えていた赤黒い岩肌のまま、奥へと続くその穴は確かに如何にも秘密の場所への入り口である。
ワクワクと少しの怖さが混じり合う、その先の見えない空間。
無意識に撫でていたらしい大きな子の頭が脇から出てきて、緑の瞳とフワフワを確かめる。
そうして向かい側にいる、極彩色を見上げた。
「多分。………いや、行くぞ?」
「えっ?なに?」
言いかけて、止めた千里。
しかしこの含みのある表情、少し笑っている紫の瞳は面白がっているのだろう。
言うつもりは無いに、違いないのだけど。
でも、きっと私が好きそうな場所なのではないか。
表情からそんな気がして、幾らか気は緩んだがしかし。
実際はピッタリと極彩色の後ろに付いて、進んで行った。
いくら楽しそうだと、言っても。
赤黒い穴の先は、全く見えなかったからだ。
右手にフワフワ、左手にはシャツの裾。
しっかりと安全確保をした私は、幾分リラックスして見えない穴へ突入した。
しかし。
その、見えない空間は一瞬で終わりを告げ、いきなり明るい空間に出る。
突然の明るさに目を細めたが、その奥にあるものを見るや否や、パッと握った裾を離して駆け出していた。
「えっ。何これナニコレ。ちょ、眩し………って言うか、何、ここ?確かに………秘密の、場所っぽいね??」
ぐるりと見回し、確認する。
あの暗く何も見えない入り口は、まじないに違いない。
そう移動していない、その先にあった場所は。
なんと、真っ白の「祈りの場」であった。
いや、多分だけど。
きっと………祈る為の、場所、だよね………??
是迄とは全く違う、優し気な白い岩肌、くり抜かれたような丸い天井。
小さな部屋程度の大きさのこの場所は、大人であれば十人も入ればいっぱいだろうか。
正面にはアーチ型にくり抜かれた祭壇の様なもの、その前には供物でも置くのだろうか、長細い台がある。
勿論、それも白い岩だ。
椅子などは何も無い、ただ、それだけの空間。
絵も、像も、石も。
所謂「祈りの対象」となりそうなものは、何も無く。
ただ、静かに白い、静謐な空間だけがそこにある、様。
視界の端で水色の癖毛を少し揺らした彼も、揶揄う様な様子は形を潜めていて。
ただ、その紺色の瞳でこの空間にいる、私の事を見ていた。
正面の祭壇より右側の壁に、黙って寄りかかり私を見ているハーゼル、極彩色は一通り空間を確認すると、徐ろに反対側に陣取った。
えっ。
なに?
とりあえず、見ていい、って事だよね?
二人ともが、黙って私を見ている。
紺色の瞳は「さあ、どうぞ」という顔、反対側の紫を確かめると、黙って頷いて。
そうして、その瞳を閉じたのである。
えっ、大丈夫?
寝て………は、無いか。
もしかして時間かかると思ってるから?
あり得る。
まあ、見てない様で見てるって事なんだろうけど。
ハーゼルだけは、腕組みをして静かに私とフォーレストを交互に見ていた。
「ちょっと、相手しててくれる?」
「お安い御用 」
小さな声で話し掛けると、そう、大きな子が言ってハーゼルの方にトコトコと歩いて行った。
だってじっと見られてると、見辛いよね………。
そうしてハーゼルが少しフォーレストに驚いているうちに。
ゆっくりと探検する事にしたのだ。
探検とは、言っても。
めっちゃすぐ、見終わるけどね………?
なにせ、何も無い空間である。
ただ、なんとなく「なにか」の雰囲気だけは、感じられて。
「その雰囲気がなんなのか」確かめたかった私は、とりあえずこの空間をぐるりと眺め正面にアタリを付けた。
その他の空いたスペースを浚ってみても、特段何も感じられなかったからだ。
優しい曲線を描く空間の真ん中に立ち、正面に祭壇を見据えた。
自然と肩の力が抜けて、リラックスしてくるのが分かる。
真上には柔らかい白、人の手で削られたであろうその岩肌はただ優しくそこに在り、この空間にいる者を包み込んでいるのが分かる。
そこから繋がる、白い壁も。
少しだけ凸凹が残る、白い地面も。
ここって。
「なんにも無い」けど。
「全部」、「ある」な?
完成されたまあるい空間を感じ取った私は、とりあえずそこに座った。
そうしてただ、上を見上げて。
この、「場所」、「空間」を感じていたのだ。
いつの間にか目を瞑っていた。
目を瞑っていても、瞼に映るは白い、空間。
きっと自分の「なか」にも在るであろう、その白をじっと受け入れながら、ただ待っていた。
「なに」を待っているのかは、分からなかったけど。
多分、きっと。
そうしていれば、いいという事だけは知っていたから。
暫く待っていると、瞼に「色」が映り始めたのが分かる。
うん?
なんだ、ろうか。
ちょっと寝そうだったわ………ここ、めっちゃ気持ちいいんだもん………。
半分ウトウトしそうだったが、目の前に光の色がぼんやりと浮かび始め何が始まるのかとワクワクしながら待っていた。
その、色は。
「なにか」になることはなく、ただ色の組み合わせとして存在している。
少し変化を見守っていたが、「なにか」になる様子はない。
うーん??
具体的な、もの、とか生き物になる感じじゃないのかもね………?
しかしその色の組み合わせは、柔らかな光の柱となりこの空間の所々に存在しているのは、解る。
ただ、そこに在る、光。
其々の、色。
それは皆一様に優しい色をしていて、それに囲まれていると私の中にパッと浮かんだ言葉があった。
「みんなの 祈り」
ああ、成る程。
やっぱり?
ここは、祈りの場所で、みんなが祈った「想い」、「優しさ」、「其々の色」が。
こうして、今も残ってるってことなんだ………。
そう、自分の中に堕ちた、瞬間。
光達はふんわりと拡がり靄に変化し、パァッと一瞬、光を発するとそのまま消えてしまったのだ。
あっ。勿体無い。
自分の瞼から消えてはしまったけれど、それが無くなった訳ではない事は、解る。
きっと。
私に見せるために、こうして降りて光ってくれたんだ。
何故だかそれが解ると、いきなり涙が溢れてきて。
自分でも驚いたが、ただ、流れるに任せてそのままそこに、座っていた。
その、涙が落ち着くまで。
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