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8の扉 デヴァイ

銀の二人

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「答えたくなければ構わないが。」

「なんだ。」

「そもそも、あの礼拝はなっている?礼拝堂に「あの絵」は、無い。それぞれの家にあり、毎日の祈りは捧げているだろうが一番大きな力が集まるのは月に一度の礼拝の筈だ。」

「………。」

「………知っているのか?」


冷たく白い、図書館の奥。

静かに銀の連中が仕事をする中、俺はいつもの様に扉の隙間からスルリと忍び込んでいた。

今日も色々と調査に来ていたのだが、あまり芳しくなく帰ろうかと思っていた、頃。
あの小部屋へ入って行く男二人を見つけた俺は、ひっそりと天井の無い部屋の上に留まっていた。

特に人目を避ける訳でもない二人は、今ここに居る人物を把握しているからだろう。図書館にはこいつらの家の許可が無いと入れない為、辺りを警戒する様子は無い。
まあ、警戒されていたとしても俺を見つけるのは至難の技だろうが。

そこへ、丁度良い話題が始まった。
壁の上を移動し、声がよく聴こえる場所へと陣取る。
ウイントフークですら首を捻っていた件の真相が掴めるかと、期待を込めてじっとしていた。


「この前も話したが、父が急に亡くなったからな。私にも分からない事は多い。だが、ある程度予想できる部分は、ある。」
「なんだ、話せないのか。」

「………本当に?聞く、のか?」

が、来たという事なのだろうよ。あの娘を見た時、お前は解ったんだろう?僕は父の反応で確証を得たがな。」

「まぁな。誰にも見せた事は無いが。家には、「絵」も、ある。」

「ほう。それは「消えた方」の?」

「そうだ。ユレヒドールの館にある、あれの娘。父が死ぬ迄執着していた、あの。」

「………そうか。まあ、それは気が向いたら見せてくれ。それで?祭祀から、どんな影響がある。アリスに倒れられても困るんだ。爺さん連中は大分、様だな?」

「まあな。お前の父の事を訊かれるぞ?大丈夫なのか、そちらは。…こちらは私が居らねば礼拝も滞る。それだけは、避けなければならない。今、あの祝詞を継いでいるのは私だけだ。父から絶対に「絶やすな」と言われている。」

「やはり…、のか?止めると、どう、なる?」

「具体的になるのかは分からないとしか、言えないな。ただ、「保たない」とは、言われている。「絶やせば、崩壊する」と。」

「「いつ」からそうなのかは、分からない。判らないが、ずっと以前から、…長い間だろうな。私たちは。この世界を維持していると、のだがな…………。」

「前提が。崩れる、という事か。」


暫く、声が止んだ。

筆談かまじないでも使っているのかと覗き込むと、ただ考え込んでいる金茶の癖毛が見える。

「考えたくは、なかった。」

「が、しかし。が、来た、という事なのだろうな。お前の言う通り。」

「二重に、もしかすると三重に。隠されている、いや欺かれている、ということなのか………。」

「しかも、「誰に」という所だな。」


見つめ合う男達、意味の分かっていない俺はなんとも言えない気分でそのままじっと待っていた。


「私は。長老達の中に、真相を知る者がいると踏んでいる。若しくは近くにいる者。だが、簡単に口は割るまい。」

「お前もだと、爺さん達は思っているだろう?」

「………何と言ったらいいのか。私が父から聞いていない事を、感付いている者もいるだろう。長老達も、馬鹿じゃない。下手に探りを入れるのは不味いんだが、お前を巻き込むのも………。」

「ここまで来たら、もう話せ。一人でどうにかできる話じゃないから、僕に話したのだろう?」

「それに。多分、ここは変わる。いくらあの爺さん達が足掻こうとも、逃れられない流れというものは、あるさ。」


大きな溜息、椅子の軋む音。

暫くして、一段低くなった声が、こう告げた。

「力の行き先は、長の所ではない。」

「…………は?」

「その「本当の行き先」を知る者がいるのか、いないのか。そこからかも知れん。しかし年寄り連中に、どう口を割らせるか………。」

「第一位の権限で、何とでもなるのでは?」

「私にごり押しされた程度で、話せる内容だといいんだがな。」

「そこまで言うか………誰が…いや、「何」が関わってる………?」

「とりあえず一度家へ来い。多分、、解る。」

「「見れば」?………見たい様な、見たくない様な。」
「もう、決めたのだろう?」

「まぁな。」

「ならば仕方が無いだろうな。なにしろ鍵はあの娘だろう。精々仲良くしておく事だ。できればきちんと、お前のものにしてくれるといいんだが。」

「…………。」

「まあそれはいい。しかしそう、長くは保たない。使いたくない手だが、実力行使せねばならんかも知れん。」

は力で、どうこうできる娘ではないんだ。」

「うん?長老達の話だったんだが………。ふぅん?」
「なんだよ。」

「いいや。そっちは任せる。」


「…………しかし祈りの先が、長でないならば。力は、何処へ?長はただ、そこへ居るだけなのか?」

も、訊かねばならないだろうな。しかし、役目はきちんとこなしている。本当ならばもうとっくに死んでいてもおかしくない年齢だ。不死に否定ができないのは、その点もあるし「向こう」へ行けるのが長だけだという点も、ある。只人が行って無事であるという、記録は無い。」

「それも第一位の家だけに伝わる話だ。とりあえず検証のしようが無いな。」

「しかし礼拝での力は何処か別の場所へ飛び、毎日の小さな祈りはきっと長の元へ届いているのだろう。それでなければ保つ筈がない。」
「どうにかして力の行き先を探れないのか?」

「それは私の管轄では無いのだがな………やれるとすれば。」

「しかし。漏らすは訳には、いかないだろう?」
「考えておく。は、頼む。」

「…………解った。」


は、あいつの事じゃないのか。

チラリと頭に白衣が過ったが、二人が立ち上がり慌てて頭を引っ込めた。
多分、そのままでも見つからないとは思うが反射的にそうしてしまうのだ。


「しかし………ふぅん?よく………まあ、いい。あの娘は私には眩し過ぎるがな。お前は気に入っているのか。泥沼には、嵌るなよ?」

「大きなお世話だ。」

そうして気になるセリフを残し、男達は小部屋を出ると左右に分かれ本棚の間に消えて行った。

俺は会話の内容を反芻しながらも頭を悩ませていたが、余計に頭が混乱しそうな気がして思考を止める。

そのままそっくり、伝えた方がいい。

そう判断すると、記憶が薄れる前にと出口を目指し飛んだ。


靄に包まれた様な話の内容が、かき消されない様ゆっくりと、だがな。



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