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8の扉 デヴァイ

夜の森

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"アンタが一番大切なのは「いつ」なのか、それをよーく考える事ね。"


私の事をよく、解っている朝が言った、この言葉。

それをずっと反芻しながら、今私は森の湯煙の中である。


遠くに見える、星の明かり、一際高くあるあれは中央屋敷だろう。

「そうしたら………あの辺りが教会かなぁ………。」

もう、ティラナは寝ている時間だ。
ハーシェルさんは多分、起きてる………。

危険な事を思い出してしまったのだが、丁度朝の言葉が降ってくる。

「いつが一番大事なのか」

そう、言われると。


きっとハーシェルやティラナにも、会わないかも知れない。

エローラやマデイラ、ロランのカップだって手にしないし、そもそも姫様の服も探さないかも、知れない。

……………と、いう事は。


おばあちゃんの部屋の、引き出し。

その中に入っていた、マトリョーシカ状の箱、そこに収められていた、美しい黄色の石。


 「惣介に貰ったものだって言ってたわよ」


パッと蘇る朝の声、なんとなく「なにか」が分かりそうな気配がした所で、ピシャリと雫が落ちて来た。

「冷たっ!」

見上げると、「ごめん」という様に枝を揺らす木がなんだか可愛い。

「大丈夫。」

そう言って再び窓の景色に視線を移すが、頭の中は星空に戻っていた。

頭の中を掠めた「なにか」は、形を潜め再び懐かしい二人の顔が浮かぶ。


「…………が、大事、って言われちゃうと、なぁ…………。」


 いつ なのか

 だれ なのか。

それも、あると思うけど。


でも多分。
自分でも、解ってるんだ。

時間ときを紡ぎ直すなんて。

は、駄目だし、違う。

やってみたなら案外、上手く行って、一件落着なんてするかも知れない。
みんなが、ハッピーエンドになる方法だって、めっちゃ頑張れば。

あるのかも、知れないけど。


「なんか…………なんだろうな…………「なにか」が、違うと言ってるんだよね…。」

を、紡ぎ直す事を想像したならば、何故だか胸が、モヤモヤするのだ。


 「それは だめ」

きっと私の「真ん中」が、そう言っていて。

だから、モヤモヤするし、理解もできるんだろう。

それでも私の中にある、「やりきれない想い」は。

少しだけ、影を齎して。


「これは………仕方の無い、ことなのかもね…。」

「でも………熱い。」

とりあえず、バスタブから出る事にした。
内容が内容だ。

すぐにスッキリするとは思えないし、ここでこのまま、ぐるぐるしたならば。

「いかん。」

そうしてゆっくりと立ち上がり、身体を拭き始めた。




「なにしろ私には癒しが、必要かも。「空」もいいけど、「水」も欲しいな?」

「あらあら、今度は。どれだけ溢すつもり?」

髪をトントン拭きながら、溢す私に青の鏡はそう返す。
揶揄う様な口調だが、なんだか声は嬉しそうである。

しかし「やりきれない想い」をスッキリする為に、想いを「飛ばす」のは何かが違うと私の真ん中は、言っていて。
だから、蝶にするのも何かが、違う。

多分、私の中から「出す」のではなくて。


どちらかと言えば、優しく。

包み込みたい様な、感じ………??


「謳う、か………?すっきり、踊る…って気分じゃないし………走る………うーーーーん?」

「手が止まってるわよ。」

「ああ、うん、ありがとう。」

そのままボーッとすると、風邪でも引きそうである。
夜の森は、やはり肌寒いのだ。

青の鏡に度々茶々を入れられながらも髪を乾かし、とりあえずはベッドへ向かうことにした。

「ありがとう、戻るね。」

「おやすみ、良い夢を。」



「うーーん?夢、か………。」

パタンと緑の扉を閉じ、なんだか意味深なセリフを繰り返した。

いや、でも。
他意は無いのかも、知れないけど。

時折夢に出てくる、白い部屋、ディディエライトのこと、きっとあの鉱山で聞いた、「女の人」のこと。

多分、だろう。

私の真ん中は、そう言っていて。


あの時、「カチリ」と何かが嵌った私の中身、その「なか」にはあの女の人も加わったのが解るのだ。

何故なのかは。

全く、分からないけれど。



「名前…………名前、言ってたんだよね…何だったっけな?」

その「名」と声、名を呼ぶ男の人の、声。

が自分の中の「なにか」に重なった時、きっとああなったんだ。


 「繋がった」

確かに、そう思ったしフォーレストも。

そう、言っていた。


「問題は「なにが」繋がったのか、ということなのだよ………。」


ゴロリとベッドへ寝転がり、再びの天井を眺め始めた。

今日は星図のビロード。
その濃紺の美しい海の中でも、小さな星を煌めかせ私の目を楽しませてくれている。

チラチラと瞬く星達を眺めながら、フウッと息を吐いた。


「これまた、分かんないやつじゃないかな………。」

なにしろ私の中に増えた、その女の人はきっと繋がりがあるだろう事だけはハッキリと解って。

それならば。

きっと、時が来れば自ずと、知れるのだろう。
これ迄の経験から言っても、それは間違い無い。

最近、ディディエライトの夢に紛れ込んでくる、別の人の夢、それが。

きっと、「その人」だろうと私の真ん中は教えてくれている。
それなら、このまま成り行きを見守るしか、ない。


私の中に、誰が居ようと、私が誰で、あろうとも。

やることは、一つで、同じで。

それも、安心材料のうちの、一つなのだ。


きっと「なにか」が「集まってきた」ことで、解る様になった「真っ直ぐ進めばそれでいいこと」、それは確実に私の足元を固め始めている。

ずっとずっと、みんなに言われてきたことが「それでいいんだ」と、肯定された様で。

それも、嬉しかった。

何も知らない、見えない、隠されている、この世界で。

「道標」が、示された事程、頼もしい事は無いだろうから。


「うん、とりあえず………水、どうしようかな………。」

「もう、寝ろ。」

うん?
あれ?

いつの間に、来たんだろう?


すぐ側に感じる温かい色、馴染んだその色に安堵し一気に眠気が襲ってくる。

緩く、微かに触れる長い指、髪を梳くそれが心地良過ぎて。

暫しの抵抗を、試みたのだがきっと無駄に終わったのだ。


目が、覚めたら。

一人、揺れる天蓋の房を眺め、足元の温もりを感じていたからだ。


あーあ、勿体無い………。

そう、思いつつも。

フワフワの毛並みを足で撫でると、予想通り叱られたのである。

うむ。

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