透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

指輪

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もう既に、生成りの絨毯は、見えない。


灰色の毛も半分程は埋もれている中、じっと座っている朝の前に蹲み込んだ。

「どうぞ」そんな顔をして私の前に座っている、この猫は。

私の。
朝だ、よね?

知ってたの?
に、なにかが入ってるって。

確かに。
あの時。

「何か硬いもの」が、入ってるなぁとは思ったけど。

まさか。


それ以上は考えるのを止めて、青のリボンを解く。

それを見て満足そうに頷いた朝は、そのままピョンと金色の背後へ行き丸くなった。


私の手のひらには、フワフワの綿の様なものに包まれた、硬い「あれ」。

多分。
あれ、だよね…………?

未だ衰えない輝きと、ほんのりとした暖かさ、何故だか懐かしい気すらする、その「なかみ」は。


えっ。
どうし、よう。

「一人で見たい」

チラリと過ぎる、後ろめたい感覚。

でも。

ギュッと握って、確かめる。

「これ」は。

怖いものでも、ないし。

「私からあれを奪うもの」でも、ない。

だから。

 
 大丈夫。


大きく深呼吸して、くるりと振り返った。

そこには、私をいつでも見つめる、金の瞳。


 やっぱり。一緒に。見よう。

そう、思って。

いつもの様に、金色の膝の間に、収まった。





しかし、私はモタモタしていた。

案の定、開ける決心がつくまで手のひらを開いては閉じ、閉じては開いている私を、辛抱強く待っている金色。

いや、この人は急いでいない。

ただ、私の中が整うのを。

いつでも、待ってくれるのだ。


チラリと確認した何度目かの金の瞳で、開けることを決めた。

中身は、

から、躊躇ったのだけど。


そうして私の指でよじよじと開けられたその、綿の中身はやはり、指輪であった。

隙間から見えた、乳白色の煌めき、虹色にも光るその色は、見慣れた


そう、私達の。
まじないの、色、そのものだったから。

その、色が私の目に入った瞬間、光はスッと消えて無くなりただ、石そのものの煌めきだけが、残って。

なんとなく、自分に「馴染んだ」ことが分かった私は、安心してその中から指輪を取り出したのだ。

そう、きっと。

ディディエライトが変化した、その石、セフィラに受け継がれた白、そして。

「うん?」

私の所まで、届いた、この「しるし」の様な指輪を。





その、手にある美しい指輪を見ながら、つらつらと考えていた。


結局、あの後スピリット達を解散させ「後で」と言い残し帰って行った金色。

確かにずっと、私といる訳にはいかないのかも知れない。
少し寂しかったが、指輪を手にした私は「一人じゃない」という不思議な感覚に包まれていて、安心して金色を見送る事ができた。

その後も様子を見に来たウイントフーク、忙しそうに飛び回っていたベイルートに「ふぅん」と言っただけの、千里。
色んな人が入れ替わり立ち替わり部屋をチェックしに来たけれど、もう殆どキラキラの消えかかった私の部屋に、見るものはほぼ無い。

「暫く大人しくしてろ。」

夕食後にそう、言い渡されたのだが流石に私もこの変化の多い状況について行けてはいなかった。


「大人しくしてるしか、まあ、ないよね…。」

ベッドの上、寝転びながら指輪を眺め独り言だ。

勿論、本部長には見せていない。

少し迷ったけど。
本来、姫様のことは秘密だろうし、金色が「何をどこまで」話したのか、知らない私は何も言わない方がいいと思った。
確実に、ボロを出す自信があるからだ。


「それもどうなの、って感じだけど。仕方無いよね………。」

掲げた指輪をキラリと反射させる。

そう豪華な作りではないこの指輪は、おじいちゃんがセフィラに指輪にしてあげたからだろう。
だからなのか、手作り感溢れる銀の指輪は、程良く指に馴染んで始めは嵌めることを躊躇った私の指に自然と馴染んでいる。

そう、始めは嵌めることができなかった。

なんだか「いけないこと」の様な、気がしていた私はとりあえず、指輪を観察することから始めたのだけど。

じっと、眺めているうちに「嵌めた方がいい」事に、気が付いたのだ。

 その方が、きっといい。

私の「なかみ」が、そう告げていたのだ。


それに。

「これって、まじない道具なのかな………。」

そう、なかなか目立つ、この指輪を嵌めた後。

夕食に呼ばれた時に外そうと試みたのだが、一度ピッタリと嵌った指輪はあの靴と同じ様に、私に馴染んで。
抜けなくなってしまったのである。

それから諦めて夕食へ向かったのだが、意外な事に誰も「これ」には気が付かなかった。
本部長がこれを見て、無視できるとは思えない。

だから、「見えない」と思っていて問題ないだろう。

なにしろ目立つ、この指輪が外せないならば困る場面は沢山ある。
困らない場面を探す方が、難しいだろう。

兎に角満足そうに、私の指に収まっているそれが、とりあえずの問題にはならなそうでホッとしたのである。


「ふぅ」

大きく息を吐いて、パタリと腕を下ろした。

今日天井で輝いているのは、星達と星座である。

またピカピカと光らないか少しドキドキしたものの、指に嵌った「それ」の感触を確かめながらなんとなく現状が腑に落ちてきた。


多分。

「これ」が、私を呼んだ?

でも?

あの時、鉱山で見つけた、訳じゃない。

あそこに行って、「なにか」が「カチリ」と嵌って。

私の中が溢れ出して、あの人が青くなって。

うん?
アレ、なんでだろうな………?
今日は結構普通だった気がするけど………??

え、どこからだろう?


私の予想が、当たって金色がグレードアップして…
鉱山に行って、何かが嵌って
キラキラが溢れ過ぎて
落ち着いて?
また、溢れ出して?

それで、朝が光って………?

うん?

「何かが嵌った」から、光ったのか。



   「時が来た」



時折、誰かが自分の「なか」で叫ぶ、この言葉。

夢なのか、なんなのか。

分からなかったし、覚えていなかったけれど。


 今、自然と思い出した。


ジワリと拡がる、自分の中の新しい、色。
少しずつ沁み込んでくる、懐かしい様な感覚。

ずっとずっと、「なにか」に呼ばれていたこと。

いつでも私の背を押してくれているもの。

私の中にある、「真ん中」「芯」の、様なもの。


 それは。


 なんの、声 なのか。




暫く、星座を眺めて、いた。

ぐるぐるしている様な、していない様な。


でも、多分。

「これ、。分かんない、やつだわ…………。」


しかし。

なにしろ。

私には、収穫が一つ、あった。


ずっと「それだけでいいのか」「足りなくないか」「そんなことでいいのか」不安だった、こと。


ただ 自分が「光を溢し、謳い、飛ばすこと」

それに対しての不安は、少しも無くなっていた。


 「それでいい それだけで いい」


私の真ん中は、確実に言っていて。

何故だかスッキリとしている自分の中、しかしそれは嬉しい事でもある。

「それだけで本当にいいのか」、それは。

ここの所の私のぐるぐるの大部分でも、あったからだ。


「なにしろ、が分かれば。」

パッと身体を起こし、ベッドから下りる。

「問題は、半分解決した様なものじゃない?」

「喜ばしいこと。」

部屋の隅からいつもの返事が来て。

クローゼットへ歩き、フワフワの毛並みを撫でると着替えを準備して緑の扉を開けた。


「もう、今日のぐるぐるはお終いでーす。」

そうして自分の脳みそを甘やかす為に。

いつもの癒しの森へ、足を踏み入れたのであった。

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