透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

私と 世界

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明くる日の、朝。

朝から私を確認しに来た金色に抱えられ、何故だか髪を梳かれている、私。

しかし。
私になんら、不都合は無い。

寧ろ、この頃心配かけ通しであろうことを申し訳なく思っていたので、ここぞとばかりにゆったりと腕の中で微睡んでいた。


この腕の中にいると、ホロホロと溢れてゆく金平糖、しかし自然と絨毯に染み込むその様子。
この頃は空間自体が私の様子に慣れた様で、上手くチカラを活かしてくれているのが分かる。

自然と屋敷の中に増えるスピリットと、キラキラと元気そうな皆、本部長のご機嫌具合。

きっと良い働きをしているのだろう。
それならば。
私がここで、癒されていても何の問題も無いのである。

うむ。


しかし。
こんなに沢山、溢したならば。

自然と「外」が出来たりとか、しないかなぁ…………??


「窓も、出来たし。………うん。」

ゆっくりと、髪を滑り落ちる、指が気持ちいい。

「きっと、空も。………うん。」

いつもの様に、私の独り言に返事をする者はいない。

金色は基本、聞く係だ。
滅多に返事は、しないのである。


「そもそも「外が無い」、なんて。思い込みじゃ、ないの?」

しかし、そこまで私のぐるぐるとした独り言が進むと意外な所から返事が、来た。
猫用扉から入って来た、朝だ。

「まあ、そうとも言うだろうけど。でも、問題は「あるかないか」じゃないんじゃない?」

「どういう事?…………あ、そう、か………?」

途中で入って来た割には的確な返事をくれる朝に、私のぐるぐるが加速する。


多分。

確かに実際、「あるのかないのか」は重要じゃ、なくて。

「無い、と思ってる、思い込んでること。…それか?」

「まあ、そうでしょうね?それに、案外ホントはあるのかもよ?ホールに行ってみなさいな。」

「えっ、何それ。まさか?!」

まさかの、ホントに??

「静かに行きなさいよ?まだ………ああ、無駄ね  」

背後で何か聞こえたけれど、それどころじゃあ、ない。

私は朝の言葉が終わる前に、扉に手を掛けたのだが背後から追い付いた金色に抱き上げられて。

何故だか、そのままお姫様抱っこでホールまで行く事になったのだった。

うーーん。

解せない。





しかし私を抱えていても、金色の足は速い。

あっという間に青のホールに着いた私は、更に変化したその光景にただ、唸る事しかできなかった。


「うーーーーむ。」

「ほーーーー。」

「はぁーーーーーーー。」

「ねぇーーーーーー。」


「何アレ。」
「………。」

「ごめん、いつもの事よね。訊いたのが間違いだったわ。」

きっと追って来た朝の失礼な声が聞こえるが、金色が相槌を打っていないだけマシとしよう。


そう、やはり。

「外」は、あった。

いや、「出来ていた」のか。

きっとこの頃溢れていた私のキラキラで完成したであろう、その空は。

青かっただけの、これまでと違い実感を伴う姿に変化しているのが、判る。

角にある窓も、嵌め殺しではなく開けられる様に変化しているし、何よりそっと開けてみたその、空からは。

爽やかな風が吹き、雲が流れ、スピリット達が舞っていたからだ。


色とりどりの鳥達、私の蝶も混ざり楽しそうに空を舞う姿は、えも言われぬ美しさである。

ただ、窓を開けたそこには「空」しか、無くて。

いや、それだけで、いいのだけれど。

「ちょっと、出てみたかったんだけど………。」

そう、グロッシュラーの断崖絶壁の様に窓の外には何もない空がただ、拡がる空間なのである。

きっとそのまま、足を踏み出したならば。

「落ち……………うん。」

そうしてパタンと、窓を閉じたのだった。


しかし諦めきれなかった私は、チラリと金色を確認する。

だって、この人ならば。
きっと、この外には出られるだろうから。

だが金色に、その気は無いらしい。

「また、来る。大人しくしていろ?」

そう言って、そのまま通路へ消えてしまった。


「依る、とりあえず色々試すのはもう少し分かってからにしなさいな。あそこにでも行って、ゆっくりしましょ。」

「…………うん、まぁね。」

ピコピコと揺れ魔女部屋への通路へ消えた尻尾。

朝は昼寝がしたいだけではないだろうか。
まあ、いいけど。

そうして私も、気分転換も兼ねて青の廊下へ進んで行ったのだ。




お天気の空はここでも、鳥達の姿が確認できる様になっていた。

窓際のハーブ達も、楽しそうである。

「いいわねぇ、やっぱり」
「外へ行きたいわ」「ねえ」
「そのうち」
「ああ」「いいね 」

期待の声を聞きつつも、私のぐるぐるは同じ所を回って、いた。


「なんで「無い」と、思ってるんだろう………。」

ポツリと出る、その疑問。

そもそもが。
前提が、分からない。

「始めから無い」から?
でも…………男の人は、グロッシュラーへ行くんだし………。
知らない訳じゃ、ないよね………?


「仕方無いわよ。「信じる」事には、「勇気」が必要だもの。特に、この環境じゃね………。無いと思っていた方が、楽な事は多いんでしょう。」

「うん、まあ。言いたい事は、解る。」

長い、長い間。

ずっとこの閉鎖された空間で、過ごしてきたならば。

それが「当たり前」で、疑問すら抱かず疑問を抱く事を許されていなかったと、したならば。


「うーーーーーーーーーーーーーーん。」

「長いわよ。」

「うーーーん。」

「そのくらいね。」

「何の話。」

クスクスと笑いながら、バーガンディーへ沈み込んだ。

笑い事じゃあ、無いんだけれど。

笑いでもしなきゃ、やってられない時もある。

「勇気、ね。勇気………。」

四角に区切られた豪奢な天井を眺めつつ、子供達の事を思い出す。

あの子達に、降ったものは。

「希望」だと、思ったけれど。

「勇気と、希望って。違う、よね………?希望………より、難しい………??もしかして。」


なんとなくだけど。

人にも、よるんだろうけど。

「希望」迄は、持てても。

「勇気」は。

結構、難しい、様な……………?


「えーーーー………。なんだ、ろうな………?」


全く、思い付かない。

しかし、そんな私に優しい色が届いた。


「貴女の溢すものが、になりますよ。」

いつの間にか魔女部屋の隅に居る、優しい緑の瞳が、そう言って。

慰めてくれているのか、でもきっと本心でも、あるのだろう。
スピリット達は、私からの「なにか」でチカラを貰えるらしいから。


人間ひとも、そんな簡単だったらいいんだけどな………。



  「決めつけているのは 誰」


「うん?」

ふっと、頭に響いた、声。

「ん?朝?今、なんか喋った??」

「いいえ?何も。」

目も開けずに尻尾をピコピコしながら返事をしている朝。
きっと本当だろう、すぐにまた昼寝に戻った様である。


「決めつけている」「誰」?

えっ。
私?

何を?



「あっ。」


  「できない」って。

確かに、今思ったわ………。


「えっ、でも…………。」

人間ひとも?

この、キラキラ?
金平糖で…………?

元気に、なっちゃう…………??


「まあ、不可能ではないだろうな。お前は石が創れるんだ。そうおかしくはないだろう?」

「ひゃっ!!………っくりしたぁ。いたの?」

「始めからいたけどな?気が付かなかったのはそっちだろう。」

いきなり文机の前から声がしたので、飛び上がってしまった。

どうやらその椅子で昼寝をしてたらしい極彩色。
すっかり姿が見えなかったので油断していた。
それに、いつもは傍観しているこの狐が口を挟んでくるとは、思っていなかったのもある。

珍しく千里がアドバイスをくれるなんて。
なんでだろう、有り難いけど怖いんだけど。


でも。

確かに。

私は、癒し石を創るし。

キラキラは、スピリットの、金色の、チカラにもなって。

魔法の袋は、勿論癒し効果が、あるし。


「うん…………?だから?やっぱり………???」

「そう、ただお前はいいんだよ。」

「言い方………。」

キロリと睨んでみたけれど、どこ吹く風の極彩色は既に扉を出る所だった。

チラリと見えた、その尻尾の端がキラリと光って。

「そうだ」と。

肯定してくれている様に、見えた。


やっぱり。

なの?

、とは思ったけれど。

未だ、半信半疑が抜けない私に。


「もっと、信じて、大丈夫」だと。

言ってくれるのだろうか。

みんなが。



窓から見える澄んだ青い空は、今やまじないではないその青をぐっと私に近づけてきて、胸の中に侵って来る。

それはしかし、ストンと私の「真ん中」に、落ち着いて。

「ああ、そうなんだ、いいんだ。それで。」

そう、私の頭、すぐに暴走し出すぐるぐるに言い聞かせている様である。



結局、いつも。

何度も、何度も。

進んで、戻って、回ったりしてまた、進んで。

右往左往して、戸惑って立ち止まったりしていても。


それでも。

いつでも。


「こたえ」は、一つだった。


「私」は「私」の「真ん中」で。

「真っ直ぐ進むこと」

「美しいものを見ること」

「美味しいものを食べいい香りを嗅ぐこと」

「心地良く在ること」

「そうして色付け 溢すこと」


やってる事は、何一つ変わっていないんだ。

始めから。

ずっと、ずっと。


あの、青い街を出発してから、ずっと。


それを思い出して、また胸がキュッとなる。

窓の外、自然な青が齎したその、色。

始めからそこに在る、きっとどこにでもある私達に力を齎してくれる、その青だ。


だからきっと。
大丈夫。


静かに上下する灰色の毛並み、部屋の隅には白いフワフワ。

サワサワと何かを噂するハーブ達の声を、聴きながらホッと息を吐く。

そうして。
きっと、安心したであろう私も、うっかりと眠りについたのであった。

そう、いつも通りに。
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