透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

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ラピスの小部屋にあった、裁縫道具。

その中にあった、綿に包まれた指輪。


腕輪と指輪をして、鉱山に石を埋めに来ていたセフィラ。

姫様が落としたという、服と指輪、靴。


そして。

光を放ち、私に「ここだ」と知らせた、あの「名」と「声」。

そして私の「なか」に、感じるこの「色」と同調する「想い」、幾つもの記憶が繋がる感覚と「知っている」こと、求める「同じ」あの。

あの、ただ一つの、ものとは。


「…………全然、分かんないけど、解るんだよね………。」

「何それ。まあ、そうなんでしょうけど。」


全く繋がらない時系列に頭を悩ませつつ、しかしなんとなくこの指輪の「なか」にセフィラのカケラがあるのは解って、ホッとした私。

だって、ずっと。

「あの子、いない」って。
言ってた。

きっとセフィラを探している筈なんだ。


どれもこれも、自分の中に「ある」から分かる、この気持ち。

「何もかもを持って行きたい」という、自分の思いによって、私はその中で溺れている様で、ある。

「自分」の中の、「セフィラ」、「ディディエライト」、「鉱山の人」がごちゃ混ぜになってすっかり混乱しているのである。

でも。
其々の「想い」は、全然違うから、混乱してるというよりは消化し切れない、に近いのかもね………。


ぐるぐると混乱する頭を鎮めようと、ゴロリと横になった。

そうして、頭の中をパッカリと拡げ、順に並べてはみたのだけれど。

「うーーーーん?」


自分の「なか」に、色んな「想い」があって混乱している、それは判る。

でも。多分。
それだけではなく、繋がらない時系列、どれも「違う人だけれど私」という。

「理解できないけれど 知っている」感覚。

「それでいい」「合ってる」という、何処からか来る、確信。


「解らない。余計に、分からんのだよ………。」

「なんかしのぶちゃんみたく、なってるわよ。」

懐かしい事を思い出したらしい朝が、私の独り言に口を挟む。
五月蠅かったろうか。

ずっと、唸っているから。

そう思い身体を起こしたが、ベッドの隅で丸くなる朝が話し始めたのは、意外な話だった。


「ねえ、それって。また、時間が歪んでるんじゃなくて?ほら、あの鉱山みたいに。ウイントフークも言ってたでしょう?」

「………それは………ある、かもね?」

どうやらほぼ口に出ていたらしい頭の中を、そう解釈したらしい、朝。

確かに。

チラリと過ぎる、暗い岩肌、あの時間が分からない不思議な感覚。


もしかして、時間ときは前後したり、それを行き来できたり。

「同時に存在」して、いるのだとすれば。

を、渡り歩くのが時の鉱山や、扉?

私の家から繋がるあの、白い部屋の扉も時間は歪んでいた筈だ。

だと、すれば。

殆ど全ての謎は、解決するだろうし。


もしか、したら…………。


「依る。は。違う。」

私の頭の中を読んだ様に、答えが来る。

「あんたがやるのは、目の前にある道を選ぶ事だけよ。過去うしろを振り返る事じゃ、ないわ。」

きっちりと私を見据える青い眼は、ふわりと起き上がり白いベッドカバーの刺繍を確かめる様に、踏み直した。
そうしてきちんと座り直し、再び口を開く。

「経験から言わせてもらうけど。「何かを無理やり変えようとする」のは、悪手よ。が、大きければ、大きな程、ね。大きな流れの中で生きている私達は、流れに乗ってきちんと「行き着く」様に、出来てる。」

キッパリと、そう言った朝。

しかし次の瞬間、「フゥ」と溜息を吐いた。

「…………でも。あんたの場合は、足掻くのも勉強なのかもね………。とりあえず、は。駄目よ。私が、嫌。」

朝はただ、「駄目」と言っても私が納得しないと知っているのだろう。

だから。
、嫌」と、言ったんだ。



静かな部屋の中、聞こえてくるのはシャラリと溢れ落ちる、私の金平糖の音色だけ。

その、音だって。
きっと、私と朝にしか聞こえていないんだろうけど。


何かに訴える様、音のしない筈の金平糖が鳴り、天蓋の金の房は揺ら揺らと美しく光を反射させ、私の気を引いている。


私を「今、ここ」へ戻す、その美しいもの達も。

やはり。

、言っているのだろう。


いつもはただ、美しく在るだけのもの達。

しかし それ は。

「してはならない」
「違う」
「そうではない」
「そちらでは ない」

そう、教えてくれている様な、気がして。


「…………うーん。」

パタリとベッドに横になった私は、再びの大きな深呼吸をして。

ただ、ビロードの星達を眺めて、いた。


できるだけ、頭を空っぽに、して。




いち、にい、さん………
あ、あれが一番明るいな?
いや、あっちか…………

うん?アレも中々………


頭を空っぽにする事が苦手な私は、天蓋の星空を眺め、数え始めていた。

すぐに隙間から侵って来る、「変えたい」という、想い。

「自分が紡ぎ直す」という、傲慢かも知れない、想い。

過去の重たい感情と、をしたならば解消できるかも知れないという、微かな希望と
期待。


私の中の、「誰が」、望んでいるのか。

それとも「私の真ん中」なのか。


分からない。

解らないけど。


その時、ほんの僅かにベッドが軋んで灰色の毛並みがフワリと消えた。

「何を選ぶのかは、結局自由だけど。」

「アンタが一番大切なのは「いつ」なのか、それをよーく考える事ね。」

そう言ってピコピコと尻尾を揺らし、部屋を出て行った朝。


その、言葉を。

小さく口の中で繰り返しながら、ゆっくりと自分の中に取り込んでいった。
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