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8の扉 デヴァイ
そのあと
しおりを挟むそうして私の溢れ出すキラキラが、どうなったのかと、言うと。
結果的に言えば、金色のフワフワに包まれている様な感じだ。
あの時、私の中に入ってきた金色は、始めこそ少しずつ私を押していたのだが、ある程度の量が満たされると。
そのまま、ふわりと私の中の色を包んで金色の膜が張った様な形になっている。
しかし、彼によって私の光が阻害されているという訳ではない。
その金色は、少しずつ、少しずつ。
私の色と、混じり合って溢れ出すキラキラを抑えてくれているのが分かるのだ。
別に、漏れ出すのが悪い訳じゃないんだけど。
きっと、私の事を心配しているのだろう。
確かに際限なく溢れると、どうなるのかは分からない。
でも、多分。
「漏れている」より「溢れている」のであろう、私のなかみは、その湧き出す量が減ったならば溢れないであろう事は分かっていた。
だからあまり、心配は無いのだけど。
そういう問題でも無いのだろう。
とりあえずあれから定期的に現れ私を確認する金色は、相変わらず青を纏っている。
朝に「なんか違うんだけど」と、言ったら「フフン」と鼻で笑われた。
きっと、あの時のレナと同じで「依るの瞳が恋する乙女になっちゃった!」とか、思っているに違いない。
だから、その後は誰にも訊いていないけど。
「なんで、青いんだろうな………。」
金色がトレードマークなんじゃ、ないの………。
そんなくだらない事を考えつつも、側にいる金色を眺める。
昼のチェックを終えた彼は私の事を観察している様だ。
あの、後。
森の洗面室で青の鏡を見た私は、朝の予想通り素っ頓狂な声を上げた。
「何コレナニコレなにこれ、何、これ~!!!」
「だから、五月蝿いわよ!」
遠くで朝が何か言っているが、それどころの話じゃ、ない。
「あらまあ、おやおや。」
青の鏡がフォーレストの様な反応をしているのも、気にならなかった。
その、私の瞳は。
朝の言った通り、ピンクを含む煌びやかな彩りに囲まれて、金というより虹色の様に変化していたのだ。
「うっわ、すっご。」
「見れば見る程。美しいこと。」
「ね。凄いね………。」
鏡にギリギリ迄近づいて、瞳を観察していた。
今までの瞳は、水色に金の虹彩、この頃は金色が増えていた私の瞳。
それが、金の部分が虹色の金の様に様々な色でキラキラしているのが、判る。
「なんて言ったらいいんだろ、これ………。」
なんとも言えない美しさと、キラリと光るピンク、赤、青、緑や黄色、紫。
様々な色が其々箔のような煌めきを伴って、顔を動かす度にキラリ、キラリと光を受け輝く、様は。
「…………えっ、これ私。金色に、勝った………?」
「なぁに、言ってんのよ。とりあえず戻りなさい。気が済んだでしょ。」
「えっ、ああ、うん?」
そうしてツッコミ役が現れた所で、やっとこ部屋へ戻ったのである。
「で?何がどうして、こうなった訳?」
ふわりとした絨毯に鎮座する、灰色の毛並み。
金色と並んでベッドへ座った私は、何故か向かいに座る朝の尋問に答える事になった様である。
答えを待つ青い眼と、隣には危険な金の瞳。
両方が私の答えを待っているのは分かるが、実際問題、自分でも「何故なのか」は分からないのだ。
とりあえず、ゴロゴロしていた所から話す事にはしたのだけれど。
案の定、要領を得ない私の説明は説明になっていなかった様である。
「えー?その、鉱山で何かあったからそうなってるんでしょ?」
「多分。そうだとは、思うんだけど。なんか人がいて、声がした所までは覚えてるんだけどね………。あっ、フォーレストは?」
呆れた声に、助け舟を求めて部屋を見渡す。
振り返ると、ベッドの陰から下の子の、声がした。
「あれは。「繋がり」が戻ったんだよ。」
「えっ。」
「カチン」
その時、再び自分の「真ん中」で、音がして。
何かが嵌った感覚、溢れ出すキラキラと自分自身が光り始めたのが、分かった。
「えっ、えっ。え 」
戸惑っているうちにどんどん光は増し、金平糖が増えてゆく。
チラリと確認した金の瞳は頷いて私を抱えるけれど、零れ落ちるキラキラが止まる気配は、無い。
そうして徐々に、形を取り始めた鳥達、舞い出る蝶、再びハクロとマシロがフワリと現れた所で。
一際、輝く光があることに、気が付いた。
目の、前に。
「…………。」
チラリと再び金の瞳を確認するけれど、否定も肯定も映さない、その色。
目の前で強い光を発しているのは、朝だ。
でも、多分朝自身じゃなくて、朝の首輪だけど。
あれは。
私が、セフィラの裁縫箱から気に入って作った、首輪だ。
目の前にじっと座っている朝は、光が眩しくないのか、そのままじっと私を見ている。
まるで、そうなるのが解っていた、様に。
えっ。
これ。
………私に、「取れ」って、こと?
誰も何も言わない部屋には、キラキラとスピリットだけが、増えてきていて。
増殖するキラキラと鮮やかなスピリット達、しかしその中でもやはり強く輝くそれは、私に「手に取るべきだ」と、言っている。
きっと、「それ」を手に取ったなら。
「なにか」が、変わる。
それは解っていたけれど、私に「手に取らない」という選択肢は、無かった。
もう一度だけ金色を確認して、変わらぬ色を目に映すと。
そっと立ち上がり、朝の前に蹲み込んだ。
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