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8の扉 デヴァイ
閃き
しおりを挟む「んっ?…………えっ?…………んんん??」
まさか。
まさかの、まさか??
ちょっ、ちょっと待って。
まず、一回整理しようか、うん。
夜、天蓋の天井。
今日は星空、星座仕様のビロードの空の下。
寝る前につらつらと考え事をしていた私は、自分の妄想があらぬ地点に着地して、焦っていた。
いや。
妄想………なの?
えっ。
でも。
この予感、当たったら嫌なんですけど………???
最初はフワフワした、いいイメージだった。
この頃癒しを求めていた私は、まずグロッシュラーの畑を想像して「いつ頃行けるかな?」なんて、考えていたのだ。
イストリアに「冬の祭祀後」と言われていたので、また旧い神殿で謳う事も、想像した。
するとそこで「ん?扉?」と、扉の事に行き当たる。
扉と言えば。
初めの雪の祭祀は、結局色々あってシンとあの人に閉じてもらった筈だ。
あの後、そう言えば気焔と「私達だってできるもん」的な感じになったんだったわ………。
その次の春の祭祀では、それがティレニアに繋がる扉になった。
そう、すっかり忘れていたのだが。
あの「出ようとしていたなにか」は、未解決の、まま。
「えー………。」
そこまで想像して、気が付いたのだけど。
その、「出ようとしていたなにか」と、私の蝶達が、いる場所の雰囲気が。
似てる、のだ。
いや、多分、確実に。
そこ、なのだと、私の直感は言っていて。
認めたくない気持ちと。
でも、蝶達を迎えに行かなければならないという思い。
それと。
気が、付いちゃったんだけど。
「千里?」
足元のフワフワを感じていたので、声を掛ける。
しかし、また私の頭の中を読んだ様なこの子はあの時と同じ事を、言った。
「あっちに、聞け。」
そう言って、ストンとベッドから下りると部屋から出て行ってしまったのだ。
「えーーー…………。」
今、夜だし。
呼ぶ?
呼び出し、ちゃう??
教えてくれるかな?
でも。
このまま、ぐるぐるしながら寝れるとは思えない。
教えてくれないならくれないで、とりあえず訊いた方がすっきりはするだろう。
そこまで考えると、そっと山百合に触れ金色を待っていた。
「どう、した?」
うっ。
綺麗。
…………くっ。
なんでこんなにキラキラしてるの………。
駄目。
駄目よ。
早く訊かないと、注がれでもしたら絶対忘れちゃう………。
うん。
そう、それは分かっていた。
でも。
ねえ。
うん。
心の、準備ね、準備…………。
山百合に触れるとすぐに現れた金色は、既に私を抱えベッドの上である。
いつもの様に、膝の間に入れられて髪を梳かれているのだが、この体勢も中々いけない。
夜だから、眠くなるのだ。
この、ポワポワした温かい空間で。
少しでも、油断しようものならば瞼が仲良くしそうである。
しかし。
多分、今訊かないと後で訊ける気がしないわ………。
「あの、ね?」
とりあえず口を開いた私を見つめる金の瞳は、今日も最高に美しく輝いている。
「うっ。」
いかん。
「あの、前にね?あの、礼拝堂の………。うん?モヤモヤの件で、うん。」
無言で私を見つめたままの瞳が、一瞬だけ曇った。
あ。
コレやばいやつだ。
多分。
私の予想は、当たっているのだろう。
それなら訊かなくてもいいかと、思ったけれど。
…………意志確認は、必要かな…?
私だって、スルーしたいこの、問題。
問題なのか、なんなのか。
でも。
避けては通れない、問題なのだ。
だって。
それは、これから私達が辿る筈の道の、問題なのだから。
「やっぱり…そうだって、こと?あの時の扉は。次の、扉なんだね………?」
形の良い唇は動かないけれど。
瞳だけで、充分な色を映した金色は苦い顔をして私を見つめている。
春の祭祀で出した扉は、4の扉、ティレニアへ繋がっていた。
私は意図してそうした訳じゃ、ないけれど結果的にそこへ繋がったのだ。
だから、多分。
冬の祭祀で出した扉も始めは「可能性の扉」では、あったのだけど。
その後の変化、あの物凄い圧と「出してはいけないもの」。
どこでどう、繋がったのかは、分からない。
でも。
そう考えれば、辻褄は合うんだ。
多分、「扉」を出せば何処かの世界へ繋がるのだと、私の「真ん中」は言っている。
あの時の私達では閉じれなかった、あの扉を開けるのが次の扉。
「つまり。9の、扉って。こと、だよね?」
「そうだ。」
「えっ、内緒じゃないでしょう?だって………行くん、だよね…?」
あまりの苦々しい表情に、急に不安になる。
だって。
私達は、扉を旅して、いて。
今は8の扉、次は9の筈だ。
「………どんな世界なの…?あんなのが、いっぱい…いやいやそれはちょっと………。」
自分で言って、ブルリと震える。
そうして最初の、疑問にも戻ってきた。
元々私は、それが訊きたかったのだ。
「えっ?9の扉に私の蝶が?いる、んだよね??うん?まあ、そうなる、か………でもそれが?あの、モヤモヤ、力が吸い取られる、………場所??」
えっ。
意味が分からない。
なんか、ヤバい。
なんとなく、金色の表情の意味が分かってきた。
「えっ?でも。行く、んだよね??それは確実だよね?」
嫌な目をして、ゆっくりと答える金色。
いや、でもこれは。
大事な所の筈だ。
「…………まあ。そうだ。」
いつの間にか止まっていた髪を梳く手、そのまま私を胸に収めた彼の表情は、見えない。
「すぐでは、ない。」
慰めなのか、なんなのか。
そう言う彼の声には迷いがあるのが、分かる。
いや、迷いなのか、それとも。
「大丈夫。」
無意識に、そう言っていた。
そう言わなければならないと、思ったからだ。
胸から私を離し、見つめるその瞳は少し探る様な色だ。
心なしかいつもより、腕を掴む力も弱い。
それを感じて、少し私の心にも風が吹いた。
でも。
何故だか「大丈夫」だと、知っている私は。
そのまま真っ直ぐに、彼の焔を捕えて言う。
「だって。私達は、変わる。まだ、変わるし、きっとみんなも。周りも、変わる。それで、私達だけじゃ、なくて。きっと「向こう」へ、行く頃には沢山の「想い」も私達の糧になって。一緒に、行くんだ。だから。」
「大丈夫。」
一人じゃない。
いや、二人だけど。
私達、だけじゃないんだ。
それは、分かる。
「そうすれば、百人力じゃない?」
そう言って、ニヤリと笑った私に頷く金色。
そして。
初めて彼は、自分で燃えたんだ。
荘厳とも言えるその、姿にただ、見惚れていた。
う、わ………。
凄く、綺麗。
て言うか、自分でバージョンアップするとか、狡くない??
目の前で鮮やかな焔を出し自分を鼓舞する様に燃える、その姿。
一瞬、ブワリと大きな紅い焔を出した後、パッと散った小さな焔達は色とりどりのそれを纏い、自由に飛び回っている。
私の好きな白金が揺らめきながら目の前を通り過ぎ、思わず掴みそうになるけれどじっと我慢だ。
そのまま彼の様子を、堪能するが、勝ちだ。
こんなに、美しいものは。
見られない。
存在、しないとすら思えるその姿と、燃える焔のチカラ、勢いと美しさが同居するその佇まいに言葉を発するのも躊躇われる。
橙、赤、黄、金、山吹と変わらぬ鮮やかさの中に溶け込み馴染んできた新しい焔、青や涅色、深緋、ほぼ白い焔すら、ある。
その他にも沢山の複雑な色を含んだその姿は。
ただ、ただ、美しくて。
いつだって、この焔を、石を。
見て、いたいと。
側に、在りたいと。
思わせるんだ。
私に。
多分、今迄は私の「なにか」によって燃え、チカラとしていた、彼。
それがここに来て初めて、自分の意志で「変わりたい」と。
思った、こと。
それがなんとも言えない想いとなって、私の胸にドスンと、むぎゅむぎゅと、侵って、くるのだ。
少しずつ収まってきた焔を取り込みながら、身軽に体を動かしている様子を見ていたが、私に限界が来た。
「どう、した?」
軽く問いかけて来るその、声すら危険である。
見てはいけない。
そちらを。
そんな私の気配を察したのか、無言でベッドへ近づいて来る金色。
いや、既に金を通り越して今は白金に違いない。
そう、焔の中でも私の一等好きな、色である。
天蓋のカーテンに隠れつつ無駄な抵抗を試みるが、すぐに手を引かれ、頬を挟まれた。
うっ。
無理。
ぁぁぁ
何コレ 白 金
カッコ 良
パタンと目を閉じようとしたが、閉じれない。
えっ。
なに?
やめて?
新しい技とかなの??
あ
ああ ぁうっ
もう 無理 胸が
既に
渋 滞
いっ ぱい
「なにか」が増した、彼の圧に私が、耐えられない。
そうして私は心の中で、「パタン」と扉を閉じて。
小さな抵抗をしつつも、新しい色を、たっぷりと注ぎ込まれたのである。
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