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8の扉 デヴァイ
ポンコツ会議
しおりを挟む「て、言うか、色々起こり過ぎじゃないですかね?」
いつものバーガンディーに沈み込んで、再びの愚痴を言っているのはテーブルの上を歩く玉虫色に向けて、だ。
アイギルの件から一呼吸おいたものの、ここの所、私の頭の中は割と散らかっていた。
あの、礼拝堂の靄の件。
この世界の、歴史のことだって結局まだ調べていない。
そこに起きた、揺れと歴史の関係、ブラッドフォードとアリススプリングスの仲直り?の件。
死者が埋葬されるという、グレースなんとか。
シンがいるのは、長が、いるのは。
「会える」というのは、本当なのか。
そして私の蝶達は、何処へ行ったのか。
そしてアイギルの訪問と「軸にしたい」一派のこと。
彼がここを訪問した、真意とは。
結局、このまま揺れが増え何も変わらなければ、この世界は。
滅びるのか。
多い………多いよ………。
しかも全部ややこしくない??
私に解決できる問題、あるかな………?
フリジアの所に行って、一旦落ち着いてはきたものの。
そうすると逆に、次にどうしたらいいのかが気になってきたのだ。
「光を撒く」のは、決まってるけど。
「実際、動き方として、どうなんだろう…。それにホントに振り撒いてるだけで、なんとかなるのかなぁ………。」
それを一度整理したくて、ベイルートを呼び止めここへ来た。
すると丁度良くソファーで朝が昼寝をしていたので、強制的に巻き込みつつ会議をする事にしたのだ。
私には、現状を整理する必要がある。
うん。
「いや、これまでは。変わり映えしない場所だと、言われていただろう?それが、変化してきているのが皆分かるんだろう。「揺れ」も、増えているらしいしな。」
「そうか………ここは揺れないですもんね…。」
そう、このフェアバンクスの空間はあの「揺れ」は起こらない。
多分、外れた空間だからだと思うのだけど。
「だからあいつが「ヨルが来たから」と思うのも、ある意味頷ける部分はあるんだ。まあ、元々状況は良くない。そこへ現れたのが「そっくり」なんだろう?分は始めから悪いんだ。」
「まあ………そう、ですね………。」
溜息を吐きチラリと視線を泳がせると、朝と目が合った。
「そう言えば朝。あの人に、何言われたの?なんか「平和なんてくだらない」的なこと、言われてなかった?」
何だったっけ?
始めから喧嘩腰だったあの状況が、どうも腑に落ちない。
「ああ、あの時はね。私は先にソファーで寝ちゃってたのよ。で、多分依るの夢を見てて。」
「えっ。」
「なんか少し前に「平和だ平和だ」って、言ってたじゃない?だから「平和なのはいい事よ」とかなんとか、相槌打ったのよね多分。半分寝てたからハッキリしないけど。」
「それでああなったの??」
「そう。勝手になんか怒り出したのよね。でも、あの時あの子は「平和が面白いのか」みたいな事言ってた。だから、私はどちらかと言えばあの子はこの世界を「平穏無事な場所」じゃなくて「スリルある生活」に、したいんじゃないかと思ったんだけど。」
「???」
意味がよく分からない。
「そう、辻褄が合わないのよ。依るには「早く軸になって世界を安定させろ」って言ったんでしょう?何がしたいのかよく分からないわよね。」
「うーーーん?」
確かに。
でも?
「あの人自身にも、よく分かってないのかもね…………??」
「投げやりで破滅願望に向くという事もあり得るからな。それにあの子は。赤の長老の孫なんだそうだ。」
「えっ?そうなんですか?ウイントフーク情報??」
「そうだ。だから昔からそう言い聞かされて育ってるのかも知れん。」
「えーーーー………。なんか………。」
「あんた、同情するのも程々にしなさいよ。」
「うーん、同情?同情、なのかなぁ………それも失礼だと思うんだけど、そうなのかな………。」
うーーーーーーーん。
余計に頭がこんがらがった気が、する。
「まあ、なにしろ。それは、奴自身の問題だ。あいつだって一応大人だ。とりあえずは放っておくしかない。」
「まあ。そう、ですね。」
確かにそれも一理ある。
この問題は、私が解決する問題では、無いのだ。
「でもね、今できる事って殆ど無いわよ多分。」
「えっ、やめてよ。」
「だってそうだもの。」
目を閉じたまま、灰色の尻尾をふさふさと揺らしている朝。
そのまま私の心を読んだ様に、続ける。
「あんたは何かしようと焦っちゃうんでしょうけど。ある意味、何もしなくても事件は転がり込んで来るわよ?多分ね。だから、それに対処する方向性の方がいいと思うけど。無理にこっちから突っ込んで行かなくてもいいわよ。」
「まあ、確かに、はい………。」
少し前にも、「ヒントが勝手にやって来る」と思った気がする。
「うーーーん。」
「まあ、「待て」ができない性格だもんね?とりあえずは魔法の袋と、コーネルピンの絵でも楽しみにしてるしか無いんじゃない?」
「成る程!それはある。」
「それに、そろそろヨルの薬の効果も出て来る筈だ。他の家からの打診があればまた動きが出るだろうな。」
ああ、あのドーピング癒し薬ね………。
グレフグ君の事を思い出しながらも、二人の話を聞いて少し落ち着いてきた。
それに。
「あの、ウイントフークさん、あの二人の事について何か言ってました?」
「あの二人、ってアリススプリングスとブラッドフォードの事か?」
「そうです。あの家の、奥って………。」
私には気になる事が、ある。
死者を埋葬する役目を負っている、アリススプリングスの家。
その、埋葬する場所がグレースクアッドの筈だ。
それなら?
あの二人が仲直りをしたならば、長に会えたり、シンに会えたりするんじゃないの??
どうなんだろうか。
バーガンディーの肘掛けを往復している玉虫色は、迷っているのか、知らないのか。
どちらの可能性もあるが、ヒントだけでもくれないだろうか。
少しでも情報があれば。
あの、二人が安心できると思うんだけど…………。
「それについては、イストリアやウェストファリアとも話してみると、言っていた。こっちの人間は多分本当の事は言わないだろう、と。」
「…………成る程。そうなんですね…。」
暫く待って、ベイルートが口にしたのはこれだけだった。
私もベイルートを困らせる気は無い。
多分本部長に口止めされているか、知らないかどちらか分からないけれど。
私の為である事だけは、確かだからだ。
「なにしろ糸口が少ないわよね、ここも。まあ、勝手に事態は動いて行くんでしょうけど。」
「そうだね………。いつの間にか、そもそもの目的を忘れそうになるんだよね、ホント。」
「いつもの事でしょ。別にあんたが世界を救わなきゃいけない訳じゃ、無いのよ。」
呆れた様に欠伸をしながら、そう言う朝。
いつもはレシフェから言われるこのセリフを朝から聞くのは、なんだか新鮮だ。
懐かしい茶の瞳を思い出すと同時に、あの窓からのラピスの景色も浮かんでくる。
チラリと思う、森のお風呂。
今度寂しくなったら、勝手に奥へ入っちゃいそうだな?
一度は試してみたいと思いつつ、再びバーガンディーに沈み込んだ。
「でもさぁ。」
「なによ。」
「結構、簡単なことだと思うんだよね…。」
「何が?」
「うーん、「世界を救う」のが。て言うかさ、例えばよ?私が子供だから、方法が思い付かない、とか。例えばめっちゃ頭良くなきゃいけないとかさ、例えば大学出て偉いどっかの何かの人じゃなきゃ、救えないとか、思い付かないなんて事、あり得ないと思うんだよね………。」
「………。」
また、「何を言い出したのか」という無言の青い瞳が見える。
「本当は、だから「わかり易いこと」なんじゃないかなぁと思うの。例えば子供でも、解る様な。「大事なこと」が、分かっていれば思い付く様なことだと思うんだよ。多分、そうじゃなきゃ駄目じゃない?逆に。特別じゃないと、分からないなんて。なんか違うと思うんだよね………。」
「だからさ、きっと。「目の前にあるのに見えない」系のことだと思うんだよね……あの、眼鏡が頭の上に乗ってるのに探しちゃうやつみたいな………。」
私の話が散らかり出した所で、きちんとツッコミが来た。
「アンタ、例えが雑よ。でも、確かにそれはあながち間違いじゃないわね。特別じゃなきゃ、救えないなんて。それは違うわ。」
「だよね?私もそう思うの。」
あの時、金色が言ってたみたいに。
「大きなこと」である必要はない
そう言ってた。
多分、だから。
「ひとり」が、「一部」が、世界を救うとか、変えるんじゃなくて。
「全部」「みんな」で、救うんだ。
そしたら、きっと変わるんだ。
そうじゃなきゃ。
だって、「世界」は。
「みんな」で、「全部」で出来ているんだから。
「うん!そうだよね?あっ。」
「時間ね。」
「アハ。」
盛大に、私のお腹が時を告げた。
「まあ、美味いものを沢山食べれば思い付くかも知れないしな?」
「依るならあり得るわね。」
「ちょ、失礼!」
そうしていつもの様に、私達は。
魔女部屋の素敵な扉を閉めて、食堂に向かったのである。
うむ。
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