透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

真ん中の星

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『いつからか。絡め取られて行くんだ、私達は。何か、世界の大きなしがらみにな。』


あの日アリススプリングスが呟いたその一言を、折に触れ考える。

始めにレシフェが言っていた、「あいつらを殺して俺達が箱舟を使う」、その事も。


誰かが、誰かに殺され、殺し返して、また殺されること。

やられたらやり返す、その方法。

終わりの無い、この道は。


「もう、嫌なんだよなぁ……………。」

特大の溜息と共に、吐き出す言葉。

私が「軸」とやらにされることだって、そうだ。

ラガシュが言う「生贄」。
その意味も、今なら解る。

今、本部長達はどうやって私を生贄にしないでこの世界を保つのか、その方法を探してくれてるんだと思う。

随分前に、ミストラスの部屋で。
ラガシュが「みんなで祈って力を世界に繋げる」的な、話をしてたと思うけど。


「まあ、それが最善だとは私も思うし、だけど。」

を、納得してくれるか、って事だよね………。」

ある意味、みんなが。

」方法を、探しているに近いだろう。

本部長達も。

私のこの頭では思い付かない様な事を、何か考えているのだろうか。

「うーーーーーん。」

分からない。

分からないけど。

とりあえず………。

「アレが、足りないかも………アレね………。」


ふと、思い付いてしまう。
あの、私の。

栄養源だ。

しかし、アレは危険なものでも、ある。

栄養源であると共に、私をふわふわの真綿で包み、ぐるぐるを止めるという、役割。

それも、あるんだよね…………。

いやでも?

「考えるな、感じろ」的なこと。
誰か、言ってたよね…………???




「どう、した?」


あっ。ヤバっ。

いや、別にヤバくはないんだけど。

今、私がぐるぐるしているのは、丁度と言うか何と言うか、自室のベッドの上である。


きっと、ウェッジウッドブルーの戸口辺りに現れた彼の気配が、こちらへ近づいてくるのが分かってドキドキでぐるぐるが、何処かへ行った。


「して?どうした?」

優しく問い掛けられるが、ぐるぐるの中身が何処かへ飛んで行ったので私に答えは無い。

きっとまた、落ち着いたら戻って来るのだろうけど。


…………いいかな。

チラリと映した金の瞳が、何も言わなくとも私を温かい腕の中に包む。


あーーーーーーーーーーー。

何コレ。

温泉効果…………?


あの頃、毎日こうして包まれていた時とは違う、この感覚。
久しぶりに包まれると私の頭の中は、金色一色になって。

何色の侵入をも、許さないのである。


考え事捗るかと思ったけど。

やっぱり。
無理だな…………。


 「ずっと一緒に。いれれば、いいんだけど。」


ふと、思っていた事が漏れた。
自分では口には出していないと、思ったのだけど。


「それなら一つになればいいのだ。、問題が起こる。」

「えっ。」

えっ。
え??

えーーーーーーーーーー??????


ちょ  ちょっと待って いや

いやいや?でも?

気焔だよ?
他意は、無い。多分。
多分。

うん。

とりあえずの体裁を取り繕って、金の瞳を見る。

そうしてそのまま、訊き返してみた。

「別れているから、って?でも、どうやって一つになるの?」

もっっっ凄、嫌な目で見られたけれどそう言ったのは自分でしょうに。

なんで?
理不尽だわ…………。


でも。
確かに。

この前も、あの光が一つになって、どんどんそれが合わさっていって。

「全部」が、「一つ」に、なれば。

は、思った。


でもな。
悪い人は?
悪い………まぁ、でも私を生贄にするとかロウワに対する事とかは悪いよね………。

えっと?
もし?

もしもよ、その「元凶」が見つかったとして。
うん。

も。

「一つ」に、なる、かなぁ…………?



ぐるぐると頭の中には沢山の「いろ」が、出てくる。

勿論、綺麗な色、暗い色、濁った色。
沢山の「いろ」があって、あまり好まれない様な色もあるけれど。

が、駄目な訳じゃない。

いろんな色があるからいいんだし、例え濁った色だって。

「濁った色である、自由」は、ある筈で。


「何色でいたいかは、其々の自由だよね………。」

問い掛けの様な独り言に、ただ金色を浮かべている美しい瞳。
その揺らがぬ焔に肯定を見る。

この人は多分、ジャッジはしないだろう。


好きなんだけど。

あっ。いかん。


ふと、多くなった金色を押しやって、とりあえずは色の波に戻った。


濁った色も、そのままに。

全ての「いろ」が、其々で存在する、方法?
それかな………。

そもそも。

「別れているから」と、言うならば。

「混ぜる?」

いや、濁るな、もっと。

それなら。

「あっちと、こっちに、置くでしょう?それでまあが、「いい」と「悪い」だと、して。」

それを。

「混ぜずに、…………包む。いや、繋がらないな………繋ぎたいんだよ、私は。」


うーーーん?

包んで?
こう、両脇から押すと?

…………無理矢理は、違うな。
うん。

それなら?

私の?

 立ち位置は、何処だ?



「!」

それ即ち、「真ん中」で、あって。

で?

光で?照らす?

キラキラ………光るよ、空の。


 星の、様に。



 「私は  小さな  星  ♪ 」



小さな声で謳い始めた私の髪を、ゆっくりと梳く長い指。

この空間が幸せ過ぎて、夜空のビロードの中に包まれている星になった、気分である。

丁度目の前にあるのは、とびきりの金の星だ。

大きな、輝く、煌めく、星だ。

私の。


「…………いかん。」


謳うのを止めて、胸の中へ潜り込んだ。
とりあえずは自分の中の「いろ」達を回収しなければならない。

まだ私の中は、散らかったままなのだ。


えっと。
うーーんと?

私が?

「真ん中」で、光るから??


でも、私は。

この世界に、星屑を撒いているつもりだ。

フリジアの魔法も。
私の、まじないも。

おんなじで、この世界に散る、星屑なのである。

きっとそれに誘われ、やって来たのがシリカだ。
私達の撒いている「なにか」。

それを感じ取ってやって来てくれた彼女は、とても素敵な刺繍を施し魔法の袋のチカラを上げてくれている。
そこから生まれるまた、小さな星もあるだろう。

そうして小さな星を、増やして。


「…………そうか。」

そうだ。

「真ん中」に、星を増やせば、良くない??

そうすれば、「あっちとこっち」に、ある色も。

真ん中が増える事によって、繋がって。


「えっ。最後には、まあるく?なっちゃったり??しない?する?よね???」

そうすれば。

端の「いろ」も、変わる事なく「在る」事ができて。

「えーーー。万事、解、決…………。」


かも?

知れ、ない…………?


また。

おめでたい事だと、笑われるだろうか。


、するのかは全然分からないし。

何をどう、変えればいいのか、変えなくていいのかも、分からないけど。


ポン、と胸元から顔を出して答え合わせをしてみる。

この人は多分………。

「私が望む返事」をしない事が、分かるから。


じっと見つめた金の瞳は、今、様々な「いろ」を含んでいる。

きっと、私に見せる為に。


少し瞳を細めると、形の良い唇が開いた。

人間ひとは。見たいものしか、見ない。だから、お前の思う「本当のこと」で良いのではないか。」


うっ。

これって。
どっち、だろう。

でも、多分。

どっちにも、言える事なんだ。


だから。

「結局私は。するのが、一番ってことだね………。」

「…………それでこそ、吾輩の。」


…………吾輩の?

なによ?

それは、言わない訳…………?


しかしこのタイミングで金の瞳を確認できる程、私の心臓は出来上がっていない。

まだ。

「でも。…………ありがとう。」


返事の代わりに胸元から取り出され、金色を注がれる。

久しぶりの金の濁流に、自分の「なかみ」が随分減っていたのだと気が付いた。


…………ちょっと、金色のスペースが大き過ぎやしませんかね………。

そう、思いつつも気持ち良く満たされてゆく自分の中、抗える筈もない感覚に大人しく身を委ねていた。



暫く、して。

気が済んだのか、ゆっくりと私を離しじっと見つめる金の瞳。

どうしたの、だろうか。


私の頭の中は、金色の星屑がいっぱい詰まって大分ホワホワして、いた。
そのままボーッと、見つめる。

「だから。………いや、寝ろ。」

えっ。

なんで?
でも、寝るけどさ………。


久しぶりの「最上級の仕方の無い目」を見た私は、頭の中のポワポワに負け、そのまま目を瞑ったのだけど。

大きな溜息を吐き、しかし私を抱き寄せたその腕に収まると「なんでだろう」はすっかり形をひそめ、夢の中に堕ちて行ったのだった。

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