透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

久しぶりの

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「そうだな。向こうで、だったら許可するか………。」

これは、もしかして私の計画が一石二鳥になったという事だろうか。

「あちらへ行ってからなら、肖像画ではなく神殿を描くだろうからな。」

そう、一人で頷き何やら納得しているウイントフーク。

とりあえず、成功という事でいいのだろうか。
後で「駄目」とか言っても、聞きませんよウイントフークさん…。


あの後、白の区画から帰ってきてから。

早速「あの銀の方の人、誰ですか」とウイントフークを問い詰めると「コーネルピンだ」と名前を教えてくれた迄は、良かった。
勿論、「なにかが込もる空間」を描いてもらう、お願いをする為だ。

だがしかし。

「………もう一枚、同じ絵が出来上がると困るな。」

「多分………いや、向こうをなんとか引っ込めさせるか………アレを使えば、イケるか?」

一旦は否定したものの、ぐるぐると周りながら怪しい呟きを始めた本部長。

どうやら「絵」がどうこう言っているという事は、きっとフリジアと同じ事を心配している様だ。

それも「もう一枚」。
それを聞いて、ハッと気が付いたけれど確かにあの灰色の城にあったあの絵は私にそっくりだった。
旧い神殿の絵を描いてもらうならば、当然あそこは通る筈なのだ。

結局あの絵がいつからあそこに飾られているのか、コーネルピンが見た事があるのか、それは分からない。
そもそもここ、デヴァイへ来てから私の顔を見て「おかしな」反応をしたのはブラッドフォードの父、グラディオライトだけだ。

いや、メディナとフリジアもだが、あの二人はきっとあの絵ではなくセフィラだろう。

でもお父さんも、なのかな………?

いつか訊いてみたいが、銀の家ならばどちらも知っている可能性が高いと思っておいた方がいいだろう。


もし、私が肖像画で描かれたならば。

「同じものが二枚」と言っても、差し支えない程度には、似ると思う。


「確かにそれはまずい、かも…………?」

しかしどこにどうバレるのか想像できない私は、ウイントフークの言葉の端々を拾って推理していた。

「向こう」「神殿」

と、いう事は…………。

「えっ?グロッシュラー??行っていいんですか?!?」

「五月蝿い。」

ピシャリと言われて、やや萎れた私だが、その対応は想定内だ。
そもそも行きたい、とは思っていたけれど。
すぐに許可が出るとは思っていなかったし、最悪コーネルピンだけ向こうへ行って、描いて貰えばいいと思っていた。

でも、もしかしてこの人が色々と手を回してくれるならば…。
あり得ない話では、ない。

でも何か、裏が有りそうな………?

面倒な案件を私の要望だけで通してくれるとは、思えない。

でも、行けるなら行きたいよね………。

子供達の事も気になるし、空も見たいし、畑も見たい。
久しぶりに、イストリアにも会いたいし………まだみんなに会うのは無理かもだけど。

そうして期待しすぎない様、自分のワクワクをパタンと閉じると。
とりあえずは大人しくソファーに座り、ぐるぐるが終わるのを待っていたのである。




「結局、石の質と言うよりは使い方、若しくは持ち主の何か………何でしょうね。でも、あなたの石なのでなんとなく分かる気がしますが。」

「ふぅん………でも多分、慣れもあると思うんですけど。あの子達は結構前から石を持ってるし?でもなぁ………。」

多分。

「なかみ」の、問題だと思うんだよね………。


丁度部屋の観察も終わり、「あの辺片付けた方がいいんじゃないだろうか」と私が余計な事をしそうになっていた時。

定期報告なのか、書斎を訪れたラガシュをゲットした私はここぞとばかりにグロッシュラーの様子を聞いていた。

この前、私の石を持って行った後の事もあるし、そもそもその話を持って来たのも、ラガシュだ。

「あの星屑達、撒いたんですか?」

そう訊いた私にラガシュは渋い顔をしながら教えてくれたのだけど。

どうやら星屑を同じく撒くと、また子供達の畑の方が成長するだろうと他の畑に撒くと、そちらの方がやはりメキメキと成長したのが気に食わないらしい。

「それじゃ実験にならないのですけどね。結局、何の為に姫が光を降らせたのか分からないじゃないですか。」

うん?
久しぶりに姫になってるな…。


プリプリしているラガシュを見ながら、確かにそうだと頷きながらもとりあえず取り成しておいた。

きっとあの人達は認めたくないんだろうし。
目の前で成長する、作物の速度が全然、違う事も。
子供達の方が、石を使うのが上手な事も。


「ま、とりあえず。分からない人は放っておくしかないですよ。それよりやる事は沢山、ありますからね。」

「まあそうなんですけど。でもあの石は勿体無い…。」
「確かに。」

とても綺麗に出来た、星屑だったのに。
それはある。

「でも多分。きっとそれを撒いた所の作物は、めっちゃ美味しいですよ。」

そう言いつつも、なんだかウキウキしてきた。

多分、ウイントフークはグロッシュラーへ行く方向で考えている筈だ。
何に悩んでいるのか、分からないけど。


しかしその日は結局、「報告がある」と二人に書斎を追い出されてトボトボと部屋に帰る事と、なった。

なにやら「大丈夫だ」と言っていた本部長は、多分連れて行ってくれるつもりはあるのだろう。

「それならいっか。」

そう、とりあえず行く方法を考えるのはあの人の仕事なのである。

そうして切り替えた私は、そのままお腹の声を聞いて食堂へ向かったのだ。

うむ。








「城を出たら外していいが、これは着けて行け。」

その、三日後。

無事手筈がついたらしく、約束通り本部長は「行くぞ」と言って私達を集合させた。


光が降って空が見え、畑が出来てからは、ここデヴァイからも定期的に人が渡っているらしいグロッシュラー。
これまでパミールやガリアから「うちからも行ってるわよ」と聞いてはいたが、まだ限られた人しか行けないらしい。

何をどうやって、「私」が行ける様になったのか分からないけど。

「私達は、全然まだね。」

二人からそう聞いていたのでこの早い実現を疑問に思って尋ねると「色々とな」と怪しいセリフを呟いて、いた。

私がその理由を知るのは少し後の事だったが、とりあえず行ければ理由は何でも良かったのであまり深く訊くのは止めにした。
なんか怖い事、言われそうだし…。


「良かった、大丈夫なの?」

何気に久しぶりな気がする、金の瞳を見ながらそう訊くと頷いてホールを見渡している、金色。

今日のメンバーは中々大所帯だ。

ウイントフーク、ラガシュに千里、私、朝、ベイルートに気焔。
千里は一応、人型だ。

フォーレストも行きたそうだったが、スピリットが向こうでどうなるのか心配だった私は留守番をお願いしたのだ。

だって前にハクロがに行って大変だったって、こっそりイリスが教えてくれたからね………。
心配させない様、私には教えなかったんだろうけど。

チラリと極彩色の長い髪を、見る。

千里はグロッシュラーに行った事があるのだろうか。

まあ、でも………なんでも知ってるからなこの人。


私がそんな事を考えていると、どうやらもう出発の様だ。
しかし本部長の予定にはもう一人追加されるらしかった。

「遅いな。」
「やっぱり、無理なんじゃないか。」

「頼む。」

ウイントフークに頼まれ、青の通路を出て行った千里。

「?どこ行ったんですか、千里。」

「ああ、ここへ来る様に言ったんだがやはり難しいらしいな。だから迎えに行ってもらった。」

「誰を??」

「コーネルピンだ。」

「!」

やった!
あの、絵の人だよね??

え?でも??
ここから?一緒に、行くの???
確かに、主役がいなと始まらないけど?


既にウイントフークはラガシュと話していて、ハテナ顔の私の事などお構いなしである。

それを見ていた朝が、何故か教えてくれた。
どうして私より分かってるんだろうか。

「ここへ来た時、このホールへ着いたでしょう?からは、近いのよ。向こうだと面倒らしいわ。だから呼んだんじゃない?どう理由を付けたのかは知らないけど。」

「ああ、確かに。直接ここに着いたよね?………でも大丈夫なのかな、こっちに呼んで………?」

「まあ、ウイントフークだからね。その辺抜かりはないでしょ。」

「確かに。」

でもよく考えると、別に秘密な訳じゃ、無いのだ。
パミールやガリアだって、遊びに来るし。
お客さんも、来るし。


そうして少し待つと、件の「コーネルピン」が千里に連れられやって来た。

薄灰色の短い髪、黄茶の瞳を瞬かせてゆっくりと千里の背後を歩いている、男。
年の頃は四、五十代だろうか。
年齢不詳な雰囲気の気難しそうな、人である。


しかし青の空間を忙しなくキョロキョロする彼を見て「大丈夫そう」と、思った。

その、天井を見る目付きや窓、床やプランターを見る様子が見慣れた「あの感じ」だったから。
きっと、私がお願いする「意図」も解ってくれると思うのだが、どうだろうか。


「よし、行くぞ。」

そうして全員揃った所で、私達は再びのグロッシュラーへ向かう事になったのだ。

何故だか私は、久しぶりのベールを着けて。




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