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8の扉 デヴァイ
祈り 再
しおりを挟むさあ 思い出してごらんよ
そう ほら
こんなに 安心で
こんなに あったかい
大丈夫だから さあ
踏み出して 飛び出して
最初の 一歩
へぇ
ほうら 大丈夫だった
何も怖くない
灯りは点っているから
もう 始まって いるのだから。
瞑っていた目を開けしっかりと辺りを見る。
大丈夫。確認した。
もう迷わないよ
さあ 出発だ
羽を広げ 少し屈んで
飛び立つ準備は オーケーだ
ひとつ 手を打ち鳴らしたなら
始まる 新しい道
新しい なにか
だから
言って 乗って 揺らいで
迷って 見て 触れて 感じて
走って 踊って 謳って
また 飛んで
さあ 始まるなにかに
耳を 澄ませ。
夜明けの鋭く差し込む光に 気付き
時を知る
顔を上げ 目を合わせ
立ち上がれ ほら 行くぞ
もう 始まっているのだから。
ひとりじゃ ないのだから。
青の空間の奥、白い礼拝室へ入った私は何処からか流れてきた頭の中の声に従い、ただ、謳った。
自分の中から漏れ出してくる「なにか」を、発したくて堪らなかったからだ。
そうして少し、すっきりすると。
光を受け眩しく光る、サテンのベンチに腰掛けてただ、ボーッとしているのである。
一人で、静かに。
この、静寂の中で。
そう、一旦吐き出した頭の中を、クリアにする、為に。
図書館から帰ってから、報告はベイルートにお願いした。
その方が確実で的確だからだ。
私が報告したならば、話は散らかるに違いないのである。
そうして一人、ゆっくりと考えるべく座っている白い礼拝室の真ん中。
私の今の頭の中を、パッカリと広げて検分してみる。
全てのモヤモヤが入り混じりごった煮にされて、今私の前に「どうぞ」と置かれているこの、状況。
しかし、肝心のスパイスは、まだ来ない。
多分、鍵はきっとまだ見えていないのだ。
でも其々が其々の立場でこの世界を、守ろうとしている事だけは、解って。
それが、どんな立ち位置だと、しても。
それならそれで、すっきりと心は曇っていなかった。
この世界に来てから感じていた暗さ、重苦しさ、閉塞感と未来の不透明さ。
もしかしたら。
私のこれまでのイメージ「悪の巣窟」は自ら滅びへ向かっているのかと、思っていた。
もう、この世界を見切り、棄てて箱舟に乗り、何処かへ逃げればいいと、思っているのだと。
自分達、一部の人間だけ助かればそれで、いいのだと。
今でもそう思っている人はいるのかも知れない。
アリススプリングスの真意は違ったけれど、あの人は一人じゃない筈だ。
「長老達」とは言うけれど、何色の誰が何処まで関わっているのか。
それは私の知るところではない。
「でも、なぁ…………。」
あの、家に入った時の違和感、嫌な感じは無いが誰かにずっと見られている様なあの、感覚。
それが。
「あの人を………捕えて………?」
「家」なのか「空間」なのか、それとも何かの「もの」や「ひと」なのか。
その時フリジアの言葉が、フッと浮かぶ。
「あの家の奥に。埋葬される場所がある」
えーー……………。
それって。
シンが居る場所が、「そう」だって、こと?
いいや。
でも、彼処には。
不浄な感じは、一切、無い。
あの、靄に感じた暗く重いイメージや嫌悪感は一切、感じられないのだ。
でもな…………死体が「不浄」なのか、どうかは。
分かんなくない??
だって別に私達が死んだからっていきなり「汚いもの」扱いされてもな…。
どうして昔から、「死」は。
そう、扱われているのだろうか。
でも?
多分、私も初めはそう思っていた筈だ。
しかし、今は違う。
どうしてだろうと自分の中を攫ってゆくと、灰色の雲と「あの場所」が思い浮かぶ。
あの、目を逸らしてはいけない場所。
沢山の人が遺したのであろう「証」の場所だ。
自分の周りに小さく風が吹くのが、分かる。
そうか。
そうね。
人は、美しかったから。
みんな。
昇って。
キラキラと、其々の「いろ」で輝き昇って行く様は。
どうしたって、美しかったんだ。
その、「なかみ」が。
無くなったとしても、「そとがわ」が。
いきなり、「汚いもの」になんて、なる訳が無いんだ。
きっと、本当だったら神聖な役目。
それが、死んだ人を埋葬する、その今グレースクアッドの入り口にいる、長の役目なんだ。
うん?
そうなのかな?
入り口?
でも、きっとそう。
あの「感覚」は。
きっと、そうだ。
以前見た木立の中にいる光、大きな金色の水流が走る岩の中、湖面に浮かぶあの姿。
はっきりとは、見えなかったけど。
自分の中でのその輪郭がはっきりしてくると、なんだか進む方向性が見えてきた様な気がする。
彼処にあるものは、きっと光だ。
私は。
いつだって。
その、美しい光に向かって、真っ直ぐ進めば。
それで、いいんだ。
だって、あれは。
紛れもなく、清浄で純粋な、ただ、そこに在る。
光の様な「存在」だったからだ。
あの感覚には、覚えがある。
「知っている」と、私の「なか」が、言っている。
この、世界に、宇宙にだって、きっとただ一つしかない、もの。
ただ、「一つのための純粋な光」だ。
それを見つけて、「もう一つ」を合わせて。
そうすれば、「チカラ」になる。
「チカラ」と言うのは語弊があるかも知れないけど。
「一つ」でも、光るけれど「二つ」が合わされば、より強く光る、もの。
多分、あれは。
それだ。
だからきっと、もう一つを求める。
そしてまた「一つ」になった、それがまた「二つ」に合わさり、きっと最期には。
「うーーーーん。それで、完璧、じゃない?」
この頃、特に思う、こと。
私は勿論、一人でも走れるし、一人で走りたいし、一人で走れなきゃいけないのだと、思うのだけど。
あの、金色の光があれば。
「あっ。」
いけない。
思い出しちゃった。
白の空間に、色が燈る。
目を瞑っていたのだが、正面扉の前に現れたそれを感じる自分が擽ったく感じられる。
なんで、分かるかなぁ………。
でもきっと、心配していたんだ。
彼処で、謳ったから。
心を、震わせたから。
ゆっくりと目を開けると、祭壇前に光と共にある金色が見える。
神様みたい。
ああ、成る程………。
そう、ね。
やっぱり。
そう、なのかな…………?
そんな私の疑問を、煙に巻く様に。
ゆっくりと近づく金色、震える私の「なかみ」。
そうして目の前に立った、その美しい色を目に大きく映すと。
優しく揺れる焔を宿す、いつもの彼にふわりと包まれたのだった。
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