528 / 1,740
8の扉 デヴァイ
銀の二人
しおりを挟むて、言うか。
訊きたいことは、沢山、ある。
でも。
これ、ここで、私が。
訊いていい、話かな?
白い小部屋、そう狭くはないこの部屋も大の男二人に私、だと少し窮屈である。
いや、この二人の圧が。
ちょっと、強いのかもしれないけど。
部屋へ入って早々、私の隣に陣取ったブラッドフォードは私達の微妙な雰囲気に少し警戒している様だ。
きっと私が何か言われたと、思っているのかもしれない。
でも、どちらかと言えば私が言ったんだけど。
うん?でもその後質問、されたか………。
しかし、アリススプリングスの「どちら」という言葉の意図する所が分からない。
できるだけボロを出したくない私としては、向こうから何か具体的な言葉がある迄は答えるのを避けたいのである。
しかし微妙な空気が漂う男二人の間に、下手な質問は投げれる気がしない。
斯くしてそのまま様子を見守る事にした。
さっきは「この二人、仲悪くないのかも?」と思ったのだけれど、やはりそうでもないのだろうか。
私とブラッドフォードを交互に見ているアリススプリングス、何か警戒している様子のブラッドフォード。
そんな二人を見ていても仕方が無いかと、私はブラッドが持ってきた予言の本を、手に取った。
ふぅん?
どうやらそれは、新説の方の予言の本だ。
それに、青い。
デヴァイの資料はかなり数が無くなっているとエイヴォンもウイントフークも言っていたが、これは銀の家だから持ち出せるものなのだろうか。
気になって、チラリと隣の青い瞳を見た。
「どうして。そっちを、持って来た?」
そう言ったのはアリススプリングスだ。
「………今はもう、こちらが主流ですよね?」
うん?
なんだか話が始まっちゃったけど?
大丈夫かな、この空気………。
アリススプリングスが上位だからなのか、しかし多分年齢も少し向こうが上なのだろう。
きっちりとした上下関係と上からの圧に、むずむずとしてきた私は思わず口を挟んだ。
「あの、新説の本は今は殆ど残っていないと聞いたんですけど。」
多分、ウイントフークの事を知っていれば私がこの情報を持っていても不思議じゃない事は分かるだろう。
そんな思惑で、訊きたい事をついでに訊く。
きっと私が口を挟むと思っていなかったのだろう、少し目を大きくしたアリススプリングスはしかし、楽しそうな色を浮かべてこう答えた。
「そうだ。処分する様に、言われていたからな。もうこれしか、ここには無い。」
えっ。
誰に?
そう訊きたかったけれど流石にすぐには訊き返せない。
どうしようかとぐるぐるしていると、ブラッドフォードが私の心を読んだ様に、質問を始めた。
「何故、予言の本を持って来い、と?誰が処分をさせているのです?」
ナイス!
ナイス質問だよ、お兄さん!
多分、顔に出ていたのだろう。
隣をくるりと見た私を、また楽しそうに見ているアリススプリングス。
そうして意外な答えが、その口から齎された。
「長の。指示だ。」
「えっ。」
まずっ。
でも。
これは、声出るよ………。
ちょ、ちょっと、待って?
「何故、長が?」
「それは言えないな。しかし、指示されたのは私では無い。ずっと前の、事だと聞いている。」
「確かに………年代的には………。」
「早くに父が亡くなったからね。全てを知っている訳でも、無い。長老達は多分………。」
?、?
ちょっと、待って?
男達は何やら他の家の長老の話に、話題が移った様だ。
でもなんとなく、アリススプリングスがのらりくらりと、ブラッドフォードを躱しているのが分かる。
その、間に私は自分のぐるぐるの中に、スッポリと嵌って、いて。
えっ。
なんで。
うん?
娘、だよね??
え?
意味が分かんない。
ちょ、誰か?
ベイルートさーん!
でも今話せない………よね、流石に。
でもきっとこの話を聞いて本部長に報告してくれれば………?
分かる、の……………???
えーーーーーー………。
暫くの、沼の中。
「ヨル。ヨル?」
呼ばれているのに気が付いたのは、何度目の声か。
少し、焦りが含まれる声に我に返ると、私を覗き込む心配そうな青い瞳と正面には相変わらずの少し楽しそうな明るい灰色の瞳。
その、明るい灰色と目が合うと同時に、その口が開いた。
「して、君は。何をしに、来た?」
「えっ。」
「何か調べに来たのだろう?」
ああ、そっちですか………。
フリジアの質問を思い出して、ついおかしな返事をしてしまった。
危ない危ない。
「あの。歴史を、調べに来たんですけど。お二人は、詳しいですよね?」
その、私の質問に何故だか顔を見合わせた二人。
何かおかしな質問をしただろうか。
私的には、この世界をこれから背負って立つ、二人ならばきっと歴史にも詳しいと思ったのだけれど。
さっき迄は灰色だけであった私を見つめる瞳に青が加わり、二人ともが「私の意図」を探っているのが分かった。
静かな奥のこのスペースには、何の音のカケラも無い。
きっと普段からそう人の多い事のないこの図書館は、遠くの人の気配だけが静かに流れてきていて。
先刻の震えの影響、片付けに駆り出される人々、震えの頻度が高くなっているということ。
図書館の管理を代々やっているのは銀の家だということ。
その二つが頭の中にフッと降りてきて、この二人が「図書館の震え」と「ここの歴史」に関係があると思っている事が解る。
それなら?
話は、早いんじゃ、ない?
私はここが。
「生きている」と、感じている。
図書館なのか、ここデヴァイ全体なのか、でもきっと全てが。
そうなのだと、思うのだけど。
この二人は知っているのだろうか。
昔は。
「生きて」た?
そう、記されているの?何処かに。
そう考えてみるとアリススプリングスは私に「何故謳ったのか」、訊かなかった。
ただ、みんなに「これからも協力する様に」言っていただけだ。
「説明しろ」という顔はしていたけど、その後それについては訊かれていない。
そこまで考えると、もう黙っていられなくて私は再び口を開いた。
「あの。歴史には、なんて書いてあるんですか?何故私が。謳うことを、不思議に思わなかったんです?あれが。」
「子守唄だと、知って………?」
でも。
歌詞だって、即興の適当だ。
「心」だけは。
込もっていたと、思うけど。
暫くの沈黙の、後。
再び顔を見合わせた二人は、いつの間にか立ち上がっていた私を座らせ、自分達も腰掛けた。
そうして銀の、男達は。
視線だけで、何かを通じ合った後、ブラッドフォードが立ち上がり扉の外を確認し、アリススプリングスは椅子を近づけ私達は内緒話をする体勢になった。
「実はな………。」
それから始まった話は、思いもよらぬ方向に舵を切る事になったのだ。
ベイルートさん居てくれて、良かったぁ………。
そう、その話はとても長くて複雑な、話だったのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作


王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる