透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

次元旅行

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多分、私がやるべきこと、やりたいことって。

切なさを味わったりとか、沈んでみたりとか、泣いてみたり、落ち込んでみたりとかじゃなくて。


「自由に、を行き来すること、なんじゃない………?」


ふと、思い付いた。

「あの切なさをどうしてあげたらいいのか、切なさとは何か」

この頃感じている様々な想い、まじない箱の思い出の様な景色、それに共通する切なさとやるせない気持ち。

は。

解消、できるのか。

しかしそこに「在った」けれども「もう無い」から切ないのか、続けることができたならば、それはどうなるのか。

「今は無い」からこそ。

「それ」は「そう」在るのか。


そんな事をぐるぐると考えていた私は、ふと、思い付いたのだ。

扉を旅していたセフィラ。
沢山の世界を渡り歩くこと、時の鉱山、時間の移動。

って。

似たようなもの、だよね?


「うーーーん?」

今日もお気に入りのバーガンディーに座り、唸っている私を咎める者は誰もいない。

フォーレストは隅の寝床でお休み中である。

ただ、窓際のハーブ達が姦しくお喋りをしているけれど。

「あの時のあれ」「そうね」
「勿体無かったね」
「沢山あった」「ねえ」
「いいチカラ」「向こうへ」
「またきっと 」

多分あの子達が話しているのはこの間ウイントフークに奪われたあの星屑の話だろう。
確かにあれはここに少し撒いても良かったかもしれない。

「今度また、祈るよ。」

そう言っておいて、とりあえずは長机のスフィアを眺めていた。


大小様々な色、質感と透明感の違う石達が並ぶ机は視界にあるだけで癒されるものである。

深い、吸い込まれる様な紫に雲の様な乳白、透き通る緑の中の葉脈の様な土色。
その同じ球体の中にあって異なる世界が交わる様子は、私に世界の交わりを思い起こさせる。

そもそも。
ここだって?

、繋がっているのかは分からないがきっと以前は一つの世界であったろう、ラピスからの道のり。
もしかしたら。
ティレニアですら、繋がっていたのかもしれない。
だってあの、白い森が侵食するくらいなのだから。

「て、言うか。扉の移動って次元の?移動?同時に存在してるしね??それでたまに過去にズレるって………うーーん?」

よく、分からないけれど。

解らないけど、多分あのまじない箱で見た景色がいつでも行ける場所であったなら。
きっと、あれ程の切なさは感じないのだろう。

あの人の「想い」は。

そのままあそこに、在るのだろうか。


「一人ぼっちみたいで?嫌、なのかなぁ…。」

でもそれは私の勝手な想像でも、ある。

もしかしたら、そのまま留めておいた方がいいのかもしれないし?

しかし何しろ自分が居心地が、悪いのだ。
なんとなく「置いてきた」様な感じがして。

あの、自分の蝶達が別の空間にいる様な、そんな感じに似ている。

「だから、いつでも。会いに、行けるなら。」

寂しくないかと、思ったんだけど………。


「要は、意識の問題だ。」

うん?

突然降って湧いた声に、辺りを見回すと大きな頭の子がこちらを見て、いた。

全てを見通す様なその美しい緑の瞳は、この部屋の景色を映しながら私にこう話す。

「君なら、いつでも。行ける。いや、みんな、行けるんだ。と、思っているだけで。だろう?」


静かな魔女部屋、青く染まる窓を流れる雲がテーブルに影を走らせるのが分かる。

いつの間にか大人しくなったハーブ達、光と共に動くスフィアの虹。
ふっと私の中にも、あの自分の白い部屋で流れる雲が浮かんできて。

なんとなく、この瞳が言わんとしていることが解る。


多分、いつも。

何処も。

「私の中」に、あるから。


「行こうと「想えば」。行ける、って事だよね?」

「そうさ。お前さんが着ている肉体それは入れ物で、「ほんとう」は。自由に、何処へでも行けるだろう?」

確かに。
は、分かる。


この頃誰かの中に入ったり、何処かへ行ったり、私が私じゃないみたいだったり。

色々しているけれど「なかみ」は、私で「真ん中」にあるのも私だ。

多分、それさえ解っていれば。

「案外、自由だ、って。ことだよね………?」


いつの間にか開いていた、下の子の瞳もゆっくりと瞬きをして私に「そうだよ」と教えてくれている。


留めておきたい、景色も。

切ない誰かの、想いも。

辿り着けなかったセフィラも、会えなかったディディエライトも、みんなみんな、そうだとするならば。


「あ。でも。そうだ。」

私は。

みんなで。
在るべき場所へ、還る、と。

連れて行くって。

思ったんだ。
約束、した。

みんなとも。
私の中に融け込んだ、沢山の「想い」達とも。


ふっと「想った」瞬間、色とりどりの蝶が私の中から舞い出てきて。

融け込んだと思っていた「いろ」も、そこに加わっているのが分かる。


そうか。

あの子達も自由に、私の中を行き来して、こうして美しく飛んで。

それなら。
私、も?

思う、所に飛んで沢山の場所を巡り寂しくない様に。

行けば、よくない?


ふわりと目の前に浮かぶ「なんにもない部屋」、しかしその部屋にはあの陶器の蛇口が備え付けれていて。
よく、見ると床や壁が剥げていなく、「これから」なのだと判る。

これなら、いい。

頷いて、そっと目を閉じる。


次に見えたのは色とりどりの蝶が飛ぶ、灰色の大地。

空を見上げると灰色の雲の隙間からは青が覗いていて。
この、空は今の空なのだと判る。

その新しい空に向かって飛ぶ明るい蝶達、幾つかはそのまま空に、昇って。

「見えなくなっちゃった………。」

でも、多分。
輪廻の森ティレニアへ還ったのだろう。

そう、置いていったものも、もう飛べる様になったものは。
好きに、行けばいいのだ。


仄暗い空間へ戻って来た。

此処は。
いつから、で。

再び明るくなる事は、あるのか。
そもそも始まりは。

何処、だったのか。


「大切なのは。「意識」だ。何時でも何処にでも。というその、鍵は。君の、「中に」ある 」

あの子の声が、聴こえる。


それなら始まりは………?

何処?何時?

見せて?
私に。

あなたの、「本当の始まり」を。

まだ、生まれたばかりだった頃のあなたを。

見せて………



「あらぁ?また、寝てるの?」

パッとその声で眩しい光が差して。

私の次元旅行は、終わりを告げた。


「…………タイミング………。」

「え?風邪引くわよ?」

私の不満げな声に、怯む様子はない。
寧ろ「よく起こした」とばかりに、私の周りを回ってスルリと隣に滑り込んだ。

「あったかい………。」

「当たり前よ。ここは夏になるのかしら?居眠りするには少し寒いわよ。」

「だよね…。」

フワフワの毛並みを感じて自分が予想以上に冷えていた事に気が付いた。
朝はきっと私が居眠りしているかもしれないと、様子を見に来たに違いない。

部屋の隅をチラリと見ると緑の瞳は再び、閉じられていた。


それならきっと、「今」じゃなかったのだろう。

多分、自ずと。
知れる、筈なんだ。

世界が、どうなっていたのかは。


「うーーん。それじゃ、お茶にしますか。」

「それがいいわ。今日のおやつは何かしら?」

大きく伸びをして窓を見ると、少し雲が増えている。
この空が紅く染まる所は見た事がないけれど。

やはり、夕暮れにはなるのだろうか。
今度来てみなきゃ。

「さ、行くわよ?」

「はぁい。」


そうしていつの間にか私の傍らにいる、フワフワの羊と一緒に青の廊下へ出たのだった。



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