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8の扉 デヴァイ
そうと 決まれば
しおりを挟む「ねえ、ウイントフークさん?用事は、無いんですか、祭祀は?祈りは??」
「は?次の祭祀は冬だろう。」
五月蝿いものを見る目で見ているウイントフークは、手を振り私を追い払う仕草である。
失礼しちゃう。
虫じゃないんだけど。
「いきなり何を言い始めたんだ。また何か?やらかしたのか?」
「そういう訳じゃないんですけど。なんか、パーっと。やりたいんですよ。ほら、ここって閉鎖的だからなんだか鬱々としません??しますよね??ね?」
「ふん、俺はいつもと変わらん。とりあえず大人しくしてろ。時期、調うだろう、多分な。」
「多分………。」
確かにウイントフークは基本書斎に篭っているので、何処にいてもそう変わりない。
朝食後、くるくると白衣の周りに纏わりついていた私は諦めて魔女部屋へ向かう事にした。
「だってさぁ………、ねえ?」
「そうだね。でも、君なら。」
この頃千里はフォーレストがいるからなのか、係を任せて出歩いている様だ。
今日も隣を歩く、ふわふわの背に手を乗せながらその意味深な瞳を覗き込む。
多分。
「私なら」。
「行けるだろう?」って、言ってるんだよね………?
でも。
「流石に………いや。どうしようかな…いやいや、ちょっと要検討だわ。」
勝手にラピスへ行くならまだしも(駄目だけど)、グロッシュラーへ行ったならばすぐにバレるに違いない。
それに。
アラルに迷惑がかかるといけない。
向こうの現状が分からないまま、行くのは流石に危険だ。
「でも。イストリアさんの所くらいなら、どうかな…。」
「カチリ」と扉を開け、部屋へ入ると既に寛いでいた朝にツッコまれた。
「あんた、せめて私にくらいは教えなさいよ。何かするなら。」
「えっ?いいの?」
「いや、駄目だけど。」
「駄目なのかぁ…………。」
「て、言うか。何の話?既にホームシック??てか、もう何処が家なのか分かんなくなってきたわね?」
「確かに。」
頷きつつも、バーガンディーにドサリと座った。
別に、ホームシックな訳じゃない。
そりゃ、帰りたいけど。
「なんか、ねぇ。パーっと、やれる場所が無いじゃない?ここって。シャットには庭を創ったけどさ、グロッシュラーには一応外はあったし。ここって。やっぱり、「外」は、無いのかなぁ。」
ん?
チラリと目線を動かすが、朝の姿は見えない。
返事をくれると思っていたのだけど。
何処行ったんだろう??
そのままキョロキョロと探していると、すぐ背後で声が、した。
「あるよ。」
「ひょっ!」
「あんた、ひょって何よ。」
「朝!………って、ジュガ?久しぶりだね?何処に行ってたの?てか、何処にも行かないか…。」
普段あまり姿を見せないジュガに、急に声をかけられやや、お尻が浮いた。
それに多分。
ここに来るのは、初めての筈だ。
それに…………。
「えっ?外?外が、あるってこと??」
コクリ、と頷くその可愛いらしい姿。
くっ。
堪らん。
でもちょっと待って。
「外…………。」
「そう。でも。あっちには、無いよ。」
ああ、そうなんだ。
その言葉だけで、解ってしまった。
スピリット達と、同じで。
向こう、あの青い通路を抜けた先にはきっと外は、無いのだ。
「そっか………そう、なんだ。」
うん?
でも?
こっちには、あるって事だよね??
キラリと光る、ジュガのくりくりした茶の瞳。
多分、「そうだ」という事だろう。
うーーーん?
何処に?
ある、の?
「あっ。」
パッと振り向いて、外を見た。
「あるわ。確かに。」
そう、その大きな窓の外には。
確かに、空があるのだ。
私達の世界と、ラピスにも似た「青い空」が。
「それって、もしかしなくても。」
やっぱり。
空は、繋がってるって、事じゃない??
「ねえ、ジュガ。その、外って出れるの?」
「………?」
くりくりとした瞳で首を傾げられると、これ以上問い詰めるわけにはいかない。
多分、ジュガには「外に出る」の意味が分からないに違いないからだ。
「うーーん?すると、?」
「創ってないから、出られないんじゃない?分かんないけど。」
「!確かに!朝、流石だね!」
「まぁ………でもちょっと待ってよ。流石にそれは、ヤバくない?」
「うーーーん??そう?かな………でもバレなくない??」
「それにしても、石ももっと沢山要るでしょうに。」
「それはある。多分。」
確かになんとなく、だけど。
できない事は、ないのだろう。
しかし、流石に建物と外じゃ全く違う。
あのシャットで庭を創った時も、シンとレシフェが殆どやってくれたんだ。
私は最後の仕上げをした、だけ。
「…………うーん。とりあえず、要検討だね。」
そう呟いて大きな窓を見上げた。
ジュガがそう、言うのなら。
「これ」は、本当の空の筈だ。
「本当の空」って、なんだかおかしな感じだけれど。
これまであった、まじない窓よりもとても大きな水色の空。
確かに流れる雲は多彩だし、時折グロッシュラーの雲にも似て灰色に覆われる時もある。
でも、基本的には。
とても綺麗な晴れた空だ。
「………やっぱりさぁ…人間、自然が無いと。駄目、だよね………。」
ポツリと呟いた私に、朝が欠伸で応える。
フォーレストの四つの瞳も、気持ち良さそうに閉じられて麗かな午後、そのものの、魔女部屋。
「やっぱり。………必要、だよ。」
この、贅沢を一人で。
味わうなんて、勿体なくない??
やっぱり?
やっちゃう?
いいよね?
「よし。」
ひっそりと呟いた私の声に、反応する者は誰もいない。
それなら。
「…………フフフ」
そう、私はこっそりと一人で魔女部屋を、出て。
青の廊下を小走りで帰り、扉を開けて真っ直ぐ、正面の。
礼拝室へ、スキップで向かったのだ。
そう、バレないうちに、ね?
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