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8の扉 デヴァイ
魔法の袋
しおりを挟むこの世界の人って。
どうしてこうも、私に。
「真っ直ぐ進め」と。
言ってくれるのだろうか。
なにか。
合言葉でも、あるのかな…………???
ぐるぐる、ぐるぐると小鍋を掻き混ぜながら。
そんな事を考えて、いた。
結局、フリジアとメルリナイト、二人に相談した結果、やはり「匂い袋」的なものを作る事にした私。
しかしメルリナイト曰く「魔法の袋ですよ!」という事に、なったらしい。
何故かと、言うと。
「…………これは。確かに魔法の一つや二つ、使えそうだね?」
小さな私の癒し石を見せると、フリジアがそう言った。
「このまま入れるか、粉にしてドライハーブと混ぜるか。どちらがいいと思いますか?」
「うーん。ちょっと「いいもの」過ぎるね。粉でいいと思うよ。まあ、気が付かれないとは思うが、先ずは置いてみて、だろうね。」
「そうですよ!ヨルの魔法の袋があるだけでいい事づくめで話題になります、きっと。」
うん?
結局、騒ぎになるの??
しかし、フリジアと相談して「粉にして適量を守る」という事で解決した魔法の袋作り。
しかし、ハーブに粉を入れるだけでは味気ないと、その袋をまじないで染めている所なのである。
「それにしても。お前さんのまじないは、本当に応用が効くね?」
私の掻き混ぜている小鍋を覗き込んで、フリジアがそう言った。
「そう言えば。「何にでもなる」みたいな事、言ってましたよね…?」
そもそも、他の人がどんなまじないの使い方をしているのかすら、知らないのだ。
「応用が効く」という事は。
基本的に、まじないの使い方は決まっているのだろうか。
私の顔を見ていたフリジアは、幾つかカードや小物を持って来た。
どうやら説明してくれる様だ。
しかし、そのうちの一つに。
見た事のある、絵柄のカードが、ある。
「それはもしかして………。」
白地に繊細な水彩画風の、煌びやかな紋様。
その、すっきりとした箱はあの白い魔法使いの禁書室で見たものにそっくりである。
「ああ、それはね。」
しかし、顔を顰めてフリジアは私にそれを押して寄越した。
「神経質で、偏屈な奴が作ってるやつさ。しかしお前さんは銀だから、会えるのではないかい?」
「えっ?そうなんですか?」
それは多分、ウイントフークが言っていたもう一方のカード作者だろう。
何処の家なのかは、教えて貰っていない。
あの人がわざわざ、連れて行ってくれるとも思えないからだ。
しかしこの様子を見ると、フリジアとはあまり仲良くないのだろう。
私からすれば、きっと気が合うのではないかと思うんだけど?
そんな事を考えている私をおいて、フリジアは何かの道具や本を示してながら説明を始めていた。
「うちは元々、何かを作るまじないを使う者が多い。あれには会ったろう、ユークレース。あんな風に、工房を持つ者も多いからね。それとはまた別で、研究に力を使う者もいれば、特に何という事なく、生活に便利な力もある。本当の「力仕事」だ。今はそもそも、力を使う範囲が狭いのだろう。そう、色々と使う者がいないんだよ。」
「成る程………確かに使い道が限られれば、そうですよね…。」
あまり、不便もない。
欲しい物は、用意されていて。
特に不自由も、無ければ。
そんなものなのかも、しれない。
「でも…きっと、楽しい使い方をすれば色々といい世界になると思うんですけどね………?」
もっと、庭を造るとか。
外が見える、窓を造るとか。
なんか、こう、パァーっとする様な、もの。
創れば、良くない??
フワフワと想像を巡らせていると、「鍋、鍋が」というメルリナイトの声で我に返った。
「あっ、いけない。」
パッとまじないを注ぐのを止め、生地を取り出すと小さな歓声が上がる。
「わあ、凄いですよ!師匠!!」
「おやおや。」
「こりゃ、派手だわ…………。」
楽しい事を、考えていたのだ。
確かに。
またお庭とか、空とか、窓の外とか。
「でも虹…………いや、パステルだからいいよね?うん。これでいこう。」
と言うか、染め直せる気がしない。
「いやぁ、私達が乗って来たアレに似てますね?流石ヨルです!」
「しかしこれならすぐに………まあ、今更か。丁度いい宣伝になるかもしれないね。」
二人はそれぞれ端切れを手に取りながら、そんな事を言っている。
沢山の端切れを並べながら、其々違う色が主に出ている所が面白いな、と思った。
これならみんなが、自分の好みで選べるだろう。
「ふむふむ。じゃあ。パパッと縫って、詰めますか。」
「あんた、これにまじないを込めるなら開かない様にしておきな。」
フリジアにそうアドバイスをされ、「成る程」と思い糸にそう願う。
「解けない様に」そう思って、縫えばきっと大丈夫な筈だ。
「よし、やるか。」
そうして私は、小さな虹色の袋、メルリナイトはカード、フリジアは色々していたけれど。
其々が、「込もるもの」を創るために集中して作業を始めたのである。
「おい。そろそろ。帰る、ぞ?」
「う、ひゃっ!!」
な、何??!
「ちょっと、それ止めてって言ったじゃん!」
「お前が気付かないのが悪い。」
「えぇ~………。」
私を迎えに来たのは、極彩色の狐である。
何故だかこっちの姿で現れた千里は、キョロキョロと魔女部屋を楽しそうに観察し始めた。
あれ?
誰も居ない…………。
誰も、と言うのは正確ではないが。
メルリナイトが既にいなくなっていて、既に部屋の主しかここにはいない様である。
フリジアは奥の方で何か作業をしていて、千里の事は気に留めていない様だ。
途中お昼休憩を挟んだが、もうきっと夕方なのだろう。
今思えば、ウイントフークはきっとメルリナイトがフリジアの所から来たのを知っていたに違いない。
だから放っておいたが、帰って来ない事を見越して千里を迎えに寄越したのだ。
「て、言うかもう、夜ご飯?」
「いや、それはまだだが。お前、放っておいたらそのままだろうからな。」
「まあ。そうかもだけど。」
お陰様でと言うか、大分作業は捗って生地は縫上がり後は少し、詰める作業が残っているだけだ。
私達の話し声に気が付いたフリジアが、目を輝かせてやって来る。
千里ときちんと会うのは、初めてだからだろう。
「おやおや。一人かい?」
きっとフォーレストの事を聞いているんだ。
流石、遠慮なく極彩色の毛並みを間近で観察するフリジアは凄いと思う。
この二人は最近、ペアで私と一緒の事が多い。
「鮮やかな狐と癒しの羊」、二人はセットでそう呼ばれているらしいけれど。
実際、千里は結構派手でみんな遠巻きにしているしフォーレストは双頭だ。
慣れると可愛くて癒やされるのだけど。
やはり、初めて見る人は皆、驚いて飛び上がるか離れてゆくのである。
嫌な目付きじゃないからだろう、特に怒る事もなく視線で舐め回されている千里はきちんとフリジアにお礼を言っていた。
「お世話になりました。ヨル、片付けは?」
粗方整理した私も、お礼を言ってまた来ると約束する。
出来上がった袋を、どう配るのか、売るのか。
その辺りも相談しないといけないからだ。
「基本的にはうちから広めるといいと思うよ。それでお前さんの所でも、買えるようにしたらいい。いつも家にいる訳じゃないだろう?」
「確かに。」
そう言ってもらえると、ありがたい。
私も自分の行動に予測が付かないし、きっと魔女部屋以外の用事も。
これからは、入ってくるに違いないからだ。
「そんなら先ずは、試しだね。きちんと、何処に売ったかは記録しておくから。暫くしたら、見てみようか。」
「はい?」
「それは、お前も得意だろう?」
二人の言っている事が、よく分からない。
私の「?」顔を見て、千里がパッと説明してくれた。
「お前、よくやってるだろう。あの、薄く。拡げるやつだ。それで、あれが何処にあって、どう、なのか。分かるだろうよ。自分のまじないは一番捜しやすい筈だ。」
「ほうほう、成る程。」
なんか、白い魔法使いみたくなっちゃったけど。
確かに、それならここがどうなっているかは分かり易いかもしれない。
それに、「ここ」が「生きて」いるならば。
きっと、何かしら分かる筈なのだ。
少しでもチカラが、通れば。
どう、なるのかが。
カラカラと綺麗にグラデーションで並べた、小さな袋を見て思う。
私の魔法の袋が、どこまで癒してくれるかは分からないけど。
「とりあえず、前進、あるのみだね。」
「あまり強くてもいけないから、粉にしたが浄化迄は出来なくとも、中和程度は。成る、だろうよ。」
出来上がった小さな袋を一つ持ち、フリジアが何かを確かめている。
「そうだと良いんですけど。」
「まあ、始まったばかりさ。これからの変化が、楽しみだ。なにしろ「変化」すら。無かったのだから、ね。」
そう言って、ポンと肩を叩き覗き込まれた瞳に応える。
フリジアが映している色は、これまでここを見守って来たとても優しい、色だ。
そう、「変えよう」とするのではなく。
きっとその「きっかけ」を。
創るのが、私の仕事だ。
「さあ、行くぞ?」
「はぁい。フリジアさん、じゃあまた!」
「ああ、気を付けてな。」
もうすっかり灯の減った、薄暗い机の上を片付け忘れが無いかチェックする。
そうして私はフワフワの毛並みをヒョイと抱き上げ、紫の眼を覗き込んだ。
フリジアの前だし、どうやって帰るのかと思ったけれど。
そのままフワリと、極彩色の光に包まれてすぐに辺りは何も見えなくなったのだ。
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