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8の扉 デヴァイ

指輪

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あれは多分、指輪だ。

それも、おじいちゃんに貰ったんだと思う。

こっちの世界で。
指輪をしている人に、会ったことがないからだ。

と、いう事は。
は。



なんでんだろう?

でも。
絶対、あれはディディエライトの石を嵌めた、指輪の筈だ。

私の中は、言っていて。

まさか?
セフィラも?

「無い」とは、言い切れない。

ディディエライトは、あの森で出逢って、私の中の登場人物になって。
セフィラは「聞いた」だけで、姿形は見た事がない。
だからあの時、私の中には出て来なかったのだと思っていたけれど。

でも。
私の、おばあちゃんならば。

いても、不思議じゃないんだ。
だって、血が。

繋がって、いるんだから。



だから長の事も、見た事ないけどなんとなく「わかる」のかなぁ…あの時、シンと居た人だよね?

でも、本当はただ、私がそう思っているだけで。
ホントの本当は、全然、違うのかもしれないけど。



いんや。
多分、絶対、

ていうか、で、行こう。

だって、そうとしか思えないし、考えた方が。

くる。

それに、これは。

  
  私の、道だからだ。


私が、そう、思えば。
それで、いい筈…………。



でも。
なのに。
なん、で?


あの、時。

多分、クルシファーが光って、何も見えなくなって。

多分、あの子達は私を止めたかったんだろう。
駄目なのは、分かる。

分かるん、だけど。



モヤモヤとぐるぐる、居た堪れない感覚と少し震える身体。
我慢できない何かを、押し殺している様な。

でも、実際。

、なんだろう。


多分、もう一度入っても、あの場面にはならないに違いない。
そう都合良くはないだろう。

だから。
あの時、チャンスは一度きりだった筈だ。

あの子達も。
は、解っていた筈なんだ。

でも止められた。

うん、分かる、解るよ。
駄目なのも。

でも………。



同じ所をぐるぐると回る思考、解決の糸口は見つかりそうにない。

もう、起こってしまった事だし、過去を変えるのはまずい。
流石には、大き過ぎる。


なんとなく、頭に響いていた石達の声。

そうだよね………そう、なんだけど。



ふと、冷静になると指輪が急に気になってきた。
思い出したのだ。

私が、探しているもののうちに「姫様の指輪」が、ある事を。

これ、は?
まさかじゃなくて、多分同じものだろう。

て言うか、そもそも?
姫様を探しに来たのはいいんだけど、姫様って、なんで?
こっちに、いるの??

体も探すとして………いや、中身は私の中にある。
うん?
いや、まあ知ってても教えてくれないか…。



自分が寝ているのか、起きているのか。

分からなかったけど、とりあえずは忘れないうちに記憶を整理する事にした。
多分、石達は私の事を心配している筈だ。

自分の中で、考えがある程度纏まれば。
糸口も掴めるかもしれないし、気持ちも落ち着くかもしれない。

そう思いでも、しなければ。

ずっと泣いているだけの、自分になりそうだったからだ。



さて。
じゃあ。

そもそも?
初めから、考えると?

私は姫様の服と指輪、体を探しに来た。
此処へ。
ついでに靴も、見つけたけれど。

指輪は、多分セフィラの指輪だ。
石を指輪にして持っていたと考えても何ら不思議はない。
そもそも、大きさは分からないけど小さな石をずっと持ち歩くには、失くしそうで怖い。
それで指輪にしたならば、辻褄が合う。

人形の指輪を作るのなんて、多分かなり難しい筈だ。
セフィラの指輪だと思っていて、間違い無いだろう。
それに姫様を作ったのは、セフィラだ。

うん?
それって、人形の中に指輪、とかじゃないよね………それだと楽なのか、どっちなのか………。

でも。

あの時のセフィラは、あれからいなくなってしまった。

だから。
姫様は、あの時点ではどうだったんだろう?
いや、でもまだ腕輪と指輪をしていたならば姫様は居なくなってない筈。

ううっ、既にこんがらがってきた~。


そもそも、これ別に解決しないよね?
どっちにしても、セフィラは消えて、姫様も消える。

もう、私は追いかける事が、できないのだから。

でき、ない?


ホントに?

できない、のかなぁ…………。




ぼんやりと色が付く視界、これは見慣れたあの色ではなかろうか。

心配、してるんだ………。

じゃあ、私やっぱり寝てるのかな?
夢?
うーん?
頭の中?

まあ、いいか。
とりあえず起きないと、またピッカピカにされちゃいそう………。


温かく柔らかな何かが流れ込んで来た気がして、ピクリと手が動くのが解る。

手に、触れられる感覚、そのまま身を委ねていると感じられる部分が多くなってきた。
ジワジワと、身体全体に拡がる金色は容赦なく私の色を塗り替えてゆく。


うん?
ちょっと、待って?

起きなきゃ。
でも、身体が。

動かない、けど??
どうなってるの???


身体の感覚から、言えば。

多分、あの人は私の上に、乗っかっているに違いない。
指先や足は、少し動くのだけど顔から体全体は動かせないのだ。

目よ、目。

ハッと思い付いて、目を開ける。

しかし、閉じられた金の睫毛が至近距離に見えるだけで、口が塞がれている事に今更気が付いた。


えっ。
えぇ~ー?
ちょ、これ?
いつ、気付くの?

でも。
気付いて、るんじゃないの???


「ねえ、ちょっと、起きてる!起きてるけど?!」

頭の中で、呼び掛けてみる。

絶対、聞こえている筈だ。

しかし、びくともしない大きな身体は徐々に熱くなってきて次第に手まで、動き始めた。

私の、腰の辺りを。
撫で始めたのだ。

ちょ、無理、無理なんですけど???!
また、寝ちゃうよ?
暫く、起きないかもよ??????


「っ」

「っ、ちょっと!笑ってるでしょ!!」

パッと、顔を離して枕に埋まった金髪はゆっくりと揺れている。
身体はまだ私の上に乗ったままだが、喋れる様になって大分楽になった。


手の動きは止まり、しかし私を離さない腕はそのままコロリと横になって懐かしの体勢になった。

いつも二人で寝ていた、あの抱えられた形。
すっと馴染んで落ち着く、その形だ。


だけど。
その、所為で。

忘れていた私の涙腺君が、崩壊した。

忘れていたままで、良かったんだけど。
多分、だから。
ふざけて私を、軽くしてくれようとしたのだろうけど。

どうしたって、これは。

出てきてしまう、ものだったからだ。





そのまま、暫く。

繰り返すぐるぐる、どうしようもない想いと割り切ろうとする気持ち、色んな思いがぐちゃぐちゃになったまま、しかし涙は止まり始めて、いた。

身体が疲れたのだろう、しゃっくりが徐々に止まってきて。

鼻だけが詰まっている、なんだか残念な感じになっている。
顔も、ぐちゃぐちゃ。
頭の中も、髪も。

本来なら、好きな人には見せたくない、この姿。

でも今更だ。
今まで散々、私の泣き顔なんて見てきた筈だ。


恥ずかしい気持ちは無く、そのまま金の瞳を見上げた。

「どうしよう。」

私の口から出たのは、この言葉。

それを聞いた金色は、少し考えてこう言った。

「どう、する?吾輩、答えを知っているが。しかし、吾輩が知るのは答えだ。」


うん?

謎々みたいな事を、言い出した金色はそのままじっと私の目を見つめている。


 私の?答え?


それって?
どういう、事だろう?


でも。

多分、「どうするべき」とかじゃなくて。

「私が出すであろう答え」を、知っているという事なのだろう。

多分「どうするべきか」になると、結局堂々巡りになるのだ。
やはり、過去は。
変えない方が、いいという事なのだろう。

と、いう事は………。

私の出す答え?

で?気焔が、「知っている」こと、と言えば。


思い当たる事は、一つだ。

確かに。

そう、言われれば。

そうするしか、無いのも解る。


「狡いな。」

「何が。」

ニヤリと笑う、その顔が眩し過ぎて死にそうだった。

なんなの、この人。

かっこ良過ぎない???


「分かった。そうする。」

「ん?言ってみろ。」

分かってるくせに。

揶揄う様に、しかし優しい金の瞳にそう言われて、心臓が煩くなってきた。

今日はもう、お腹いっぱいである。
これ以上、注ぎ込まれる訳にはいかない私は観念して口を開いた。


 「真っ直ぐ。進む、だけだよ。」


満足そうに細まる瞳は「正解」という色を宿して。

なんだか負けた気がして悔しい私は、その隙を狙って金色を返し、自分の色を彼に、注ぐ。

しかしすぐに顔が熱くなってきて、パッと離れた。

「なんだ、もう終わりか?」

してやったり顔で顔を離すと、そう言った金色。

「もー!!キライ。」

くるりと振り返って、布団の中に潜り込んだ。

でも、金色が見えなくなるとジワリと拡がる胸の中の、色。

淋しげな水色がジワリと沁み込んでくる気がして、くるりと振り返り懐に潜り込んだ。


そうして私は、寂しさを抱えながらも、やはりそれも、持って一緒に進む為に。

「そう、飛ばせば。」

落ち着く腕の中、ゆっくりと深く呼吸すると。

ポソリと呟き、水色の蝶にして。

少しずつ、少しずつ、飛ばし始めたのだ。

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