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8の扉 デヴァイ

美しいなにか

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泣きそうな程、美しいものを見ることって。

なかなか、無いと思う。


ある日の青のホール、高い天井を遊ぶ鳥達を眺めながらふと思い付いて扉の前に立った。

そうだ。

あの、鉱山への扉だ。

あの時から。
この扉へは、入っていない。

結局、「時の鉱山」と勝手に名前を付けていた私は一応、ウイントフークから「勝手に入るな」とは、言われていた。

まあ、前回も勿論、言われてはいたのだけど。


丸く白い天井に青の紋様、色とりどりの鳥達が飛ぶこのホールは、一種の動物園の様である。
もし、小鳥のコーナーがあったならば。

種類は分からないけれど、こんな感じじゃないかと、思う。

「………美しいな。」

いつもの様にそれを見上げていた私は、何故だかその日に限って「もっと美しいもの」が、見たくなった。

しかし。

もっと、美しいもの………?


この、ホールの鮮やかに飛ぶスピリット達よりも。
美しい、ものなど中々いないとは、思う。

うん?

ぐるりとホールを見渡し、ふと、目に付いた扉。
そう、あの「開けゴマ」の扉である。

「ちょっとだけ、ちょっとだけだよ………。」

キョロキョロと辺りを見渡してもお目付役は見当たらない。
そこへ、魔女部屋へ至る通路から白いフワフワが歩いて来るのが見えた。


「そこへ。行くのかい?」

私の側まで来ると、そう訊いた大きい方の子。
名前が必要だろうか。
いやしかし、余計にややこしくなりそうである。

私が関係ない事を悩んでいると、下の子が初めて、喋った。

「ヨルなら青い子だから。行こう。」

えっ。声、可愛い。

その、話の内容が気になったけれど声が違う事に驚いて、そのまま頷いた私。

まあ、頭が違うのだから。
声も違って、当然なのだろうけど。


「それなら、見つからないうちに。行こうか。」

大きい方のフォーレストも、中々悪戯好きの様だ。
多分、この中で危険に遭う事はない。
それは、私も

「じゃあ。行くよ?」

そうして四つの青緑の瞳に見つめられながら、再びの呪文を唱えたのだ。





確かここ、暗かったよね………?

扉を入って、すぐは。
確かに、少し暗くて足元もあまり見えなかった。

しかし、少し歩くとなんとなく見えている足元、はっきりと見える四つの瞳。

うん?
これ、この子、光ってない??


そう、何故だかは分からないけれどフォーレストが少しだけ発光しているのだ。

元々白い毛が闇の中で目立つのだが、その上ぼんやりと。
辺りを、照らしているのである。

「何それ。可愛い便利。」

そうしてフワフワの毛並みにいつもの様に、手を置くと。

ぼんやりと光る足元、遠く微かに見える、幾つかの明るい光。
多分、坑道の向こう側が明るいのだろう。

誰かいるのだろうか。

「でも、私の事って見えないんだっけ?」

どうだっけな??

「あの女の子」でこの坑道を見た時と、自分が入った時がごちゃごちゃで分からない。

「ま、見つからないに越した事ないか…。」

そして、偶然なのかなんなのか。
幸いにも、今日の私は青い服だ。

もし、見つかったとしても。

「イケる。」


そうして一人、ニンマリとしながら。

フワフワの感触を楽しみつつ、暗い道を散歩と洒落込んでいたのだ。

自分が何をしに来たのかは、すっかり忘れて。






「て、言うか。なんでここに入ったんだっけ?」

暫く進むと、幾つかの行き止まりと外に繋がる道、それぞれを体験した私は少し飽きてきていた。

始めこそ、緊張していたのだが意外と人には会わない。
今日は誰も、石を探しに来ている人はいないのだろうか。


そう思いつつ、大分緊張が解けていた私はやや鼻歌混じりに歩いて、いた。

「ヨル」

「なぁに?」

「人がいる」

「えっ!むむ。」

急いで口を塞いだが、遅かったろうか。

確かに見える人影、しかしその動きにこちらに気が付いた様子は無い。

危なかったぁ~………。


スカートを履いているので、女性だろう。

私とそう背格好が変わらない女の人が、一人歩いている。
でも別の穴に入ってしまい、すぐに姿は見えなくなった。

「大丈夫、そうだね………。」

あれ?

少し様子を見て、歩き出そうとすると再び穴から出てきた女の人は別の穴に入って行く。

沢山の場所を掘っているのだろうか。

しかし、再び様子見をしていると次々と隣の穴へと順に入っている事が分かる。
どうやら全坑道を制覇したいらしい。


中々貪欲な人らしいね………。

そんな事を考えながら、ボーッとその人の用が終わるまで待っていた。
何故なら私はそこを通らないと、帰れないからだ。


しかし。
何度も過ぎるその人を見ているうちに、私はある事に気が付いた。

目が、慣れてきたのもあっただろう。

「ねえ、フォーレスト?」

「なんだい?」

「あれって………。」

「うん、ヨルに。似ている、ね。」

それって、やっぱり………?


坑道を一人、ウロウロする女、水色の髪に私に似た背格好。
流石に瞳の色までは見えないけれど。

顔立ちも、なんとなく似ている気はする。

ディディエライトはあの森で会ったし、「私の中」でも、会った。
館には絵も、あったし。

しかし、セフィラについては「似ている」という情報しか、無いのだ。


うーーん?
それは、まあ置いておくとして。

あの人、何してるんだろうか………。


しかし、次々と穴に入って終わりに近づく頃。

よくよく彼女を観察していた私は、ある事に気が付いた。
小さな袋を持っている、彼女の指に光る、もの。
あれは多分指輪だろう。

それに。

「ねえ。誰か?」

「アタリよ、依る。」

この、時間がいつなのか判らないけど。


腕輪は、腕輪だ。

蓮が言うのだから、間違い無い。

「えっ?同時に存在してるって事??」

「多分、次元が違うのよ。依るが近づいてもバレないと思うけど、彼女だから………。まあ、止めとくのが無難ね。」

えっ?
ちょっと待って?

それって…………この子達の、本来の持ち主が。
彼処にいる、って事だよね………?


でも。
なんとなく。

私自身もこの子達と離れたくなかったし、多分ここからあそこへは。
行けないのだろう。

良かった………。
もし、蓮から「早くセフィラに返して」とか言われたら私凹むわ多分。


ぐるぐるしながらも目だけはそちらを向いていた私は、再びの事実に気が付いた。

「あれ?袋持ってないんだけど。」

さっきまで手にしていた、小さな袋を持っていない。

そうして多分、最後の穴から出てきた彼女は。
キョロキョロと辺りを確認しながら、外へ繋がる通路を戻って行った。




「ねえ。訊いても、いい?」

暫くそこに立ち止まっていた私は、悩んだ末に訊いてみる事にした。

これまでは。
なんだか、ルール違反の様な気がしてセフィラや姫様の事については。
この子達に、尋ねた事はない。

でも。
私の中に、芽生えた疑問。
これを、訊くだけならいいかもしれない。

答えてくれなかったら、諦めよう。
そう思って、口を開いた。


「セフィラは何度か行ったり来たりしてたんだよね?」

「そうね。でも。私達が一緒にこっちへ来たのは。」
「一度だけだよ。」

「えっ?そうなの?」

意外とすんなり、答えてくれる藍とクルシファー。

しかし、宙の一言で。
私の頭も少し時系列が分かるようになってきた。

「私達があの方のものになったのは、惣介が購入したからなのですよ。」

「!そうか。えっ?うん?」

確か、セフィラが「世界を周っていた」と言っていたフローレスの話は、まだおじいちゃんに会う前の話の筈だ。
いや、悩み始めてからは会っては、いたのかもしれないけど。

でも多分、腕輪を買うなんて関係になっているとすれば?
あっちに、行ってからだよね?

その、後は。

一度だけしか、来てないってこと………?


そしてその時。

 「ああ、石を埋めに来たんだ」

直感で思った。


私達の世界の、この子達の様な石を。
見付けたのだろう。
セフィラは。

そして。

その後の事は、なんとなく分かる。

だって。私も、見てきたからだ。

この、世界のアンバランスさ、不足する力と質の良い石。

「えっ?ちょっと、待って?」





と、いう事は?

この後、セフィラは?


「ちょっと、宙?!」

「いいえ」

その、一言で理解した。

どんなに、私が助けたくとも。


  できない、のだと。


「えっ?でも?今までも沢山、覆してきたじゃん?駄目なの?絶対?無理、なの??」


「ヨル。は。未来が、変わる。」


ああ、んじゃ、ないんだ。

フォーレストの嗄れ声が、そう告げる。

でも待って?
未来が変わって、困る事ある??

セフィラが生きてる方が、万歳なんじゃないの?


はお勧めしない。何より君が、へ来ないだろうし、そもそも過去を変えれば。君は、産まれないかもしれないからだ。」


えっ でも  それって

でも 私  セフィラ  私  セフィラ?


  私?



「ごめん」


そう、クルシファーの声が突然聞こえて。

鋭い閃光が走り、いきなり明るくなった坑道に思わず目を、瞑った。
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