透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
504 / 1,700
8の扉 デヴァイ

そのままで

しおりを挟む

「待たせたな。」

そう言って応接室に入って来たのは、くだんの本部長である。

勿論私が呼んだ。
だって、この人がいないと作戦が始まらないし、なんなら同じ事を二度きちんと説明するのが面倒だったからである。

それに多分、ちょっと内容変わりそうだしね………。


メイドがお茶を淹れ変えてくれ、珍しいメンバーにチラチラと視線を注ぎながら出て行った。

「あれは教育し直しかね………。」

そう言いながらもメディナは何かをラガシュに合図し、彼は部屋を出て行った。

あれ?
参加しないのかな?
あの人主要メンバーだと思うんだけど………。


すると少しして、メディナの息子イオデルを伴い再び部屋へ入って来た。
どうやら呼びに行っていた様だ。
やはりこの人が、次期の実権を握るのだろう。


「さて。」

何故だか誰も口を開かない部屋の中、きっと呼ばれた理由を聞きたいであろう本部長が口火を切った。
男達はまだ顔を見合わせ様子を窺っている。

「あのですね…。」

どうしようかと、思ったけど。

きっと細かい説明は無くともこの人は話が分かるだろうし、結果だけ伝えれば十分な事が分かっている私は話がこんがらがる前に、口を開いた。


「あの、結果だけ言うと。私は隠れるつもりも無いし、誰かを。罰して欲しいとも、危険を排除して欲しいとも、思っていません。」

イオデルとラガシュ以外は、「そうだろうな」という顔である。
メディナは表情を変えずにみんなの反応を見ているのだろう、男達の顔をぐるりと見回していた。

「では、危険がある、という事についてはどうするつもりだ?常に誰かが一緒にいるとは。限らないだろう?」

そう言ったのはイオデルだ。

確かに、そうなんだけど。
はたから、見れば。

「あの。多分、私をで害する事ができるとすれば、多分。あの、礼拝堂の靄とか、長自身、とか。そんな感じだと思うんですけど………。」

アリススプリングスの家で寝こけていた私に説得力は無いかもしれない。

でも。

渋い顔をしているラガシュ、驚きの表情のイオデル。
本部長は一人「そうだろうな」という顔をしているし、金色は複雑な顔だ。

「分かって」いるのだろうけど。

それと、これとは別なのだろう。
その気持ちも、解る。


しかしこの空間が生き物の様に感じ始めていた私は、余程の事が起きない限りは自分の位置が把握できる様な気がしていた。

それにここには。

金色は勿論、極彩色もフォーレストも。
それに私には腕輪だって、あるし。

うーん、でも眠り薬とか?
どうなんだろうな、実際…強く出過ぎ………??


「この子はそう言っているが、お前達はそれでいいのかい。」

「それに、どうしますか?結局。どちらでもない、という事は。」

メディナ親子に問い掛けられ、視線は本部長に集中していた。
ラガシュは多分、排除しないのならば代案を出すまで納得しないに違いない。

残念ながら私の頭では、それは思い付かないのだ。
今の、ところは。


そうして自然とみんなの視線が本部長一点に集まった頃。

水色の髪を後ろに流しながら、ウイントフークはこう言った。

「とりあえず、殺す事は、しないが。捕まえて尋問する程度は、許されるだろうな?」

これは私に問い掛けられている言葉だ。
頷いて了承の意を示すと、ラガシュに向き直りこちらにも確認をする。

「後で擦り合わせるが、こっちの件はお前の管轄だ。程々にしないとお前の姫は口をきいてくれなくなるから注意しろ。」

「はい。」

良かった。

ラガシュの表情を見て、ホッとする。
落ち着いた灰色に戻った瞳は、いつもの様に私をニコニコしながら見たからだ。

「えー、本人は隠す気のないという事だが、礼拝でもうこいつの姿は知れた筈だ。」

みんなが頷いている。
千里は「私を誤魔化すため」とは言っていたけど、流石にあれだけ人目があればそうもいかないだろう。

「しかし、意外に存命な者は少ない。あの絵も、限られた者しか見る事がないだろうしな。姿については、長老達の動きを注視してまた計画を立てる。それ以外のことだが………。」

それ以外?

チラリと金色を確認するが、何故だかそっぽを向いている。
私達の動きを見ていたラガシュが、説明してくれた。

「ヨル、噂が回っているのは聞きましたね?」

「はい。」

早っ。
やっぱりラガシュも、知ってるんだ。

なんだか先生に彼氏がバレた様な、気まずさがある。
スカートの生地を眺め出した私にこう続けるラガシュ。
それは概ね、パミール達と話した内容と変わらないものだったけど。

「身分が………。沢山の…。それでですね………」

つらつらと終わらない、なんだか周りくどいラガシュの話に、ズバリと斬り込んだのはやはり本部長であった。


「お前のまじないが強いのは、間違いない。だがな。お前の事が、色々知れた所為で。危険は増えた、という事だ。」

「ん?」

「だから、お前を害する方法なんて沢山あるという事だ。殺す以外に、もっと手軽で簡単に「傷付けられる」方法が。あるんだよ。お前の年頃ならもう、分かるだろう?貴石にも、行ったしな。」

あ。

えっ。
そっち………、ですか。

少しだけ想像してしまい、ブルリと身体が震える。
フワリとフォーレストが寄り添ってくれ、いつの間にやら戻っている千里も、反対側に陣取った。


うぅ、それは流石に。
嫌だ………。

縮こまって黙る私を蚊帳の外に、男達は再び何やら話し始めている。

フワフワに寄り添われ、一息吐いている私に向かってメディナが近づいて来た。

そっと屈み込む白髪に近い青灰の髪。
耳元で密かに囁かれた内容に、耳を疑った。

が、しかし。
知っていても、不思議は無い。

そう、石を持っている事は、当たり前の事だからだ。

「あんたは。セフィラの白い石の在処を、知っているかい?」

そう尋ねた背後をぎこちなく振り向くと。
私の顔色で察したのか、続きを話し始めた。

「多分、だけれど。この世界の者は、持っていないと思う。あの石は、特別だった。。未だ、この世界にあるならばバランスが変わっている筈なんだ。持ち主が、変わるのだから。しかし、それは無かった。………お前さんは知らないのだね。」

無言で頷く。

「もしかしたら。セフィラ自身も勿論、そうだけれど石を狙われた可能性もある。なにしろ彼女が居なくてもあの石があれば、と思う輩がいると思う方が自然だ。そして奴等もきっと、石は誰も手にして居ない事を知っている。」


まさか?

そこまで聞いて、メディナの言いたい事がなんとなく分かった。

「私が。疑われてるって、事ですよね?」

ヒソヒソと話す女の内緒話に、気付いているだろうか。
多分、金色だけは。
分かっているだろうけど。

少し向こうを気にしながらも私達はヒソヒソと話をして。

「私を狙う者は確実に石も狙っているということ」
「白の石の話はセフィラを知る者一部でしか共有されていないであろう予測」
「石の話は知らなくとも狙ってくる男性には気をつけること」
「女性だと思って油断しないこと」

その、最後の注意点を聞いて思わず目が丸くなった私。

少し顔を崩したメディナは、笑いながらこう言った。

「仕方の無い子だね。勿論、さ。本心からか、どうかは判らないが協力している者は女もいるだろうよ。だからくれぐれも。気を付けて、おくれよ?」

「はい。」

「あんた達は。「自分はどうなっても」と、思うんだろうがこっちはそういう訳にもいかないんだ。それに、。同じ事は、二度と懲り懲りさ。」

そう言ってケラケラと笑い出したメディナに、みんなの視線が集まる。

何故笑っているのか、という雰囲気の中、男達の話もお開きの様だ。

ローブを羽織り直したウイントフークが席を立ち、先にラガシュと部屋を出る。
二人で別の相談でもするのだろう。


あの人、挨拶しなさいよ………。

「失礼しました。では、これで?」

代わりにイオデルにそう言い、黄緑の瞳も確認すると二人とも頷いてくれる。

「またおいで。」

「はい、ありがとうございました。」

そう言うメディナに頷いて、冷めたお茶を飲み干した。

そうして、私もローブを被ると。
千里が先頭に立ち、フワフワの頭に押され私も立ち上がる。

重い扉を金色が開けてくれ、「失礼します」と部屋を出た。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇

ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。  山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。  中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。 ◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。 本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。 https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/ ◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

THE LAST WOLF

凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?! バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。 勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。 このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。 彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。 人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。 高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。 こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!

罰ゲームから始まる恋

アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。 しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。 それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する 罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。 ドリーム大賞12位になりました。 皆さんのおかげですありがとうございます

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...