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8の扉 デヴァイ
そのままで
しおりを挟む「待たせたな。」
そう言って応接室に入って来たのは、件の本部長である。
勿論私が呼んだ。
だって、この人がいないと作戦が始まらないし、なんなら同じ事を二度きちんと説明するのが面倒だったからである。
それに多分、ちょっと内容変わりそうだしね………。
メイドがお茶を淹れ変えてくれ、珍しいメンバーにチラチラと視線を注ぎながら出て行った。
「あれは教育し直しかね………。」
そう言いながらもメディナは何かをラガシュに合図し、彼は部屋を出て行った。
あれ?
参加しないのかな?
あの人主要メンバーだと思うんだけど………。
すると少しして、メディナの息子イオデルを伴い再び部屋へ入って来た。
どうやら呼びに行っていた様だ。
やはりこの人が、次期の実権を握るのだろう。
「さて。」
何故だか誰も口を開かない部屋の中、きっと呼ばれた理由を聞きたいであろう本部長が口火を切った。
男達はまだ顔を見合わせ様子を窺っている。
「あのですね…。」
どうしようかと、思ったけど。
きっと細かい説明は無くともこの人は話が分かるだろうし、結果だけ伝えれば十分な事が分かっている私は話がこんがらがる前に、口を開いた。
「あの、結果だけ言うと。私は隠れるつもりも無いし、誰かを。罰して欲しいとも、危険を排除して欲しいとも、思っていません。」
イオデルとラガシュ以外は、「そうだろうな」という顔である。
メディナは表情を変えずにみんなの反応を見ているのだろう、男達の顔をぐるりと見回していた。
「では、危険がある、という事についてはどうするつもりだ?常に誰かが一緒にいるとは。限らないだろう?」
そう言ったのはイオデルだ。
確かに、そうなんだけど。
側から、見れば。
「あの。多分、私を本当の意味で害する事ができるとすれば、多分。あの、礼拝堂の靄とか、長自身、とか。そんな感じだと思うんですけど………。」
アリススプリングスの家で寝こけていた私に説得力は無いかもしれない。
でも。
渋い顔をしているラガシュ、驚きの表情のイオデル。
本部長は一人「そうだろうな」という顔をしているし、金色は複雑な顔だ。
「分かって」いるのだろうけど。
それと、これとは別なのだろう。
その気持ちも、解る。
しかしこの空間が生き物の様に感じ始めていた私は、余程の事が起きない限りは自分の位置が把握できる様な気がしていた。
それにここには。
金色は勿論、極彩色もフォーレストも。
それに私には腕輪だって、あるし。
うーん、でも眠り薬とか?
どうなんだろうな、実際…強く出過ぎ………??
「この子はそう言っているが、お前達はそれでいいのかい。」
「それに、どうしますか?結局。どちらでもない、という事は。」
メディナ親子に問い掛けられ、視線は本部長に集中していた。
ラガシュは多分、排除しないのならば代案を出すまで納得しないに違いない。
残念ながら私の頭では、それは思い付かないのだ。
今の、ところは。
そうして自然とみんなの視線が本部長一点に集まった頃。
水色の髪を後ろに流しながら、ウイントフークはこう言った。
「とりあえず、殺す事は、しないが。捕まえて尋問する程度は、許されるだろうな?」
これは私に問い掛けられている言葉だ。
頷いて了承の意を示すと、ラガシュに向き直りこちらにも確認をする。
「後で擦り合わせるが、こっちの件はお前の管轄だ。程々にしないとお前の姫は口をきいてくれなくなるから注意しろ。」
「はい。」
良かった。
ラガシュの表情を見て、ホッとする。
落ち着いた灰色に戻った瞳は、いつもの様に私をニコニコしながら見たからだ。
「えー、本人は隠す気のないという事だが、礼拝でもうこいつの姿は知れた筈だ。」
みんなが頷いている。
千里は「私を誤魔化すため」とは言っていたけど、流石にあれだけ人目があればそうもいかないだろう。
「しかし、意外に存命な者は少ない。あの絵も、限られた者しか見る事がないだろうしな。姿については、長老達の動きを注視してまた計画を立てる。それ以外のことだが………。」
それ以外?
チラリと金色を確認するが、何故だかそっぽを向いている。
私達の動きを見ていたラガシュが、説明してくれた。
「ヨル、噂が回っているのは聞きましたね?」
「はい。」
早っ。
やっぱりラガシュも、知ってるんだ。
なんだか先生に彼氏がバレた様な、気まずさがある。
スカートの生地を眺め出した私にこう続けるラガシュ。
それは概ね、パミール達と話した内容と変わらないものだったけど。
「身分が………。沢山の…。それでですね………」
つらつらと終わらない、なんだか周りくどいラガシュの話に、ズバリと斬り込んだのはやはり本部長であった。
「お前のまじないが強いのは、間違いない。だがな。お前の事が、色々知れた所為で。危険は増えた、という事だ。」
「ん?」
「だから、お前を害する方法なんて沢山あるという事だ。殺す以外に、もっと手軽で簡単に「傷付けられる」方法が。あるんだよ。お前の年頃ならもう、分かるだろう?貴石にも、行ったしな。」
あ。
えっ。
そっち………、ですか。
少しだけ想像してしまい、ブルリと身体が震える。
フワリとフォーレストが寄り添ってくれ、いつの間にやら戻っている千里も、反対側に陣取った。
うぅ、それは流石に。
嫌だ………。
縮こまって黙る私を蚊帳の外に、男達は再び何やら話し始めている。
フワフワに寄り添われ、一息吐いている私に向かってメディナが近づいて来た。
そっと屈み込む白髪に近い青灰の髪。
耳元で密かに囁かれた内容に、耳を疑った。
が、しかし。
知っていても、不思議は無い。
そう、石を持っている事は、当たり前の事だからだ。
「あんたは。セフィラの白い石の在処を、知っているかい?」
そう尋ねた背後をぎこちなく振り向くと。
私の顔色で察したのか、続きを話し始めた。
「多分、だけれど。この世界の者は、持っていないと思う。あの石は、特別だった。だから。未だ、この世界にあるならばバランスが変わっている筈なんだ。持ち主が、変わるのだから。しかし、それは無かった。………お前さんは知らないのだね。」
無言で頷く。
「もしかしたら。セフィラ自身も勿論、そうだけれど石を狙われた可能性もある。なにしろ彼女が居なくてもあの石があれば、と思う輩がいると思う方が自然だ。そして奴等もきっと、石は誰も手にして居ない事を知っている。」
?
まさか?
そこまで聞いて、メディナの言いたい事がなんとなく分かった。
「私が。疑われてるって、事ですよね?」
ヒソヒソと話す女の内緒話に、気付いているだろうか。
多分、金色だけは。
分かっているだろうけど。
少し向こうを気にしながらも私達はヒソヒソと話をして。
「私を狙う者は確実に石も狙っているということ」
「白の石の話はセフィラを知る者一部でしか共有されていないであろう予測」
「石の話は知らなくとも狙ってくる男性には気をつけること」
「女性だと思って油断しないこと」
その、最後の注意点を聞いて思わず目が丸くなった私。
少し顔を崩したメディナは、笑いながらこう言った。
「仕方の無い子だね。勿論、いるさ。本心からか、どうかは判らないが協力している者は女もいるだろうよ。だからくれぐれも。気を付けて、おくれよ?」
「はい。」
「あんた達は。「自分はどうなっても」と、思うんだろうがこっちはそういう訳にもいかないんだ。それに、もう。同じ事は、二度と懲り懲りさ。」
そう言ってケラケラと笑い出したメディナに、みんなの視線が集まる。
何故笑っているのか、という雰囲気の中、男達の話もお開きの様だ。
ローブを羽織り直したウイントフークが席を立ち、先にラガシュと部屋を出る。
二人で別の相談でもするのだろう。
あの人、挨拶しなさいよ………。
「失礼しました。では、これで?」
代わりにイオデルにそう言い、黄緑の瞳も確認すると二人とも頷いてくれる。
「またおいで。」
「はい、ありがとうございました。」
そう言うメディナに頷いて、冷めたお茶を飲み干した。
そうして、私もローブを被ると。
千里が先頭に立ち、フワフワの頭に押され私も立ち上がる。
重い扉を金色が開けてくれ、「失礼します」と部屋を出た。
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