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8の扉 デヴァイ
「いい」とか、「悪い」とか
しおりを挟む隣の部屋へ、戻ると。
二人の話は白熱していて、何故だかそれを傍観している金色が、加わっていた。
あの、図書室で勝手に燃え始めた金色と、風で焔を靡かせたラガシュ。
あの時は。
私が怒って、その場を離れたのだ。
結局あの時の話はそのまま、ここへ持ち越されているのだろうか。
て、いうか。
何をそんなに、揉めてる訳??
「こら、お前達。そろそろ辞めないか!」
いきなりのメディナの一喝、勢いよく話していた男達は本能的に縮み上がったに違いない。
何処の世界でも。
母親からの一喝は、強力なのである。
そういえば今日、メディナさんの息子さんは居ないのかな………?
この前一瞬だけ会った、知らない男性がメディナの息子だと聞いている。
その人が後継になるのだろうか。
それなら今日、呼ばないのかな…………。
いやいや、人様の家の事情まで気にしている余裕は、私には無い。
シュンとした男達を前に、メディナは皆を座る様促すと自分は立ったままで話を始めた。
「で?お前達は。本人抜きで、一体何を話すと言うんだい?」
うん?
本人?
キョトンとした私を前に、気不味そうなラガシュとベイルート。
いや、ベイルートはテーブルをウロウロしているだけだけど。
動き方で、なんとなく分かるのだ。
「ヨルは。どう、思う?どちらの方が。いいか、悪いかそれはお前さんが。決める、事だ。」
「………えっ、あの、はい。そもそも、二人は何を揉めてるんですか?」
そもそもの前提が分かっていない私は、そう2人に訊いたのだが、何故だかその質問に答えたのは金色だった。
「お前を、狙う者から「隠す」のか、それとも向こうを「排除する」のか。簡単に言うとそう言うことだ。」
「そう、なの………。」
そう言って再び壁に凭れる金色、ラガシュとベイルートは目だけで私に訴えてきている。
多分、ラガシュは「排除する」の方だろう。
確か図書室でもそんな事を言っていた筈だ。
なら、ベイルートが「隠す」方か。
でも?
どうやって、今更隠すんだろう………?
「隠す」
「排除する」
どちらがいいか、悪いのか。
いや、いいとか悪いとかじゃ、ないと思うけれど。
でも、この場合「選ぶ」という事はそうなってしまうのだろうか。
でも。
「隠す」とか「逃げる」、「罰する」「弑する」「消す」とか。
それって。
結局。
「解決」では、なくない?
どちらがが、消える?
それでなんとか、なるの?
それで、しか。
世界は、変えられないの?
そもそもの問題は、セフィラがいなくなったことでも、長の寿命?が尽きることでも、ない筈だ。
「誰か一人が犠牲になって世界を支えること」
それが原因に、他ならない。
私は、そう思う。
多数の上には少数の犠牲は必要だという考え方は嫌いだ。
だって、多分。
みんなが、救われる方法だってある筈なんだ。
ちゃんと試したのかな?
探したのかな?
面倒くさいからじゃ、ないの?
「ひとり」を犠牲にする方が、簡単だから。
そうしただけなんじゃ、ないの?
私達は。
逃げ続けて、殺され、殺して、傷付け合って。
その、連鎖を止める事は。
できない、のか。
誰もが胸の中に蟠りを持ちながら生きるしか、方法は無いのだろうか。
答えは知っているんだ。
ただ、方法が分からないだけで。
これまでと同じことを繰り返していたって。
現実は、変えられない。
だってずっと、繰り返して逃げ続けて、隠し続けてきたのに、これっぽっちも。
世界は、良くなっていないからだ。
それなら?
スルリと視線を滑らせると、キラリと光る玉虫色、灰色の知的なしかし静かに熱い瞳と、いつだって一等美しい、金色。
辺りを見回し、足りない人のことを思う。
今日、なんでいないんだろ?
仕切り直し、じゃない?
茶の瞳を思い浮かべながら、なんだか可笑しくなってきてしまった。
すっかり本部長頼みになっている自分と、それを反省しつつも心地良い気分、みんなの私を見る少し呆れた目。
何これ。
デジャヴなんだけど。
「決まったようだね?」
その、メディナのピリリとした声が通ると、部屋の空気が一段変わる。
ゆっくりと、頷いた私は。
チラリと見た金の瞳に「大丈夫かな?」と問い掛けつつも、その瞳に浮かんだ色を見て安堵し口を開いた。
そう、そこに浮かぶ「色」は。
私の一等好きな、白金の美しい、彼の色だったからだ。
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