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8の扉 デヴァイ
再会 3
しおりを挟む彼の仕事は何かを調べる事らしかった。
一つの所に留まる事なく、転々と移動する彼との生活はとても楽しかった。
沢山の違う色がある、国の数々。
その中でも私は変わっていたけれど、何故だか彼と一緒にいるとそう不思議がられる事は無かった。
余りにも自然に受け入れられるのは、彼の才能もあったのかもしれない。
何処にいても誰と、いても自然体の彼は誰からも好かれる、でも仕方の無い人だった。
仕事以外の時は。
てんで、駄目な人だったからだ。
そんな彼との放浪生活に変化が起きたのは、ある場所へ行ってからだ。
沢山の店が並ぶ市、キョロキョロしている私の手を離さない様引きながら、どんどん進む彼。
しかしその中の一つの店に、何か惹かれるものがあった私は彼の手を引き、止めた。
「ああ、何も用意していなかったから。」
そう言って彼が買ってくれたのはナヴァラトナの腕輪だった。
目を輝かせる私を見て、急に思い立ったらしい。
この世界では、結婚する際に指輪を送るものなのだと。
その時、初めて知った。
そうして彼もお揃いの腕輪を買い、私が産まれた時から持っている、石も。
指輪に、してもらう事ができた。
ずっと持っていた、私が唯一自分の物だと思える、石。
赤ん坊の頃から握っていたと聞いているこの石は、とても美しい物だったから、何度も奪われそうになったらしい。
けれども何度でも。
何故だか必ず、私の手の中に戻って来たのだそうだ。
ベルデが、そう言っていた。
「お前を守る石」だと。
自分の元を離れない事は知っていたけど、なんとなくそのまま持っているのは心許なくて、指輪になって安心した。
それからは、ずっと着けていた。
そしてもう一つ。
この腕輪を買ってもらってから私はこの世界の石が、桁外れの力を持つ事に気が付いていた。
私の世界で言う、力の源になる石。
自分の石を持っていた私は、それが何処から調達されているのか知らなかったけれど、容易で無い事だけは知っていた。
それが、不足している事も、その、所為で争いが絶えない、事も。
でも。
今の私には、どうする事もできない。
自分が戻ったならばどうなるかも、知っているし何よりも。
私のお腹の中には、新しい命が宿っていたからだ。
なにしろそれを理由に、私は自分の気持ちに蓋をしていたのだ。
「仕方が無い、仕方が無い」と、言い聞かせながら。
「知っていたよ。大丈夫、行っておいで。この子は僕が見てる。君は。」
「行かなければ、ならないんだろう?」
解って欲しくなんて、なかった。
引き止めて欲しかったけど。
それは、私の我儘だ。
結局、私は。
また、彼をおいて、行くのだから。
「いや、君のそういうところが、好きなんだ。」
「大丈夫、また。逢えるよ。」
知っているのか、知らないのか。
しかしそれを私が知って、此処へ留まるのか。
「変わらない」ことを、解っているから、彼もそう言っているのだろう。
この際、それは重要じゃない。
「私達がまた逢うこと」
それが、今世で再び叶うのかは、分からないけど私は戻るつもりで行かなければならない。
私の、為にも彼の為にも。
あの時の、私たちの為にも。
「必ず、また。」
そう言って。
彼の元を離れるこの自分を呪う。
しかし、この石を持ちそれを知ってしまった私にあの子達を見捨てる事はできない。
小さな私の子を抱いて、日々募る思いを無視する事は、できなかったのだ。
さあ。
時間だ。
今度はまた逢える可能性がある。
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そうして私は、久しぶりの白い部屋へ足を踏み入れた。
そう、必ず彼の元へ、戻る為に。
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