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8の扉 デヴァイ

再会 2

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きっと もっと

上手く できたのだろうけど

頭の中では散々
考えて きたのだけど

全然 上手くできなかった。



黒い 髪の一本一本が
はっきりと見えてくる度

意外と背が 低いと
気が付いた時

手の 動き
足の動き
その 手足が触れ動かしている空気ですら

私のなにかを おかしくさせるには充分で

一歩 一歩と近づく度に

私は。


 自分の心臓が止まらないか心配だった

 時が止まっているのか 私が止まっているのか

 辺りの景色が消え彼だけが見える時間

 止まりたいのに止まりたくない私の足

 気が付かれてしまう 気が付かれたい
 でも気付かれたくない

 振り向いた 彼が。

 私を見て少しでも 顔を顰めたら。





でも。

私は止まるわけにはいかなかった。

何故だか分からないけど
この 出逢いに。

私の全てがかかっていることだけは、からだ。


 んだ、この人を。






辺りは薄茶色の砂の国で、何処なのかは分からない。

この人に、会いにくる時はいつも違う景色だ。

緑一面に囲まれている、どこか。
冷たく氷る、白だけの場所。
赤く染まる大きな池もあったし、大きな柱だけが立つ、広い場所もあった。

なにしろ毎回違う場所に出る旅は、私にとってとても刺激的だったし。
その、何処にいても一目で判る彼の存在、目が離せない「なにか」。


始めはを、確かめる為だったのだけど
いつの間にか。

彼と巡る、世界への旅に私も夢中になっていた。



「彼と巡る」とは言っても、向こうは私に気付いていない。
毎回、私が勝手に着いていくだけだ。

まあ、扉が開けばに、出るのだけど。

私が。

「彼の場所へ」と、思い浮かべるだけでへ連れて行ってくれる、あれは魔法の扉だ。



彼への扉以外にも、彼処には扉が沢山ある。

何も無い様で線が走る部屋、真っ白な世界の部屋、青が見える部屋、黒い部屋。

私の知る世界は、一つだけ。

正確に言えば「二つ」なのだろうけど、殆ど記憶には、無い。

私の産まれた、世界だ。


赤ん坊の頃にそこから連れてこられたという私は、自分の世界でも少し変わった存在だった。


でも、「彼の世界での私」からすればそれは微々たる違いなのかもしれない。

なにしろある日の茶色い国でのこと。

私はとうとう、彼に近づいて、いたのだ。





仲間が丁度どこかへ行って、彼が一人きりになった時。

暫く誰も来ない事が分かっていた私は、とうとう一歩を踏み出していた。
彼が何をしているのかは分からなかったけれど、仲間と何か話して暫くは、一人で何かをしているからだ。

その、大体は地面を掘っている彼が急に立ち上がって、背後から近づいている私は心臓が止まりそうになった。


 「  」

声は、発していない。

でも。

出ていたのかも、しれない。


ゆっくりと振り向く彼の目の前から逃げ出したい衝動と壊れそうな心臓、固まって動かない全身。

思わず目を瞑ったけれど彼の瞳が私を捉える一瞬前に、覚悟を決めた。


「    」

彼が何かを言ったのは分かったけれど、何を言ったのかは覚えていない。

ただ、振り向いた彼は不思議そうな顔をして一瞬、首を傾げると。


 「夢じゃ、なかったのか。」

そう言って、くしゃりと笑ったのだ。


 瞬間、流れてくる断片的な記憶
 この人に会わなければならない理由
 私が何をしたのか
 どうして会いたかったのか
 どのくらい探していたのか
 
 どのくらい  愛していたのか。


全てが一気に頭の中に溢れ、私は混乱していた。


えっ?
どうして?
覚えてるの?彼も?
逢えたの?

待っててくれた?

あの、時から ?



その後の記憶は途切れて、気が付いたら何処かへ寝かされて、いた。

戸惑いながら部屋へ入ってきた彼、その瞳に映る色が。

「知ってはいるけど知らない」もので。

私を見るその瞳を見た瞬間、胸が押し潰されそうだったけど。
納得してもいる、自分がいた。

私は。
彼を、選べなかったのだから。





結果から、言えば。

彼は私の事を覚えてはいなかった。

ただ、時折チラチラと視界に映る私の事を「物語の妖精」か、何かだと思っていたらしい。

確かに、この世界では存在しない髪色、瞳、肌の、色。

しかし彼はそれをあまり不思議がる事はなく、私を受け入れてくれた。

が。違う、だけだろう?」

そう、言って。


何処にいても一瞬、触れるのを躊躇われる私に躊躇なく手を伸ばしてくれたのだ。


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