506 / 1,684
8の扉 デヴァイ
再会 2
しおりを挟むきっと もっと
上手く できたのだろうけど
頭の中では散々
考えて きたのだけど
全然 上手くできなかった。
黒い 髪の一本一本が
はっきりと見えてくる度
意外と背が 低いと
気が付いた時
手の 動き
足の動き
その 手足が触れ動かしている空気ですら
私のなにかを おかしくさせるには充分で
一歩 一歩と近づく度に
私は。
自分の心臓が止まらないか心配だった
時が止まっているのか 私が止まっているのか
辺りの景色が消え彼だけが見える時間
止まりたいのに止まりたくない私の足
気が付かれてしまう 気が付かれたい
でも気付かれたくない
振り向いた 彼が。
私を見て少しでも 顔を顰めたら。
でも。
私は止まるわけにはいかなかった。
何故だか分からないけど
この 出逢いに。
私の全てがかかっていることだけは、知っていたからだ。
見つけたんだ、この人を。
辺りは薄茶色の砂の国で、何処なのかは分からない。
この人に、会いにくる時はいつも違う景色だ。
緑一面に囲まれている、どこか。
冷たく氷る、白だけの場所。
赤く染まる大きな池もあったし、大きな柱だけが立つ、広い場所もあった。
なにしろ毎回違う場所に出る旅は、私にとってとても刺激的だったし。
その、何処にいても一目で判る彼の存在、目が離せない「なにか」。
始めはそれを、確かめる為だったのだけど
いつの間にか。
彼と巡る、世界への旅に私も夢中になっていた。
「彼と巡る」とは言っても、向こうは私に気付いていない。
毎回、私が勝手に着いていくだけだ。
まあ、扉が開けばそこに、出るのだけど。
私が。
「彼の場所へ」と、思い浮かべるだけでそこへ連れて行ってくれる、あれは魔法の扉だ。
彼への扉以外にも、彼処には扉が沢山ある。
何も無い様で線が走る部屋、真っ白な世界の部屋、青が見える部屋、黒い部屋。
私の知る世界は、一つだけ。
正確に言えば「二つ」なのだろうけど、殆ど記憶には、無い。
私の産まれた、世界だ。
赤ん坊の頃にそこから連れてこられたという私は、自分の世界でも少し変わった存在だった。
でも、「彼の世界での私」からすればそれは微々たる違いなのかもしれない。
なにしろある日の茶色い国でのこと。
私はとうとう、彼に近づいて、いたのだ。
仲間が丁度どこかへ行って、彼が一人きりになった時。
暫く誰も来ない事が分かっていた私は、とうとう一歩を踏み出していた。
彼が何をしているのかは分からなかったけれど、仲間と何か話して暫くは、一人で何かをしているからだ。
その、大体は地面を掘っている彼が急に立ち上がって、背後から近づいている私は心臓が止まりそうになった。
「 」
声は、発していない。
でも。
出ていたのかも、しれない。
ゆっくりと振り向く彼の目の前から逃げ出したい衝動と壊れそうな心臓、固まって動かない全身。
思わず目を瞑ったけれど彼の瞳が私を捉える一瞬前に、覚悟を決めた。
「 」
彼が何かを言ったのは分かったけれど、何を言ったのかは覚えていない。
ただ、振り向いた彼は不思議そうな顔をして一瞬、首を傾げると。
「夢じゃ、なかったのか。」
そう言って、くしゃりと笑ったのだ。
瞬間、流れてくる断片的な記憶
この人に会わなければならない理由
私が何をしたのか
どうして会いたかったのか
どのくらい探していたのか
どのくらい 愛していたのか。
全てが一気に頭の中に溢れ、私は混乱していた。
えっ?
どうして?
覚えてるの?彼も?
逢えたの?
待っててくれた?
あの、時から ?
その後の記憶は途切れて、気が付いたら何処かへ寝かされて、いた。
戸惑いながら部屋へ入ってきた彼、その瞳に映る色が。
「知ってはいるけど知らない」もので。
私を見るその瞳を見た瞬間、胸が押し潰されそうだったけど。
納得してもいる、自分がいた。
私は。
彼を、選べなかったのだから。
結果から、言えば。
彼は私の事を覚えてはいなかった。
ただ、時折チラチラと視界に映る私の事を「物語の妖精」か、何かだと思っていたらしい。
確かに、この世界では存在しない髪色、瞳、肌の、色。
しかし彼はそれをあまり不思議がる事はなく、私を受け入れてくれた。
「色が。違う、だけだろう?」
そう、言って。
何処にいても一瞬、触れるのを躊躇われる私に躊躇なく手を伸ばしてくれたのだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる