透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
505 / 1,740
8の扉 デヴァイ

再会

しおりを挟む

あ、あの人だ。

その、男の人を見た瞬間、何故だかそう思った。

勿論、見知らぬ人間ひとだしなんなら世界も、違う。

そう、私の世界にはあんな髪も目も黒い人はいないし、顔立ちだって違う。

それに。

そもそも、私は扉を出て違う世界を渡り歩いているのだ。

人など。
いる筈が、ない。


けれども。

どうしても目が離せないその人を、理由を考えながらもじっと、見つめていた。

勿論、物陰や遠くからだ。

そう、初めて釘付けになった、その日から。
私は時折、その人を見る為に1の扉を訪れていた。

理由が知りたかったのだ。
何故、こうも。

目が離せないのか。

気に、なるのか。


いいや。

それは言い訳だろう。
よくよく考えるとその人を見ている間は理由など考えてもいなかったし、ただ、視界に入れているで。

とてつもなく、幸せだったからだ。

「どうしてなのか」、それすらも。
考えるのが、億劫だったのだ。







「あなたは、あなたの自由に。生きて、いい。行っても、いいのよ。」

私にそう、言ってくれたのはただ一人、あの薄茶の巻毛が可愛いらしい、栗色の瞳のあの子だけだった。

勿論、私は。
解って、いた。

「自分の役割」を。


 を。



ただ、分からなかったのだ。

本当に、私があのまま、あそこでだけで。

「世界」が「救われる」のか。

それが、「救い」なのか。


自分が犠牲になりたくなかっただけなのかもしれない。
ただの、我儘なのかも、しれないけど。


 彼処で私が私を殺して「ただみんなの為に在る」だけで。

「世界が救える」なんて、思えなかったのだ。


  何かが、違う。
  間違ってる。


    「なにか」は、判らないけど。



と、言ってしまえば、理由にはなるのかもしれない。

でも。

それとこれは、別だ。

「世界がその方法では救えない」のと、「あの人の元へ行きたい」のは。

全く、別の話なのだ。

でもこれは私にしか解らないだろう。

きっと「逃げた」と言われるに違いない。
家の者は、ベルデは大丈夫だろうか。
でもそれを言い始めると。

誰も、大丈夫なんかじゃないかもしれない。


でも。

行っても、いい?

ねえ。
私の声が聴こえる、誰か。

ねえ。
聴こえているのでしょう?



こうして、私の頭から胸から、身体中全てに。


 「あの人に会わなければならない」と。


伝えて、いるのでしょう?




多分、会えば。
会ってしまったならば。

絶対に私は、彼から離れられないだろう。

それだけは、解る。


でも。彼が。

どう、反応するかは分からない。
向こうの世界では私は異質だろうし、も。

もしかしたら、気味悪がられるかもしれない。


そっと、そっと少しだけ、姿を見せてみて、もし。
もし、大丈夫だったら。

もう一度、来よう。


でも。

目が、合ってしまったなら。


帰れる自信が無い。


ひとつだけ解ること、それはこのまま姿を見せなければ一生後悔する、という事だけだ。

少し、少し、だけ。


チラリと、覗く、だけ。




そうして私はその黒髪の後ろ姿へ、近づいて行ったのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...