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8の扉 デヴァイ
再会
しおりを挟むあ、あの人だ。
その、男の人を見た瞬間、何故だかそう思った。
勿論、見知らぬ人間だしなんなら世界も、違う。
そう、私の世界にはあんな髪も目も黒い人はいないし、顔立ちだって違う。
それに。
そもそも、私は扉を出て違う世界を渡り歩いているのだ。
知っている人など。
いる筈が、ない。
けれども。
どうしても目が離せないその人を、理由を考えながらもじっと、見つめていた。
勿論、物陰や遠くからだ。
そう、初めて釘付けになった、その日から。
私は時折、その人を見る為に1の扉を訪れていた。
理由が知りたかったのだ。
何故、こうも。
目が離せないのか。
気に、なるのか。
いいや。
それは言い訳だろう。
よくよく考えるとその人を見ている間は理由など考えてもいなかったし、ただ、視界に入れているだけで。
とてつもなく、幸せだったからだ。
「どうしてなのか」、それすらも。
考えるのが、億劫だったのだ。
「あなたは、あなたの自由に。生きて、いい。行っても、いいのよ。」
私にそう、言ってくれたのはただ一人、あの薄茶の巻毛が可愛いらしい、栗色の瞳のあの子だけだった。
勿論、私は。
解って、いた。
「自分の役割」を。
どうして自分が生まれたのかを。
ただ、分からなかったのだ。
本当に、私があのまま、あそこでああなるだけで。
「世界」が「救われる」のか。
それが、「救い」なのか。
自分が犠牲になりたくなかっただけなのかもしれない。
ただの、我儘なのかも、しれないけど。
彼処で私が私を殺して「ただみんなの為に在る」だけで。
「世界が救える」なんて、思えなかったのだ。
何かが、違う。
間違ってる。
「なにか」は、判らないけど。
だからと、言ってしまえば、理由にはなるのかもしれない。
でも。
それとこれは、別だ。
「世界がその方法では救えない」のと、「あの人の元へ行きたい」のは。
全く、別の話なのだ。
でもこれは私にしか解らないだろう。
きっと「逃げた」と言われるに違いない。
家の者は、ベルデは大丈夫だろうか。
でもそれを言い始めると。
誰も、大丈夫なんかじゃないかもしれない。
でも。
行っても、いい?
ねえ。
私の声が聴こえる、誰か。
ねえ。
聴こえているのでしょう?
だから。
こうして、私の頭から胸から、身体中全てに。
「あの人に会わなければならない」と。
伝えて、いるのでしょう?
多分、会えば。
会ってしまったならば。
絶対に私は、彼から離れられないだろう。
それだけは、解る。
でも。彼が。
どう、反応するかは分からない。
向こうの世界では私は異質だろうし、この色も。
もしかしたら、気味悪がられるかもしれない。
そっと、そっと少しだけ、姿を見せてみて、もし。
もし、大丈夫だったら。
もう一度、来よう。
でも。
目が、合ってしまったなら。
帰れる自信が無い。
ひとつだけ解ること、それはこのまま姿を見せなければ一生後悔する、という事だけだ。
少し、少し、だけ。
チラリと、覗く、だけ。
そうして私はその黒髪の後ろ姿へ、近づいて行ったのだ。
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