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8の扉 デヴァイ
擦り合わせ
しおりを挟む何故だか急に、久しぶりな気がして袖を引っ張ってしまった。
ウエッジウッドブルーの、部屋の中。
扉を入ってすぐ、私の前を歩く金髪に触れたくなって袖を引いた。
立ち止まって欲しかった、だけなのだけど。
振り向いた強い腕に抱き竦められ、そのままベッドへ運ばれて行った。
チラリと見えた星図、濃紺のビロードに描かれるそれは夜空に舞う星の軌跡の様で、星空と違う美しさが、ある。
そのままずっと、天蓋の天井を見ていたかったけど。
視線が気になって、やはりそちらを見てしまう。
その私を見る美しすぎる瞳は止まる事なく、頭の先からつま先まで、私の事を検分しているけれど。
一体、何を確かめているのだろうか。
ていうか。
顔が、崩れてると思うんだけど………。
しかし、きっと何を言っても気の済むまでこれを止めない事は分かっている。
仕方が無いので半分顔を掻いたり、動いたり、誤魔化しながら。
彼のチェックが終わる迄、待っていた。
気の済んだらしい金色は、次に私を自分の膝の間に入れ髪を梳き始めた。
纏められていた髪は、お昼寝の所為ですっかり崩れている。
まずい。
これは、眠く、なる。
まだ何かが足りない気がしている私は、本格的に眠くなる前にくるりと背後を振り返った。
そこに待っているものに、捕まることは解っていた筈なのに。
あ。
「バチン」と正面から強い金の瞳を浴びて、「あの瞳」ではないけれどフリーズしてしまった。
「綺麗」「美しいな」「ヤバい」「もしかして」
「注ぎ込まれるかも」「深い」
一瞬にして沢山の事が渦巻くけれど、金色もそのまま止まったまま、動かない。
その緊張が逆に怖くて、しかし私も動けないで、いた。
えっ。
なに、これ。
どうしよう。
張り詰めた、空気。
気まずい訳でもなく、恥ずかしさも無く、怖くも、ない。
ただ、その瞳に捕らえられて。
動けないことだけは、確かだ。
しかし、一瞬曇った顔が「依る?」と私を呼ぶ事で、息を止めていた事に気が付いた。
「…っ、ふう!」
きっと気が付いて心配になったのだろう。
本人ですら気が付いていなかったこの状態に、気が付くのは。
やはり、余裕があるという事だろうか。
むうぅ。
しかし。
いや、待てよ?
私は、別にこの人と喧嘩をしたい訳ではない。
そう思って、考え始めると何故さっき袖を掴んだのか、無意識だったのか。
分からなくて、再び顔を上げた。
近づいて来る濃い顔面に、パチンと手を当て止める。
「何故?」
「何故、って………。」
だって。
チカラを、注ぎ込まれたなら。
まだ、何か分かっていないぐるぐるのモヤモヤ、なんとなく感じるこの寂しさの様な感情も。
何も、分からなくなってしまうに違いないからだ。
金の瞳に、咎める様な色は無い。
それならば。
少し、膝の間から出て考える事にした。
「ちょっと、待っててね?整理、するから。」
そう言ってベットの端へ移動した、私。
柱に括られているカーテンの房を弄びながら、部屋に入ってからの行動を反芻してみる。
袖を、掴んで………?
うん?
なに、したかったんだろう?
触りたかった?
それは、ある。
久しぶり………でもないけど、久しぶりな感じもした。
チラリと視線を投げると、静かな金の瞳が見える。
その、心底安心する色がすぐに自分に流れ込んでくるのを感じて、やはり。
この、色が足りなかったのだと、合点が入った。
えっ。
じゃあ、千里が言ったみたいに「注ぎ込まれ」たかった、だけ??
いやいやいや、もっと他に色々あるよ。
あるんだけど。
なんだろう?
もっと?
話したい、のかなぁ………。
以前はあった、寝る前につらつらとその日の出来事を漏らす時間、寝る時には必ずあった馴染んだ温もり。
自分のことは、滅多に話さない人だけど。
触れていると分かることもあるし、何よりいつも一緒にいたならば「この頃どうか」という彼の調子が分かるのだ。
「ああ。私、心配してたのか。」
ポン、と手を叩き自分の中で納得した。
心配なんて、必要ない人なんだろうけど。
それとこれとは、別だ。
膝立ちのまま、のそのそと金色へ近づき座ってこちらを見ている頭を抱きしめた。
わしゃわしゃと金髪を撫で、さっきこの人がした様に。
私も、頭の先からしっかりとチェックをする。
うっ。綺麗な金髪、なんで乱れないの?
目を合わせてはならない、うん。そこはスルーよ、スルー。
相変わらず鼻高っ。
この唇の形、好きだな………。いやいやいや。
ここの服もカッコいいよね………ちょっと私好みだから止めて欲しいけど、寧ろアラビアンナイトが懐かしいな………でも今あのベスト姿になられると困るな………。
ふむふむ。
体は多分、異常なし?
脚も?
うん?
問題無い。
この生地いつも思うけど適度な厚みがあっていいよね………。
飾りの様に腰に付いている布を、触れてみた。
いつも気になっていたのだ。
腰巻きの様に、しかしきっとパンツにくっ付いているそれは青の家特有の物なのだろうか。
手に取りスルスルと撫でていると、ヒュッと引かれてしまった。
あれ。
そろそろ………おかんむり?
「何が、したかったのだ?気は済んだか?」
そう言って再び、私を膝の中へ入れる金色。
今度は躊躇うことなくその瞳の中を近くで確認する。
何か、曇りはないか、暗い色はないか。
憂いや迷い、心配の色はないか、どうか。
いつでも強く輝く、この瞳ではあるけれど。
「私の事」に関しては。
違う色が見えることも、あるからだ。
「うん、大丈夫そう。」
気が付くと頬に当て顔を挟んでいた手を外し、ホッと息を吐いて少し、笑った。
「では、こちらも。」
お返しの様に頬を挟まれた私は「ちょっと、顔が、顔が…」と焦っていたけれど逃げられる訳はなかった。
ちょっと、これ………。
チカラ注がれる方が、まだいいかもしんない…。
至近距離で崩れた顔を見られる事程、気まずいものはない。
段々汗ばんできた様な気も、するし。
謎の緊張の中、私の口は脳内を勝手に垂れ流し始めていた。
「あの、ね?」
「今迄はずっと一緒だったし寝る時話せたから落ち着いてた部分があったと思うんだけど、一人で大丈夫って決めたけどやっぱり寂しくない訳じゃなくてなんとなく手が…うん、触りたかったと言うか何というか?………うん?」
頬から手が外れ、私の手を取り自分の胸に当てる、金色。
なに?
どうしたの?
そのままペタペタと、胸、肩、腕に腰、脚の方まで。
どうやら、「触りたい」という部分を実践してくれているらしい。
その様子がなんだか可愛くて、クスクスと笑う。
程良く感じる服の下の体の厚み、いい生地の感触も中々だ。
脚から上に戻り、金色の手は離れたが私の手は構わず彼の頬に触れ、首筋に伝っていく。
直接肌に。
触れたくなった。
「依る」
スルリと撫でる私の手に反応したのかどうなのか、その声は私を痺れさせるのには充分な色を含んで。
ピタリと止まる手、抱き竦められた私は行き場の無くなった手の代わりに、金の瞳の中へ入ってゆく。
もう少しだけ。
触れたい、の。
その、意味が通じたのか通じてないのか。
じっと、私の瞳を覗き込んだ金色は私がその瞳の中を探検する時間をくれるつもりの様だ。
その、中はあの焔の部屋に似て、金色の中の多色の焔、虹彩がその揺らめく様を表す様に震えているのが見える。
これは。
食べ、たいな?
ふと思いついて行動に移した。
そっと口を開け、その瞳をぱくっと、食べる。
「ん」
しかしその瞬間、私の中に侵ってきた焔はいつもより熱くて。
「目からも??」と混乱する頭の中、しかし力が抜けた私の身体を転がし覆い被さる金色に。
包まれる気がして、そのまま、身を委ねたのだ。
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