497 / 1,700
8の扉 デヴァイ
行き着く先は
しおりを挟む「おい、そろそろ起きろ。」
「へっ?」
ユサユサと、揺らされて目が覚めた。
「ふん?」
「お前、急にあれから寝こけてここまで運んだんだぞ?感謝しろ。」
「うぅん??」
見ると、辺りは見知った本部長の部屋、いつものソファーである。
しかし。
きっと食後に眠り込んだ私をここへ連れて来たという事は。
今日中に話を聞く事を、諦めていないに違いない。
まあ、確かに。
私も本部長の知恵を借りれるものなら、借りたいけれど。
「千里、は………?」
千里も何か知っているだろうと思っている私は、同席しているものだと思い込んで極彩色を探していた。
まさか、視界に映らないあの色は。
一人、逃げ果せたのだろうか。
「狡いな………多分、千里も何か知ってると思うんですけどね…?」
「ああ。そっちの話は、もう聞いた。」
「だからか!」
やられた。
きっと、その話の内容も教えてくれるものとくれないものがあるに違いないのだ。
だから一緒にいる時に聞きたかったのに~~!
「まあ、いい。とりあえず飲んだら話せ。」
一応、私が疲れていると思ったのか珍しく気を遣った本部長は糞ブレンドを入れてくれた。
ありがたくカップを手に取ると、何から話そうかと頭の中を見直してみたけれど。
うん?
そんな話すこと、無くない?
確かあの廊下が明るくなった話は、したでしょう?
それで………。
あの、台の下が…でもそれは千里から聞いてるよね?
それなら?
「えっと。あの、台の下の話は聞きましたよね?」
ウイントフークが何を聞きたいのかいまいち分からない。
できれば、質問してくれると助かるんだけど。
その私の様子を見て、きっと意図を察したであろう本部長はしかし、それを許してはくれなかった。
「ああ。しかし、お前から見た様子も聞きたい。最初に礼拝堂へ行った時にあそこには気付いていたんだって?その時の様子と、今日、あそこで。何があったのか、見たもの全てを話せ。」
ううっ。
それって、めっちゃ長い話じゃん。
自分の記憶に自信の無い私は、とりあえず始めから、一つ一つ、ゆっくりと話し始めた。
黒い靄の話、礼拝堂の扉が閉まってから何故だか空間が違った気がする話、祈りが始まってから。
アリススプリングスがミストラスに似ていた話と、きっと「力」が。
吸い取られて行く、話だ。
時々考えながら話す私に相槌も打たずに聞いていた本部長は、話が終わるとこう言った。
「で?お前は、その力がその靄の中へ吸い取られた、と。感じたという事だな?」
「そう、ですね。多分。あそこに………。」
「その濃い灰色と、少しだけ綺麗な色がある力と、お前の濃い色の蝶。でも、目を開けても見えなかった……。」
いつもの様にぐるぐると周り始めた本部長。
独り言なのか、私に訊いて、いるのか。
とりあえずは私も自分の中を、ぐるぐるしていた。
そもそもあの礼拝堂に、悪い気配は、無い。
でも、あの扉が閉じた時。
一瞬で何処かへ移動した様な、時空がズレた、様な。
そんな気がしたのも、確かなのだ。
その後飲み込まれて行った、あの、力であろう色の靄。
もしかして?
ズレたから、「繋がった」のかな………?
あの、黒い靄の先に?
ていうか。
何処?
でも。
グロッシュラーと同じく、「力の行き先」が。
「長のところ」ならば?
「えっ。いや?でも………黒い、しな…?でも黒いかも。しれない………?」
長が居る場所、それはきっとあのアリススプリングスの家の奥、地図の場所の筈だ。
私の勘は、そう言っている。
多分、それは確実だろう。
それで………その場所が?
うん?でも、こないだシンが…。
あれ?あれは夢で?
どう、なったんだっけ………?
薄らとしか思い出せない、何か不思議な木立の様な空間にいる光るシンと、あの人。
多分、その人が。
「長」、なんだよね………?
しかし、自分の中をどう確かめてみても。
私の蝶が居る、その暗い空間とシンがいるであろう、少し暗いが清浄なその空間とが結び付かない。
多分、違う場所の筈だ。
きっと「同じ」ならば。
流石に、判ると思うのだ。
えーー?
それなら?
ここでの、力の行き先って違う場所なの??
長は?
力を、注がれてるんじゃないの?
うん?人に、力って注げるのかな………?
「お前も。いつも、注がれてるじゃないか。」
「ヒャッ!!………っくりしたぁ。千里、止めてよ!」
完全なるぐるぐるに沈み込んでいた私の背中に、尻尾を差し込んだのだ。
まさかの感触に、思いっきり飛び上がってしまった。
プリプリしている私を尻目に、話を繰り返す狐。
「何を考えてたんだ?「人に力を注ぐ」?」
「あっ。えっ、はっ…!」
急に千里の言った意味が分かって、どんどん顔が熱くなってきた。
えっ。
やだ、嘘。
でも。
長は、まさかあの方法じゃ、ないでしょう………??!
一旦深呼吸して、パタパタと顔を冷ます。
するとタイミングが、良いのか悪いのか。
その、元凶が部屋へ入ってきた。
金色だ。
「あの後の事だが………。」
チラリと私を確認すると、なんだか落ち着いたらしくそのままウイントフークの所へ話に行ってしまった。
えっ。
助けて欲しかったのに!
まだすぐそこにいる千里は、ニヤニヤしながら私を見ている。
勿論、狐の姿だけれど。
何故だかニヤニヤしているのは、分かるのだ。
「ちょっと。何か、知ってるんでしょう?教えてよ。」
悔しくなって、パッと捕まえ膝に抱き逃げられない様にする。
そうして紫の眼を、覗き込むと。
その、美しさに負けないよう、気を強く持って問い詰めにかかったのだ。
「俺達がそのまま行った理由は、お前から目を逸らす為だ。」
「………ふぅん、成る程。それで?あの黒い靄は、何処に繋がってるの?知ってるんでしょう??」
「………まだ。知らない方が良いとは思うけどな。とりあえずお前の蝶達は無事だろう。しかし、お前の側にいれば浄化が叶ったろうが、きっと向こうでは。あのまま、だろう。」
「………無事なら。また、会えれば大丈夫だよね?」
「多分。あれはあれで、ああいうものだからな。それ自体で舞っている事に問題は無いだろう。何処にいるかは、あいつに任せる。」
そう言って千里が尻尾で指したのは、金色だ。
まだ、ウイントフークと話し込んでいる金色も勿論礼拝には参加していた筈だ。
あの様子を見て、どう思ったろうか。
それに。
私に、千里が教えない事を教えてくれるだろうか。
………微妙。
でも、どちらにしても無事ならば。
あまり心配し過ぎない方が、いい。
「あの子達は大丈夫」、そう強く思って、私は私のやることを。
ここで、しっかりやらなければならないからだ。
うん?
でも「私のやること」ってそのままなこと、だよね………??
なんとなく、こんがらがってきた所であの二人の話が終わった。
近づいて来た金の瞳に、上から下までじっと見られて。
折角冷めてきていた、顔がまた熱くなる。
「なに。」
少し言い方が冷たかったかもしれない。
しかし。
私は恥ずかしさに、顔を手で半分、隠していた。
お化粧をするのは久しぶりだし、自分でやるのは初めてだ。
それに。
すっかりお昼寝までして、きっともう顔はぐちゃぐちゃに違いない。
ちょっと、乙女心を察しなさいよ………。
いや無理か。
そうして私達は、暗黙の了解で。
書斎を出て、斜め向かいの私の部屋へ向かったのである。
うん。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇
ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。
山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。
中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。
◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。
本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。
https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/
◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
THE LAST WOLF
凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?!
バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。
勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。
このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。
彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。
人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。
高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。
こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる