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8の扉 デヴァイ
変化
しおりを挟む「祈りは多分、祭壇前辺りに秘密があると俺は踏んでいる。まあ、分からんけどな。それに関して言えば、お前の方が何か感じるかも知れん。」
既に朝食を食べ終わっていた本部長は、つらつらと今日の計画を述べている。
私はと、言うと。
目を輝かせ感想を待っている、イリスに合図をしつつも朝食に舌鼓を打っていた。
実際、かなり腕を上げたイリスの朝食は、シリーと遜色無い程度の味に仕上がっている。
スピリットは成長も早いのだろうか。
そんな事を考えつつ、パンをお茶で流し込んだ。
「ゔっ、ウイントフークさんは、隣に居ますよね?」
「まぁな。そこが一番。分かるだろう?」
何が「分かる」のか、訊こうかと思って止めた。
どうせ。
私の、見せ物の件に決まっている。
あの三者通話の後に、一応ウイントフークへ青の家の事など報告をした。
すると、「ああ」とだけ言ったこの人はきっとそんな事などとっくに承知だったに違いないのだ。
「楽しみだ」と言っていた意味が心底分かった私は、それでも本部長が頼りになる事は知っているので敢えて文句は言わずにいる。
寧ろ、何かが起こったとしても。
全部、この人に任せておけばいいのだ。
うん。
もう、私は知らないもんね~。
「とりあえず、特に話したりする事もないし表立ってお前に声を掛けてくる奴は。いない、と思いたいな?どうなんだろうな…」
何かブツブツ言い出したが、心配事でもあるのだろうか。
チラチラと私を見ながら考えるのは、やめて欲しいものである。
するといつの間にか足元にやって来た朝が、翻訳をしてくれた。
「アレね、一応心配?してるのよ。なんだか今時の若者?は読めないんですって。ウケるわよね、「今時の若者」って。ここでも、言うのねやっぱり。」
「え?そうなの??何が?うん?」
「今迄は。勿論、婚約者がいる銀の娘に、直接声を掛けるなんて考えられなかったらしいんだけど。そもそも、あんたは派手に出歩いてるし、ブラッドフォードの婚約者であるけれどもアリス家にも呼び出された。それに、青の家とも、仲が良い。」
「うん。」
「だからかどうか、今迄より動きが活発らしいのよね。何が、どうアレなのかは分かんないけどウイントフークがそう思ってるなら。あながち、間違いじゃないんでしょう。」
「………朝がそう言うなら、そうなんだろうね…。」
「てか、あんたあの羊、なに?」
「えっ?朝、初対面?」
「そりゃそうよ。まだ。新しいでしょう?あれは。」
分かるんだ………。
朝だって、特殊な猫だ。
何が、どう見えるのかは、分からないけれど。
「今朝、起きたら。居たんだけど。」
なんとなく。
ディディエライトの事は、言えなかった。
あの子に会いに、フォーレストが現れたとしても私にしてあげれる事は、ない。
それに、きっと一緒にいたならば。
そこから、糸口が掴める様な気はしていた。
もしか、したら。
彼処への。
「じゃ、早く済ませちゃいなさい。いつもより、支度に時間掛かるんじゃないの?」
「あっ、そうだった!ごちそうさま!お茶はいいや!」
今日は初めて着るドレスだ。
どの位時間がかかるのか、自分で読めない。
着るのはすぐでも、髪やその他、身支度に。
きっと時間はかかるだろう。
パミールが、化粧品一式をプレゼントしてくれたからだ。
どうやら黄の家は、美容系の物を扱っているかららしい。
そうしてパタパタとお皿を重ねると、椅子を片付け食堂を出る。
背後にはフワフワの気配。
それを感じながらも、青の廊下を走って戻った。
「本当に、いいの?」
「うん。もう、いんじゃないかと思って。」
「それなら…こうかしら?」
「うん?どう?こう??」
青の鏡に尋ねながら、私が作っているのは自分の髪である。
「このドレスに合う髪型を」と、薄い青銀のドレスに着替え、緑の扉を開けた。
しかし、その私の姿を見て一言「似過ぎてるけど、大丈夫?」と言った青の、鏡。
以前も言われた、セフィラの事だろう。
しかし、セフィラのことを知っている人はディディエライトを知る人よりも多い筈だ。
多分、だけど。
それならいつまでも隠し通せるものではないし、何より私自身に。
隠すつもりが、無かったからだ。
だって結局、すぐにバレると思うんだよね………。
図書館の扉にすら、すぐにバレた。
もうきっと、時間の問題なのだ。
それならば。
衆目の中、全員に晒した方が。
なんとなく、危険も少ないかと思ったのだ。
そうして髪を整え、薄くお化粧もする。
パミールに大体の使い方は聞いてきたし、レナにもあれこれ享受されているのだ。
レナ、元気かなぁ………。
胸にじんわり拡がる何かを、キュッと仕舞う。
色々と他の家へ行くうちに、グロッシュラーへ行く計画も進んでいる事が分かってきた。
私も、絶対行くつもりだ。
それに、フリジアさんも…………。
「ヨル。そろそろじゃない?」
「あ。ああ、ごめん。ありがとう。」
最後の粉を叩いている時に、フリーズしていた様だ。
パチンとコンパクトを閉じると、棚に片付ける。
そうして「ありがとう!」と言い、緑の扉に手を掛けた。
「仕上がり過ぎじゃ、ないか。」
「ほう、いいな。」
「ヨルはやっぱり、青だな。」
本部長以外には、概ね好評である。
しかし、この反応を予測できていた私には何の問題もなかった。
「さ、行きましょ?」
そうしてさっさと、男達の先頭を歩いて行ったのだ。
向こうへ繋がる、装飾の多いアーチを先頭で潜る。
暗く、黒い青の道を通っていると頬を撫でる、青い羽。
「うん?」
いや、羽ではない。
そう感じただけで、それは多分風だ。
しかし、ここは建物の中、これまで風が吹いた事はない。
顔を上げぐるりと通路を見渡すが、変わった所は無い様に思えた。
しかし。
私の行く先から吹く風、少しだけ明るく見える通路の出口。
何かが、違う。
直感でそう思った。
もしかして?
何か、変わった………?
「待てよ。俺が先に行く。」
いつの間にか狐の姿になっている千里が私を追い抜き、前を歩く。
警戒しているのかもしれない。
でも。
私には、分かっていた。
あれは。
良い変化だ。
頬に当たる青い羽の様な軽やかな風、フェアバンクスの空間よりは暗いが明るくなった、向こう側。
自然と軽くなった足、いつの間にか隣にはフォーレストが歩いて、いる。
うん?
スピリットはいいんだっけ?
騒ぎになる??
でも。
いいんだ。
きっと、大丈夫。
何故だか、それだけは知っている私は、青緑の瞳をチラリと確認する。
肯定の色が浮かぶそれに安堵し、ふわりとした背に手を置いた。
背後でウイントフークとベイルートが何やら言っているけれど。
聞こえないフリをして、そのまま、真っ直ぐに。
進んで、行ったのだ。
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