透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

次の日の朝

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「おはよう………。なに………?」

ぐっと押し付けられる感覚とざらりとした感触、これは、もしかして。


え?

朝………?シリーの所じゃ、ないのかな………。


頬に感じる温かいザラザラ、目を瞑ったまま記憶を探るが心当たりが、無い。

え?

千里?もしかして?

えー………狐だったら………いい、の?
いや………?

どっち………だ…………???


考えているうちに、二回目が来てしまった。

再び押される感覚、ざらりとした温かい舌。


うん?

なんか。
違う…………。


朝は、もっとソフトな感触で押される様な圧力までは、無い。
千里にしたって。
大きさもそう、変わらない狐だ。

なんとなく、だけど。

もっと大きな、動物の様な気がするのだ。


え…………?
動物。
動物園?
うん??


思わずハクロとマシロの顔が思い浮かんだが、あの二人が私を舐めるとは思えない。

そこまで考えると、逆に目を開けるのが怖くなってきた。

これは。
なんなの、だろうか。


そのまま寝たフリを決め込む事も考えたが、三度目が来るのに耐えられる自信が、無い。

諦めて目を開ける事にした私は、少しずつ、薄らと、目を開け始めていた。


始めは白っぽい何かしか、見えなく優しい雰囲気のに、思い切って目を開ける。

「う、ひゃっ!!」

すると、目の前にあったのは。

「えっ、ちょっと、嘘でしょ?!朝?!千里???」

見た事もない動物、多分、羊だと思うのだけど。

「ドン」、と背中に当たるヘッドボード、もう後ろに下がる事は、できない。

しかし。

その、羊は。


えっ。
嘘でしょ、なに?
スピリット?

コワッ、怖いんだけど何コレ。

見てる!
見てる、よぉ~~~なんでこんな時に千里居ないの~!!!
いつも無駄に居るくせにーーーーーーー!!


その時、カチリと扉が開いて件の千里が入って来た。
人型である。

その、きちんとした格好を見て「そう言えば今日が全体礼拝だ」と、いう事を思い出したのだが私の視線はどうしたって。

あの、大きな、吸い込まれてしまいそうな緑の瞳に戻ってしまうのだ。
なにか、まじないでも使われているのだろうか。

その引力に。
逆らう事が、できなかった。


「こいつはスピリットだ。何故そう、怯える?もきっと、お前のアレから出来たのだろう?」

「うん?そう、なの???」

一度紫の瞳を見て気を落ち着かせると、改めてその羊を、視界に入れた。


そう、言われてみると。

「怖く、なくない………?」

「どっちだよ。兎に角、礼拝は午前中だ。着替えは後でいいが、朝食だ。」

それだけ言って、置いて行かれた私。

えっ。
この羊、どうするの??

チラリと、視線を飛ばした。

「ひゃっ!!!!」

思わぬ距離に近づいていたその羊は、見た目に合わぬ老人の様な声でこう言った。

「私の名は。フォーレスト。」

「へっ?フォーレスト??」

私がその名前を復唱すると、満足気に少し離れてこちらを見ている。


ちょっと、待って?
自己紹介、されたけど?

千里が出て行ったという事は、危険なものでは、ない。
それに、きっと私のチカラが内在しているのも、分かる。

ん?
見た目?
見た目なの??

この、可愛いんだか、怖いんだか、分からないこの生き物は………。


その、フォーレストと名乗った羊は頭が二つ、ある。
スピリットなのだから、不思議ではないのかもしれないけれどハクロを始めうちの子達は、皆実在の生き物の形をしている。
大きさは、ちょっと違うけれど。

しかし、そのフォーレストは大きさこそ普通の羊なのだろうがそもそも頭が、二つ。
だから、眼は、四つ。

そう、何かを見透かしている様なその吸い込まれそうな美しい緑の瞳が、四つも揃って私を見ているのである。

「恐るな」と言っても。


これは、ビビるよ…………。


しかしきっと、この部屋を立ち去らない様子からしてこれからも私のそばにいるつもりなのだ。
きっと。
それは、何故だか、分かる。


大きく深呼吸して、ベッドに腰掛ける。

改めてフォーレストを観察すると、フワフワの白い毛に少しだけ青緑の様な色が混じったくるくるした毛並み。
頭は二つ、あるのだが左右に付いているというよりは上下の頭が、ある。

下の頭が少し小さくて、子供の様にも見える。
もしかしたら、フォーレストの子供なのかもしれないけど。
それは訊くことができない。
「今」するべき質問ではない事が、分かるからだ。


上下の二つの頭、美しい四つの青緑の瞳、太くて短く尖った角を持つ、その羊は。

何の為に、いきなりここへ現れたのだろうか。

「あっ。」

そこまで考えて、ふと思い出した。
もしかして。

「あなた、昨日………?」

ゆっくりと瞬きをするそのさまは、寝ていた太古の生き物が目覚めた様な、大地が呼吸、している様な。

まるでそんな、さまである。


その、ゆっくりとした動きを見て、私の中に何かが堕ちた。

この子は、昨日ディディエライトに会いに来たんだ。

もししたらずっと、側にいて。
待っていたのかも、しれない。
私の、「なにか」が満ちるのを。

この、形になって、きっと。

うん?
なに、を…………?


私の頭の中を覗いているかの様に、「その話は終わりだ」と大きな瞳が言い、小さな頭が足を小突く。

「あ、あっ?そうか。うん、着替えるね?」

解ると、可愛い。

やはり、子供の様に見える下の子に催促されて、クローゼットへ向かう。


「後は…後でいいよね?」

そうして身支度を整えると、青の鏡に確認して食堂へ向かった。

勿論、背後にはフォーレストを連れて。

まるでそうするのが当然の様に、私達は青い廊下を歩いて行ったのだ。



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