透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

礼拝

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「えっ。」

「言ってなかったか?」

「聞いてないですよ!えー、絶対行きたかった!」

昼食時の食堂はいい匂いと、みんなの気配、温かいものに囲まれる雰囲気が好きだ。
朝はスピリット達も銘々仕事をしている事が多く、昼に集うこの空間は何かが満ちている感じがする。

すっかりリラックスしながらパンを千切り、向かいからの適当な返事に不満顔を向ける。
ミネストローネ風の赤いスープを啜りながら、私は口を尖らせていた。

そんな事は全く気にしていない、この人は。

すっかり自分は興味が無いからって、私に大事な事を言い忘れていたのである。

「ん?え?もしかして?…内緒に、してませんでした?まさか?」

「そんな事は、ある。」

思わずガタンとズッコケてしまった。
どういう事だ。

「だって、お前。教えたら絶対「行く」と言うだろう。」

「そりゃ………まあ、そうですけど。ていうか、行かなくてもいいものなんですか?」

「まだ前回はお前の事は知れてなかったからな。だが流石に次回からは参加だ。もう色々出歩いてるしな。」

「ふぅん………楽しみですね?」

「俺には心配しか無い。」

キッパリと言い切ったウイントフークは、話は終わりだとばかりにスプーンを置いて立ち上がった。

「えっ?ちょ、次っていつですか?」

「?三日後くらいじゃないか?」

「えっちょ、待って………うん?」

しかし、白衣の後ろ姿を見て呼び止めるのを止める。
多分、この人に訊くよりもラガシュやパミール、ガリアに訊いた方が。
確実だろう。そう、思ったのだ。


うん、多分それ正解。

そうして私も手早く昼食を済ませると、「お茶はあっちで飲むから」と言い残して魔女部屋へ戻ったのである。

そう、向こうには話石があるからだ。

そうして青の廊下を小走りで戻って行った。





「そうそう、噂はあるんだけどね?実際会うのはその礼拝の時が初めての場合が多いんじゃない?」

「前情報がと、実物が違ったらアレよね………。」
「それある。」

「えー、やっぱりそうなんだ…。でも、その人だって、どうやって分かるの?」

「そんなに沢山はいないからね、若い男は。大体容姿を聞いてれば分かるわよ?」

「へぇ~。なんか………楽しみ!」

「うーん。」
「どう思う?」
「不安。」

「まぁね?でも………。」
「そうね、それはある。手は、出せないもの。」

うん?
二人は。
何を、心配しているのだろうか。


私が話石で二人に訊いているのは、全体礼拝の話だ。
あの、地図を見つけてから。
「他の色の家とは何処で出会うのか」が気になって考えていたのだが、「買い物に行く」程度しか思い付かなかった私の頭。

各家は店をやっているので、入り用なものがあれば他の家へ買い物に行くのだろう。
しかしきっと「女性は外へ出られない」という話からして、なんとなく買い物も許されているのか怪しいと思った。
行けるにしても、全ての家の人に会う事は難しいだろう。

それならば、何か他の家と一緒にやる祭事などがあるのではないかと、ウイントフークに訊いたのだ。
すると「なんだ、月一回会うぞ?」と事もなげに宣った、あの人。

それに、私がここへ来てから優にひと月は経っている筈だ。
すっかり始めの礼拝はスルーされていたらしい。

しかし、礼拝堂で祈ったならば何かが漏れ出しそうな気はするので、確かにそれは正解かもしれないとも、思っていた。

なんだか二人も、「心配」って言ってるし………。



「ねえ?何が、心配なの??」

私達は今、所謂「三者通話」状態である。

きっとできるだろうと、試してみたらやはりできた。
何事も、やってみるのが正解なのだ。

「そりゃ、色々あるわよ。」
「そうね。」

「ヨル、礼拝にもベール無しで行くつもり?」

「うん。だって、パミールやガリアもしてないでしょう?」
「「まぁね。」」

「それなら良くない?若い子がみんなしてて、私だけやってないならまだしも「銀の家だけ」なら。多分、大丈夫だよ。」

「そうね………まあ、やってみる価値はあるかもしれないわね?」

「別に銀の家から咎められたりはしていないんでしょう?」
「うん。まだ。」

「まだ、ね。確かに。」
「でも新しい事をやってみるのは、いいかもね。」

「でしょ??」

何かと現状打破をしたい私はベール無しのお出掛けにも慣れてきていた。
元より、ジロジロ見られるのには慣れている。

その所為で、何かが変わるのならそれも興味があるし、そうする事で「誰が」「どんな」行動に出るのかも。
本部長曰く「楽しみだ」という事なのだ。

ま、本部長お墨付きならきっと咎められてもなんとかなるでしょ………。


そんな能天気な私に、二人は気になる情報を齎した。

どうやら、私が「青の家と仲がいい」という内容らしい、その話。
それは。
「青の家」なのか、「あの人と」なのか。

しかし二人は確信までは判らない様だった。

「なにしろ噂は、あるの。だからなのか、分からないけどヨルに目を付けてる人は他にもいると思う。」

「そうね。本来ならば銀か、白のみだもの。青となれば、みんなが色めき立つのも仕方が無いかもしれないわね?」

「うん?銀と、白?」

「そう。これまでに、銀からお嫁に行く先は銀か、白のみしか。認められていなかったのか、でもそもそも家同士の話だから………。なにしろ例外は無かった筈。」

「そうね?だから、みんなチャンスがあるかも、と希望を抱いてるのよ。それにうちと、パミールの所にも出入りしてるじゃない?そんな子、いなかったから「誰か良い人でもいるのか」っていう話もあるくらいよ。まあ、噂だから話半分で聞いておいて。」

しかし。
何故だか私はその話を聞いて、楽しくなってきてしまった。
きっと、それどころじゃないんだろうけど。

「えっ、ねえ?それって?私、めっちゃ悪女っぽくない??」

「………ヨル。それには無理が………いや、でも。知らない人から見ればきっとそう………?ね?」

「でも喜ぶ所じゃなくない??」

キャラキャラと同時に話しながら、一頻り笑って、そして静かになった。

なんとなく訪れた沈黙、しかしきっと私達の考えている事は同じだと、思う。

二人の家に行った時、私はきちんと相談したからだ。
いや、相談と言うか。

報告に、近かったけれど。


「なにしろ。ヨルは、一等綺麗に見えるドレスで来なさいよ?おいそれと声が掛けられないくらいの雰囲気が、いいわきっと。」

「そうね?多分、これが他の色への披露目みたいな感じになるでしょうね。………でも。」

「なぁに?」

言い淀むガリアに、続きを促す。

「実は…………結構、楽しみ。絶対、みんなの顔が面白いと思うもの。」

「それはあるわね。」
「どうする、パミールの彼が見惚れてたら。」

「うーん、それは困る?けどヨルとはタイプが違うからなぁ………。」
「それある。でも、正装したら大人っぽいよ、多分。」

「多分?まあ、そうだよね………頑張って大人っぽくしていこ。」

「そうね?彼は年上だし、でもこの中では断然、若い方だけどね?他に歳下の男の子は………。」
「いや、赤が怪しいわよ。ハーゼルが帰って来てるとか何とか…。」

「えっ?!ハーゼル?やだな………。」

「何、ヨル苦手なの?まあ、分かるけど。」


そのまま、私達の女子トークは暫く、続いて。

本当に三日後だった全体礼拝、正装での参加、ほぼ全ての家の者が集まる事などを聞いた。

あの、銀から白、入り口近くへ続く青のベンチが脳裏に浮かぶ。

それに。

その、全体礼拝では「あの絵」も、石も、無いらしいのだ。

確かにあの時、礼拝堂にはそれらしき物が何も無かった。
しかしその時には、用意されるものだと思っていたのだ。

それでは。

その、全体礼拝は一体何に、祈るのだろうか。

二人は「いつも通りよ?」と、言っていたけれど。


私の蝶の事やその「対象」の事も含め、不安はある。
しかし楽しみになってきている自分も、いるのが事実だ。

ベールを脱ぎ、他の家に出掛け噂も広まった所で改めて、全体を把握する事ができるかもしれない。

なにしろこれ迄バラバラだった、この世界の「なにか」が、繋がりそうなそんな気がするのだ。

根拠はいつも通り、何も無いけれど。


「とりあえず、三日後ね。」
「ええ。」
「分かった。」

「「「じゃあ、またね。」」」


そうして、置いてある話石に触れ、通話を切ると。

大きく息を吐いて、バーガンディーへ沈み込んだのであった。


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