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8の扉 デヴァイ
私が思う、それは
しおりを挟む「でも。ウイントフークさんは、どうして揺れるのか知ってます?」
「知らん。俺が居た時は、そう揺れなかったからな?長期居た訳じゃないが、今よりは全くだな。」
「ふぅん?」
「それなら青の家に行った方が早いだろうな…。」
スプーンを持った手が止まり、食事中にこの話を始めた事を後悔した。
いい匂いが漂う温かい空間、向かい側に座る茶の瞳はくるくると何かを考え始めて忙しそうである。
いつもの事だと、放っておいてもいいんだけど。
でも、ウイントフークがこの状態になったなら、マシロ達が困るのだ。
「ちょ、ウイントフークさん!食べ終わってから考えて下さい?」
自分で話題を振った所為もあるが、私が回収しなければならない案件だ。
度々止まる手を小突きながら、食後のお茶が出て来たところで再び口を開く事にした。
「青の家に訊く」という内容を、勿論私も気になったからだ。
「あの、ラガシュが言ってた力を溜めるやつと…関係、ありますかね?」
糞ブレンドが濃いめに出ている、紅。
きっとイリスが蒸らし過ぎたに違いないそのお茶を啜りながら恐る恐る、口を開いた。
無言でチロリと私を見る、茶の瞳。
「お前の知っている事を話せ」という、目だ。
そこそここの人との付き合いも長くなってきた私は、大体の表情は読める様になっていた。
でもまだ、朝よりは解ってないと思うけど。
「私が知ってるのは………。」
そこまで話して、ふと気が付いた。
私がラガシュに聞いた話は。
私が、「生贄」になると。
そんな、話だった筈だ。
えー…。
これ、言っていい、内容?
でも、ウイントフークさんだし?
本部長、だし?作戦…立てるのに、必要??
チラリと再び、茶の瞳を確認した。
「早くしろ。」
目が、合うと同時にそう言ってくるウイントフーク。
だがその瞳はやはりイストリアと同じ色を宿していて、きっと話しても大丈夫な事が判る。
だって。
この人達を、信じなかったら。
一体、誰を信じられると言うのだろうか。
それに。
私の頭の中はやはり、金色が洩らした事が大きく占めていて。
なんならもう、「ウイントフークさんもお父さんなんじゃ…」という気すら、していたのだ。
「お前、それはあいつだけにしておけ。恐ろしくて、向こうに帰れないじゃないか。それにまだ、俺は若い。」
どうやら口に出ていたらしい。
ふっと思い浮かぶ、灰色の髪、緑の、瞳。
お父さんと呼ぶには確かに若いが、自分の娘と同じ様に心配してくれる存在のあの人は、どうしたってそう呼びたくなってしまうのだ。
思い出しただけで緩みそうになる涙腺君を、ぐっと締めて頭を振った。
「そう、ですね………。それでなんですけど…。」
そうして私は、グロッシュラーの図書室で。
青ローブに囲まれ話をした内容を、思い出せる限り本部長に話したのだ。
「抜けてる所はあるかも知れませんが。大体は、そんな感じです。」
「………。」
えっ。無言。
しかし、茶の瞳の動き方からしてきっと予想の範囲内だったに違いない。
すっかり冷めたお茶を気にせず口に運ぶウイントフークを見て、合図しお代わりを持って来てもらう。
私も大分話した気がして、喉が渇いていた。
イリスが気を付けながら茶器を置く様子を見守りながら、ぐるぐるしているとウイントフークが帰ってきた。
しかし、どうやら彼の思考は私の予想外の方向へ行っていた様だけど。
「お前の世界では、世界はどうやって維持されている?力の源は、何だ?」
「えっ?力の、源?」
「そうだ。ブラックホールを子供に教えるほど進んだ世界なのだろう?そこまで発展するという事は、大きな力がある筈だ。」
うん?
世界?地球、ってこと??
えーー?どう、だったっけ?
教科書や資料集がぐるぐると頭の中を回るが、あまり自信のある答えは浮かんで来ない。
色々な単語や断片は浮かんでくるけれど。
こんな事ならもっと授業中、真面目に聞いとくんだった………。
記憶の断片を繋ぎ合わせて、整理するけれど確固たる答えは見つからない。
それらしき、ものはあっても。
なんとなく、「今の私」にピンと来ないのだ。
強いて、言うならば。
「自家発電?自分で、燃えてるみたいなんですけど。でも、それも多分、みんなが循環、しているからだと。思うん、ですけどね………?」
「ほう。詳しく。」
「えっ。いや、合ってるか分かんないですよ?」
「いや、お前の。思った、事でいいんだ。」
意外。
つい、キョトンと茶の瞳を確認してしまった。
私に「そのままでいい」と、言ってくれる人は多いけれど。
この人は、所謂「事実」や「データ」を重視すると思っていた。
ウイントフークの意図はよく分からない。
でも、「私の」考えでいいと言うならば。
そうだな………。
キラリと光る目の前の瞳が、怪しく輝いているのは見ない様にしておこう。
私はすっかり顔に出る。
きっと表情の変化に合わせて、あの眉が上下するに違いない。
視線を落とし、テーブルの木目と自分の手、袖口の若草を見る。
今日はシンプルな若草色のワンピースだ。
袖口には濃い色のテープが挟み込まれ、少しだけ凝った作りにしたお気に入りだ。
どれも、私の服はぱっと見地味だけれど。
細部は凝っていて、さり気なく主張しているものが多い。
全てのものは、表面的ではなく「なかみ」を備えて、いて。
それを、感じられるものが好きだし、感じたいと、思う。
何処に、行っても。
何を、見ても。
茶色の土、大地に生える様々なもの達、自然の中にある、色。
グロッシュラーの灰色の大地の、下にも。
生命は、あった。
地球にだって様々な色があって、実際に見た事のない景色の写真や画像を見て「絶対死ぬまでに見たい」と、思った事も多い。
その土地、場所での土の色の違い、動植物の違い、生活の、違い。
多種多様なものが、生きている、生かされている、箱庭。
うん?
「箱庭」?
閉じ込められて、いる訳じゃ、ない。
でも。
パッと、直感でそう思った。
ふぅん?
でも。
場所が、広いだけで。
私達だって、あの世界に閉じ込められている?
生活、している?
楽しんで、いる。
生きて。
いる。
「……………ふぅむ。」
それなら。
地球も、デヴァイも。
おんなじ、だよね?
パッと顔を上げ茶の瞳を確認すると、答えを待つそれにはっと気がついた。
私は「動力源」を、考えていた筈だ。
いかん。
でも、脱線するのはいつもの事だけどね…………。
えっと?
だから?
「おんなじ」だから、やっぱり。
「想い」
浮かぶのは、一つのことば。
私が思う、この世界を動かす力の源、石をも創る、それ。
地球の真ん中は、燃えているんだか、なんだか、忘れちゃったけど。
だって。
誰も。
見たことある人、いないんだよね??
それなら。
それが、「想い」で、あっても。
「不思議じゃ、ない………。」
なにしろ。
私達が地球で、生きている、ぐるぐると沢山のことを繰り返し営んでいる、理由は。
「えっ。私達が?石の、役目??」
エネルギー源にされてるってこと???
いや、違う。
それは。
ここの世界の、あの人達の、考え方だからだ。
私達は。
「輪」で、循環していて、「持ちつ持たれつ」「お互い様」「共存」「与え合う」
そんな関係の、筈だ。
そう、在るべき、在らなければならない、筈なんだ。
「うんにゃ。」
一人納得して顔を上げると、おかしな表情の人が、いる。
「なんだ。分かったのか?」
「うん、まあ、はい、多分。いや?絶対??」
「………とりあえず、話せ。」
そうして、半分呆れ顔のウイントフークに。
一つも、漏れない様に、順番はバラバラだけれど。
私の心に浮かぶ、言葉を。
伝え始めたのだった。
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