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8の扉 デヴァイ
私「達」
しおりを挟むまだ 目覚めたくない。
心地が良いもの、ここは。
いつか
いつか微睡んだ この 腕の中
ずっと ずっと
ここに いたかった 腕の中
やっと。
還ってきたのだろうか
でも。
なんだか
少し?
落ち着かない?
何か が
足り ない?
よう な
「目が覚めない」
「「仕方無かろうの。心地が良かろう、流石にここは。」」
「でも、このままじゃ」
「「まあそうよな。まだ。早かろう」」
「そう、まだ見つけていない」
「「それも、あるが。一人も欠けてはならぬだろうな。」」
「「仕方が無い。起こすか」」
心地が良い、夢かなにか。
久しぶりの感覚、温度、色、深く心に堕ちるこの想い。
静かな薄青紫に包まれた私は、目覚めたくなかった。
辺りが。
やや冷たい静けさに包まれているのが分かる。
心地の良い落ち着く色、懐かしい様な感覚と、胸の中に押し寄せる、何か。
これは。
きっと、あの。
私が、探し求めている、あれではないだろうか。
私が
私、が ?
そう だった? 私
私が 探して いる色
それ は
?
「「いい加減目を覚ませ。」」
「依る。あまり長く此処には居られない」
うん?
誰?
パッチリと、目を開けた。
何も無い空間、ただ広がる薄い紫に先程の感覚が夢ではなかった事が知れる。
何も、そう何も無いんだけど。
二人は、居た。
「えっ?嘘………??なん、で………。」
私の目の前にいたのは、あの白い女の子と赤い、髪の私。
そう、どれも。
私だ。
顔だけ、ならば。
「どこ?え?何これ?大丈夫???」
「「案ずるな。まだ大丈夫だ」」
「まだ?えっ?」
「依る。ここは近いの。」
あっ。
その、白い女の子の、一言で。
私は瞬時に理解した。
理解したと言うよりは、「繋がった」の方が正しいかもしれない。
なにしろ、この二人は私でもありディディエライトでもあり、姫様でも、あるのだろう。
何故だかこの空間で顔を突き合わせる事になっては、いるが。
きっと、目が覚めぬ私の為にこうしているに違いないのだ。
ここが。
あの、二人に「近い場所」だから。
「そう、それで、そうなんだ………。」
「「急ぎ目を覚ませ。このままではここに。留められるぞ」」
「そうなの。迎えが来てる。大丈夫、思い出して?あなたが求める、色は」
「「そう」」
頭がついていかないが、二人の焦りだけは伝わってくる。
それと同時に、「ここにいたい」という想いと、「まだ」という想いのせめぎ合いも。
痛い程、解って。
ああ、この二人はだって。
「ここ」でも、いや、ここが。
いいんだ。
でも私の為に、いや、セフィラの為?
分からない。
まだ、はっきりとは分からないけど。
「足りない」のは、解る。
まだ。駄目なんだ。
「今」じゃ、ない。
それだけは、わかる。
「ごめん、ありがとう。じゃあ、行くね?」
「「ああ」」
「また会える」
「うん!」
二人が自分の中に戻って融け込むのが解り、早く目覚めた方がいい事がヒシヒシと伝わる。
まずい。
ここはまだアリススプリングスの屋敷の筈だ。
どうしたんだっけ?
お茶を?
飲んで?
いや、とりあえずは………
パッと胸の中に灯った金色に集中して、心の中を捕まえる。
何処?
迎えに。
来て、くれてるの?
うん?それって、大丈夫………
千里の方がいいの………?
いや、でも。
いいんだ。
私で。
私が、一番、欲しい色で。
そうして自分が、徐々に白金の光に包まれ引き寄せられているのが分かる。
どんどん近づく眩しい光、それは目を瞑っていても眩しく私は更に目をギュッと。
瞑って、いたのだ。
「では。目が覚めていれば連れて帰りますよ?」
「ああ。だが本人が。「ここに居る」と言えば、どうかな?」
「それは無い。」
あれ?
気焔の声が、する。
多分、最初に喋ったのは千里だ。
迎えに来てくれたのだろう。
しかし、きっとベッドに寝かされている私は、どうして自分が「この状況」なのか。
全く、分かっていない。
うん?
確か、お兄さんの話を振られてなんかぐるぐるした後、どう、なったんだっけ………??
記憶が、無い。
でも。
なんだか、懐かしい気は、する。
ん?
あの、二人………あ、そうだ!
「ゆ、め………?」
うん?
パッチリと目を開けると、知らない部屋に寝かされているのが分かる。
青を基調とした部屋、美しいサテンの空色が爽やかなベットカバーが目に飛び込んできた。
何これ。
意外と、落ち着く………。
多分、私の部屋に近いからだろう。
意図してこうなのかは分からないが、所謂「女の子」の、部屋である。
しかし「何故青い女の子の部屋なのか」と考える間もなく、部屋の扉が開いた。
いや?
寝起きの女子の部屋にノック無しですか??
そう、思ったけれど。
多分、三人は私が寝ていると思ったのだろう。
「やっぱりな」という顔の千里を先頭に、澄ましているアリススプリングス、安堵顔の金色が続く。
て、言うか。
気焔、ここに来て大丈夫なのかな………。
「起きたばかりかな?失礼するよ。君は、どうしたい?」
えっ?どう?
そう問うたアリススプリングスは余裕の表情で腕組みをして私を見ている。
後ろに控えた極彩色と金色は、黙ったままだ。
どうって?
何が?
しかし、さっき部屋の外から聞こえてきた会話は「連れて帰る」や「ここに残る」だった。
それならば。
きっと、私が「帰りたいか」、って事だよね?
そう思い、顔を上げ金の瞳を探す。
しかし私が見つけたのは、茶の瞳で。
そうか。
そう、だよね?
でも。
「帰る」という言葉、「ここへ残る」つもりのない事、しかし何故だか後ろ髪を引かれるこの、想いは。
あの、二人の「想い」だ。
瞬間、溢れ出した涙に自分で驚いてただ、瞬きをしていた。
絶対に、あの二人は。
ここに、いたいであろう事が解るからだ。
ホロホロ、ホロホロと流れる涙を拭わず流れるに任せる。
三人は誰も何も言わず、私もそちらを見れなくてただ、空色のサテンを見て、いた。
雫が落ちて、一段濃い青に変化する、その様を。
意外と落ち着くこの空間は、きっとこの青の所為だろう。
何処に在っても、きっとこの色は私の味方なのだ。
一頻り泣いて、少し落ち着いてくると多分「私が」話さなければならない事が分かる。
幸いにも催促しそうなアリススプリングスは、黙ったままだ。
私が先に。
口を開いた方が、いいだろう。
そうして、顔を上げると。
呆然とした顔と暖かな目、そして金の瞳が、あった。
あれ。
金になってる。
その「色」で完全に我に返った私は、ゆっくりと口を開いてこう、言った。
「帰ります。お世話になりました。また、来ます。」
そう、また、来ると。
言わなくて良かったかも、しれないけど。
呆けていたアリススプリングスはその言葉でハッとし、「ああ」と返事をした。
彼がボーッとしている間に、自然な流れで千里が合図し気焔が私を抱き上げる。
そうして少しの、切なさを抱いたまま。
あるべき場所に、収まった私は再び目を閉じたのだった。
「あら、水を飲んだのではないのかい」
「そうさね」
「何故」「どうして」
「あれか」
「あれだな」
「原因は」「排除するか」
「だが」
「難しい」「まだ」「もっと力が要る」
「しかし頼りないね」
「何故だ」「昔はもっと」
「いや」
「できる」
煩いな………。
金色に抱えられた私は、いつもの様に眠りに落ちそうだったが流石にそこまで図太くなかった様だ。
銀の一位のお屋敷を出るまでの間、寝たふりをしようと目を瞑ってはいたのだけど。
辺りが、どうも五月蝿いのだ。
多分、調度品か肖像画だと思うのだけど。
サワサワ、ザワザワと私達が歩くのに合わせて会話も移動するのである。
まるで、この屋敷全体が。
古いものの塊の様だ。
無言で足早に歩く私達を、追う足音が迫って来た。
多分、あの人だ。
「待て。家の者に、運ばせよう。」
「いいえ。」
声の動きで千里が私達の背後に回ったのが判る。
足止めをするつもりなのだろう。
きっとそれを解っている金色は足を止めずに歩いている。
「待て、お前はただの。まじない人形だろう。何故邪魔をする。」
その時、空間にブワリと極彩色が拡がるのが判り、身体がブルリと反応する。
ギュッとキツくなった腕に、少し安心すると背後から声が聞こえた。
「あの娘は。あの、娘の道を行く。それはお前が決める事ではない。お前も。お前の道を、歩むがいい。」
どういう、こと?
含みがある口調の千里。
あの人は。
沢山の事を、解っている。
何か、彼に思うところがあるのだろうか。
気になるこの屋敷の中の話、アリススプリングスの「道」とは。
私が、考える様な事じゃないのかもしれないけど。
なんとなくアラルの事が、思い出されて。
言い様のないモヤモヤの中、ただ確かにそこにある温かい腕の感触に揺られて、いた。
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