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8の扉 デヴァイ

色水

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嫌な予感は、したんだ。

あの家の造りを見た時に。
明らかに、ヨルが好きそうな門構えに重厚な雰囲気の屋敷。

そうしてやはり、中も予想通り、古い物が沢山あってきっとあいつは声が聴こえていたに違いないんだ。

だって、俺にだって。
少しは聴こえてきたからな。


物の声など、聴こえるだけでは煩くてしょうがない。
普段は閉じている感覚だが、相手が年代物だったり力のある物だったりすると嫌でも声は聴こえてくる。

ヨルはどうなのか分からないが、同じ様なものだろう。
特に、あの部屋に入ってからのの話は。 

べらぼうにペチャクチャと、五月蠅かったからな。


「どうだ?」
「そうかな」「そうじゃない?」
「なあ」

ヒソヒソコソコソと、始めこそ小さな声で話していたそいつらは徐々に声が大きくなってきていた。
元々俺達に聴こえているとは思っていないのだろう。

無防備に話しているその内容は、分からない部分もあるが出来る限り憶えていなければならない。
多分、ウイントフークに報告すれば判る部分も多い筈なのだ。


ヨルの記憶力に、全く期待できない事は分かっている。
全力で記憶メモリを使いながら、話を聞いていると明らかにコイツらはこの家の主人のしでかす事を、知っている事が分かってきた。

見聞きしていた、と言うよりは行動が予測できるのだろう。

やはり、ただで済むとは思っていなかったがこの家の主人はヨルを捕まえるつもりなのだ。
どうにかして留めるのか、監禁するのかは分からんが。


なにしろ「飲む」というキーワードが出てきたからには、その「色合わせ」とやらの水、若しくはお茶に睡眠薬でも入れているのか。

ヨルに注意を促したかったが、主人は俺達の正面、割と近い位置に座っている。
声は、聴こえなくとも。

ヨルが反応すれば、バレる可能性は高い。

しかしこの絵達の話はヨルにも聴こえている筈だ。

そう思って、安心していた俺が馬鹿だった。

あいつが何かに気を取られる事なんて。

容易に、想像できそうなものなのに。


しかし、今考えてもあのお茶を飲む前に俺が飛び込んでおかしな事になるか、こうしてヨルが眠り込む事になるか、どちらが良いのか。
微妙、だけどな………。



何も知らずにスヤスヤと眠りこけるヨルを見つつも、思わず溜息が出る。
いや、出してるだ。

あの後、結局お茶へ飛び込んだ俺はメイドに摘まれ窓の外へ放り投げられたし。

千里は家へ帰された。

下手な理由に一応納得したフリをしたあいつは、多分後からここへ戻るだろう。
何せあいつも気焔の仲間だ。

ヨルを放っておく事は、まず、無い。

俺は窓が開いている部屋を探して屋敷へ戻り、ヨルの匂いを辿ってここへ辿り着いた。

多分、ここは屋敷の最奥だろう。
普通に、来れる場所なのかどうかは、分からんけどな。
まあはアイツらには関係無い。

とりあえずヨルの無事を確認した俺はのんびり待つ事にした。



ベッドへ寝かされているヨルは、さながら眠り姫の様によく眠っている。

メイドにヨルを運ばせたアリススプリングスは、とりあえずこの部屋へ来る気配はない。

もし、あいつがヨルを手籠にする気であれば俺ではどうにもできないから、少しホッとしたのは事実だ。

「しかし、の気配は、無いな…。」

睡眠薬の様な、匂いもしない。

何故、今ヨルが寝ているのか俺には分からないのだ。

しかし、俺が飛び込んだあのお茶の中には多分アリススプリングスの水が入っていた筈だ。
ちょっと、あいつの匂いがしたからな。
オエッ。

なんで俺が…………。


もう濡れてはいないが、体を震わせているとフワリと鮮やかな光が部屋の中に現れた。

千里だ。

「遅い。」

「いや、悪いな。ウイントフークが煩くてな。」

「ああ。色々聞きたがったろう?」

「まぁな?」

ウイントフークはヨルは大丈夫だと思っているのだろう。
多分、気焔がそう言ったからだと思うがもう少し心配してもいいと思うがな…。

チラリとベッドを見ると、何故かニヤニヤしながら寝ているヨル。

こんな時に、いい夢でも見ているのだろうか。
確かに心配する事は無いのかもしれないな………。


「で?どうするんだ?」

「いや、多分。明日になったら帰されるだろうって言っていたぞ?んだそうだ。」

「へぇ?迷惑な話だな。」

「まあな。普通はその場で判るらしいから。コイツの所為だろうと、言ってたぞ。」

「ああ、そうなのか………。」

きっと。

気焔が「なんとか」しておいたのだろう。
きっと飲めば「合うか合わないか」判る水を、飲むか分からないからだろう、お茶へ仕込んだアリススプリングス。

を、弾いたのか何なのか、ヨルは眠り込む事になってしまった。

今ヨルからあの匂いは、しない。
それに、「入って」いたならば流石に千里も気が付くだろうしな。


「それなら俺らは。留守番か。」

「まぁな。ちょっくら、俺は出てくる。心配ない。」

そう言って、再びパッと消えた千里。
ここには、シンが、いると。
ヨルが気にしていた。

もしかしたら、調べに行ったのかも知れないな?
しかしあいつら、どういう関係なんだ??


ヨルの周りには、不思議が多い。

思えば、出会った頃からそうだったけれど。

再びクスクスと寝ながら笑っているヨルの枕元で、俺も少し休む事にした。
寝なくてもいい俺は、いつの間にかこいつのそばに居れば自分の中が満ちる事にも気が付いていたのだ。

やはり、スピリット達の様に。
俺も、ヨルから何かを受け取っているのだろう。

不思議な娘なのだ。


まあ、単純に心地良いから。
側に、居るだけなんだけどな。


そうして明日に備えて、思いを巡らせる。

規則正しく上下する、リネンの色が青い事に気が付いたが。
偶然だろうと、思う事にした。

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