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8の扉 デヴァイ
悪の中枢への訪問
しおりを挟む「その、水って。匂い、しますかね?」
「さあ?」
「味は?あるのかな??」
「どうだか。」
「舐めるだけじゃ、駄目ですかね?…いや、舐めるのもキツいな………。」
「五月蝿い。多分、なんとか、なる。あいつが。そう、言ったんだろう?」
「まあ………はい。すいません。」
朝の、食堂。
私にたっぷりと金色を、注ぎ込むだけ注ぎ込んで朝になると居なかったあの人は確かに「心配するな、大丈夫だ」とは、言っていた。
が、しかし。
現実問題。
それは、一体どんな形で提供されるのか。
やはり、口を付けずに拒否はできないのか。
見た目少しでも濁りがあれば、そもそも顔に近付けるのだって嫌だ。
そんな事ばかり頭に浮かぶのは、仕方が無いと思う。
やや潔癖症の私には、重大問題なのだ。
まあ、好きに行動していいとは、言われているので最悪ひっくり返して帰ってくる事も、できる。
でも、目をつけられない方が。
動きやすいのも、解るのだ。
「うぅーーーん。」
「ま、あいつが言うなら。大丈夫じゃないか?」
チラリと極彩色を見る。
絶対、面白がってる。
何かにつけて金色を揶揄う様な、試す様な態度の千里はきっと今回も様子見と称して楽しむに違いないのだ。
いつの間にか立ち上がっていた私は、ドサリと椅子に腰掛けあまり進まない食事に手をつける事にした。
なんだか水の事を考えていたら、食欲が無くなったのである。
「あーあ。なんかご褒美でもあれば。頑張れるんだけどな………。」
ポツリと呟いた私に、天の声が聞こえて来た。
「ああ、それが終わったら。ブラッドフォードが図書館へ連れてってやると。言っていたぞ?まあ俺も行くけどな。」
「えっ?何それ!やった!!ちょっと、やる気出てきた!」
「ちょっとかよ。」
「ちょ、千里も協力してよ??なんかこうさ、パッとコップを変えるとかできないの?」
「さあ?コップなのか、どうかも。分からない、からな?」
「…………。」
え。
パタンと思考を閉じた私は、この話題について考える事を放棄した。
うん、もう。
その場になったら、考えよっ。
そうそう、「大丈夫」って言ってくれたし。
そう、私は。
彼を「信じれば」いいだけ。うん。
やめやめ。
しかもこれ以上。
想像したならば、もっと嫌な感じがするに違いないのだ。
「もう、意地悪は止めて。お終い、この話は。」
「ま、話し始めたのは依るだけどな?」
もう無視しておこ。
そうしてテーブルの端に止まって、水を飲んでいる小鳥を観察し始める。
黄色に青の鮮やかな羽が入った小鳥は、この空間の新入りだ。
あの、ハクロやマシロの言っていた「満ちると生まれる」という事が、徐々に現実となって現れ始め、この青の空間には生き物が増えていた。
正確に、言えば。
「形」を得た、スピリット達だけど。
正確にどの位増えたのかは分からないが、あのホールを通る際小鳥の囀りが聴こえる程度には増えた様だ。
時折こうして、食堂までは入ってくる様になった小鳥達。
最終的には、手に乗って欲しいと思っているのだが、どうだろうか。
「さあ、午前中に行って帰って来るのだろう?そうのんびりしていていいのか?」
「うっ。はぁい。」
自分は行かないからなのだろう、余裕のウイントフークにそう言われるのはなんだか癪である。
いつも時間を気にしていないのは本部長の方なのにっ。
「ごちそうさま!」
そうしてヒラヒラと手を振る極彩色を横目に、青の廊下へ足早に出たのであった。
「うっわぁ。何着て行こう?全然考えてなかったわ………。」
出た途端にゆっくりと廊下を歩きながら、独り言を言う。
しかしこの頃、満ちているからかたまに返事が返ってくる様になったこの廊下は、意外とオシャレ好きな様である。
「私はやはり青が好きだけどね。でもあの家に行くのなら、青は止めておこう。」
「うん?何故?」
答えてくれたのは多分、途中の額縁だ。
青空の絵が描かれたその豪奢な額は、多分ラピスの森へ向かう景色ではないかと思う。
「だって。お前さんは青が一等、似合うだろう?気に入られてしまってもしょうがないからね。」
「あら。青が似合うと言われるのはやっぱり嬉しいな。」
「それはそうだろう、青の子よ。」
「なあ」「ねえ」
口々に調度品達が騒ぎ始めたので「ありがとう!」と急ぎ部屋へ戻る事にした。
そもそも、急いでいた事もすっかり忘れていたのである。
パタンと部屋の扉を閉じ、クローゼットへ視線を飛ばす。
「だってみんな、話してくれると楽しいしねぇ…。」
静かな自室、今日私の部屋には誰も話すものはいない様だ。
残念な様な、ホッとした様な。
取り急ぎ、若草色のワンピースを掴んで洗面室へ向かった。
「やっぱり緑でしょ。赤とかピンク系は持ってないし、青は駄目だってみんな言うし。この前黄色系だったから、緑なら。地味?じゃない??」
「まぁね。無難?」
髪を結い直しながら鏡と相談だ。
くるりと回って、背後も見て貰えば完璧なのである。
「うん、いいわよ。行ってらっしゃい。」
「はぁい。………じゃあ、行ってくるね…。」
「頑張って。」
片手を上げ小さな合図だけをして、緑の扉を出る。
するとそこには既に、きちんとした格好の極彩色が待っていた。
「さあ、行くぞ。」
「うん、早いね…。」
段々と気が重くなってきたが、まさかすっぽかす訳にはいくまい。
「元気を出せ、図書館だぞ。」
「…ね。」
耳元に来たベイルートにも励まされ、とりあえずのそのそとホールへ向かう。
頭上には、生まれたばかりの美しい小鳥達が遊び、歌っている。
その様子に少し励まされると、背中を押され暗い廊下を潜って行った。
銀の区画へ入ると、見た事のあるまじない人形が私達を待っていた。
多分、この前の披露目のお茶会で給仕をしていた一人ではないかと思う。
どうやらアリススプリングスの家の者だった様だ。
コミュニケーションが取れているのか、何も話さないその人形と千里は何やら通じ合って私の前を歩いている。
いつもここへ来る時は前後に人がいたので、なんだか背後が寂しいが仕方が無い。
キョロキョロと背後を気にしつつ、大きな背中について歩いた。
「ここ、庭を通らないと家へは行けないみたいですね?」
「銀はそうだな。ここが分岐点だから、そもそも他の色は手前の店迄しか入れない様だぞ?」
「えっ。そうなんですか?じゃあ遊びに来れないんだ…。」
パミールとガリアも「庭が見たい」と言っていた事を思い出した私は、少し残念だったが「やっぱりいいわ」とも言っていた気もして頭を振る。
あの二人にとってリラックスできる場所では無いだろう。
今日もほぼ人気の無いこの場所だが、注意して気配を探るとやはり、少し人がいるのは分かる。
もしかして、私がここへ呼ばれているのもバレてるんだろうか………。
あの時の、変化した場の空気。
こうなってしまっては「私は関係ないですよ」とも言い難いのも確かだ。
とりあえずは何事も無く帰れる事を祈りつつ、白い煉瓦を歩いて行った。
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