透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

色合わせ

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「水に、自分の色を移すんだ。まあ、俺はやった事がないがな?」

そう、軽く宣う本部長は「そんな事には全く興味が無い」という風に、ページを捲っている。

多分、あれは。
この前私の、光を閉じ込めた本ではなかろうか。

て、言うか。
私の光が入っているなら、見る権利はあると思うんだけど………。


隠す様にその本を仕舞ったウイントフークは、面倒くさそうに私の向かい側へ座り隣を見る。

「で?お前は昨日からこいつの部屋にいたのか。大丈夫か?帰らなくて。」

「上手くやってある。」

しれっと返事をしたのは勿論、金色である。

昨日、あの後ぐるぐるに落ちて行った私を掬い上げ、再びたっぷりの色を注ぎ込んで。

そう、眠りに落としたのである。

お陰でよく、眠れはしたのだけれど。
この、キラキラが。

「お前、解っていて。やったのだろう?」

「まぁな。おけば。心配無い。」

頬をピタピタと冷ましている私を横に、二人はよく分からない話をしている。

雰囲気から、言えば。
多分、金色は何が起こるのか解ってしたと、いうことだろう。


えっ。
その?なんとか?
「色を見る」とか言うやつで??

この、金色が。

見えちゃうって、事じゃないの………???


私の疑問顔に珍しくウイントフークが説明を始めた。

しかし、その、内容は。
到底、できそうなものでは、無かったけれど。


「水を飲むんだ。俺は絶対、嫌だけどな。」

「えっ。」

「まあ、相手がいないとやらんしそもそもやっていない家も多いだろうな。昔の、やり方だ。しかし、まじないを強くする、という名目であれば。やっている家もまだあるかもしれん。」

思わず隣の金色を凝視していた、私。

チラリと視線を投げたその瞳は、余裕の金だ。

「で?お前はなると思ってそうした?何が起こる?付いていなくて、大丈夫そうか?」

そう問われた金色は表情を変えずに、こう答えた。

「これだけ吾輩で、満たしておけば。もう何色も受け付けまい。そもそも、「この色」以外は。入れさせるつもりも無いし、入らんだろうな。」

「そうか。なら、いいが。飲めない、という事になるか………。」

「そうじゃな?」


ちょ
待って なに

そんな、しれっと??
「吾輩で満たす」とか???
人の前で??

え え  ええ~~~~!!

しかも最後喋り戻ってるし!!
なに?
なんなの??!!?


やっとこ冷えてきた頬が再び熱くなり、ピタピタピタピタしていると手を掴まれた。

「依るが。油断しなければ、そう問題無いだろう。」

うん?

「油断?」

両手を捕らえられたまま、金の瞳を見る。

少しだけ憂いのある色に変化したその瞳は、何も言わなかったけれど。

なんとなく「あの事」なのか、とは。
察しがついた。


多分、シンの事だ。


私の中を揺らす事、それが向こうで起こるならば。
きっとそれ以外に無いとは、思う。

しかし、それについてはウイントフークが釘を刺してきた。

「今回、あいつは見つからないだろう。然るべき時に、彼処には行く事になる。必ず。無理をして探すのは止めろ。それこそ、危険だ。」

「………うん、分かってますよ。」

流石本部長、私の気になっている事などお見通しだったのだろう。

隣の金色も頷いているし。
そう、今回は。
きちんと、帰ってくることが先決だ。

いくら私が好きに行動すると言っても、あそこに拘束されるのは幾らなんでも早過ぎる。
まだ、この世界の半分も見ていないのに。


「とりあえず。明日だ。今日はゆっくりしてろ。」

そう言ってウイントフークは私達を部屋から追い出した。
朝っぱらから部屋へ押しかけたのが、邪魔だったのだろう。
まだ、皺々の白衣だったから。

「それなら、食堂へ行こうか。気焔は、どうする?」

「吾輩は戻らねばならん。」

「そうだよね………。うん、じゃあまた後で?」

「そうだな。一応、今夜も。」

「えっ。」

いや、嬉しい、けど??


そうしてニヤリと笑うと。

そのまま、パッと飛んだ金色は小さな羽だけをヒラヒラと残して行った。


一瞬、青の廊下を舞う金色の羽が美しくて見惚れていたけれど。

「いかん。」

パッと、一番大きな煌めく羽だけを掴んで。

「うん。お腹、空いた。」

そうして一つ、息を吐いて食堂へ向かったのだ。






手のひらに融け込んでゆく金色を感じながら、ゆっくりと口を拭いているとマシロがお茶を運んで来た。

「珍しいね?今日、シリーとイリスは?」

「今日は二人で何やら試作中らしいですよ?」

クスクスと笑いながらそう言うマシロは、この中では一番のお姉さんだ。

そこで、私は少し訊いてみることにした。
スピリットだけど。
に、古くから居るならば。

知っているかと、思ったのだ。


「ねえ?マシロはまじないの「色合わせ」って、知ってる?」

少しキョトンとした顔、しかしすぐに思い付いた様で考えながら話してくれる。

「ああ、多分あの事ですね…?もう、殆ど色は出ないとハクロが言ってましたけどね。でもヨルは…。」

「うん?昔は?どう、だったの?」

「水に力を通すのですよ。水は何者も持つ媒介ですから。そうして望むもの同士、それ取り入れて「色が合えば」。、美しく色が出来る。」

しかし私の顔をじっと覗き込むと首を振るマシロ。

「ですが。目的の「色合わせ」など、無意味だと。思いますけれど。」

何故だかマシロが言う、それが。
意外だった、私。

マシロはスピリットだ。
スピリットの事を、よく知る訳ではないけれど。

きっと、あの金色に似たものなのかと思っていた私は、感情らしきものを露わにしたマシロに驚いたのだ。

「無意味?」

「そうです。目的に合わされる色に。美しさなど、芽生えないでしょうね。例え、「見た目だけ」は、美しくとも。」

それって。

あの、礼拝堂にあった「美しいけれど何も宿らないもの」に似てるな………?


私が白の空間に想いを馳せていると、一言だけ言ってマシロはキッチンへ戻って行った。

「でも。それだけ金色で満ちていたなら。何色も、手出しはできませんよ。いつもありがとうございます。」

何故。

バレバレなの?!?やっぱり??


頬をピタピタしながら、お茶を飲む。

糞ブレンドの香りを思い切り吸い込んで、ホッと息を吐いた。


それに、しても。

「結局、どうすればいいんだろ??飲むけど、身体に入らないの??口は、付けるの?それも嫌なんだけど………。」

「どうした?」

「あ、ベイルートさん!おはようございます。あの件ですよ、あの。明日は一緒に行ってくれるんですよね?」

「まぁな。しかし、「色合わせ」か………。」

「えっ。やった事あるんですか?」

「実はな………。。色合わせで、生まれたんだ。」

「………。」

「いや、別に。だからどうって、事じゃない。殆どラピスでも家同士の関係で結婚するんだ、店などやっているとな?そのお陰で俺は相手が欲しいと思う事は無かったけどな。」

「………なんか。」

「ま、それは気にするな。ところで。」

「はい?」

気には、なるけれど。
根掘り葉掘り、訊いていい話でも、ない。

キラリと光る玉虫色を見ながら、ちょいと背中を撫でた。

「明日は力を注ぎ込みすぎない様に、気を付けるんだ。それくらいか?飲まない様にするのは、自然となるだろうが、口を付けないのは難しいかもな………。」

「えっ。「注ぎ込みすぎ」?」

「そうだ。さっきマシロも言っていたろう?、まじないが弱くなっている。だから水に「色」は、着かないんだ。透明のまま。ただ、合うか合わないかだけは、判るらしい。」

「それは………危ないですね?」


「色」が着くなんて。
得意分野じゃ、ないか。

だから。
困るんだけど。


「そう。だから、注ぎ込むフリをするだけの方が良いかもしれないな?何かウイントフークから言われてないか?」

「全然。」

「肝心な事言い忘れてるのか。ま、後で言うつもりだったのかも知れん。」

「いや絶対、忘れてますよ。今、から。いいやって………」

「まあ。、もんな?」

「えっ。や、いやいや、忘れてくださいよ~!」


暖かい食堂の灯り、揺れるテーブルの上でくるくる回る、玉虫色。

そうしてふざけている私達にお代わりが運ばれて来て。

食後のデザートよろしく、イリスの試作クッキーをつまむ。
そして私は、そのままベイルートにつらつらと愚痴をこぼし始めたのだ。

明日の不安を、そう、打ち消す様に。



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