透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
478 / 1,751
8の扉 デヴァイ

今の本当の私 4

しおりを挟む

たまに、思う。

この人は。

この、石は。

 私のことを、全部、解っているんじゃないか。

そう、思うのだ。




結局、すっかり解った気になって緑の扉を開けてから。

実は、何も解っていなくて。

本当ならば謝ろうと思っていた事すら。

何故だか逆に、慰められた様な気分になってホワホワしていた私。


ちょっと、これは。
由々しき、事態ではないだろうか。

なんで?


「凡そ人の事など分からぬ」とか、言ってる石の方が大人なんですけど?



「うぅーーーん。」

ぐりぐり、ぐりぐりと金髪を撫でていた。

撫でて、いると。
何故だか側にいるのに、寂しくなってきてしまうのは何故だろうか。

あの頃は。
いつでも、すぐに撫ぜれるところに、あった金髪。

でも今は。

…………なんかたまに、極彩色あるし?

それじゃない。


それじゃ、ないんだよ…………。



「ふぅん?」

あ。やば。

確実に上を見ているであろう金の瞳を隠すべく、ギュッと胸に閉じ込めた。
いや、私が隠れたいだけだけど。


しかし、音沙汰のない金髪が心配になってそっと腕を解く。

窒息とか?
するの?石だけど??
でも、息はしてるよね………?


チラリと見た視線が合うのと、体勢が逆転するのと、チカラを注ぎ込まれるのはほぼ、同時で。

瞬時に勢いよく流れ込む金色に全身が震えるのが分かる。


ピリピリと痺れる様な感覚、それが指先までを支配して成す術もなくそのまま、融けて消えたくなるのだけど。

ギュッと、私を縛るその腕が「まだだ」と言って現実へ呼び戻される。

身体はもう金色に支配されていて、そろそろ、頭の中も金色一色に、染まりそうな、頃。


フッと、私を解放したこの人は少し悪い目をして私に訊ねた。

「して。「本当の私」とは。何であった?」


えっ。
今?

生憎今の私の中身は、殆ど金色、なのだが。

思いっきりジトっとした目を向けてやったが、いい顔で笑っている金色を見るとやはり怒れない。

悔しくなって、とりあえず腕の中から抜け出すと。

端に座り、改めて考えを纏める事にした。

纏まるのかは。
分からないけど。






んん?
でも、なんか途中だったよね?

えっと、「本当の私」なんだけど…………。

て、いうか。

「本当の私」、私の真ん中、私というこの「外側」の中にある、ものとは。

「な、に………?フリジアさん、難題…。」


とりあえず、あの時は。

確か「金色」と言われて「あ、あの事だ」と反射的に思ったのだ。

「本当」という、言葉。

その時私は、その反対が「嘘」だと思った。
だから。
パッと思い浮かんだ、最大の嘘。

本当ならば、吐きたくない嘘だ。


だから、「本当の私」は正直であることだと思ったんだよね………とりあえず、この世界に合わせて我慢している事をやろうと思ったんだ。

それに。
フリジアは「色がくすむ」とも、言っていた。

燻むのか、変わるのかは、分からないけど。
を、「望んでいない」と言ってくれたフリジア。

「どちらでもない」とは言っていたけれど、私を心配して助言してくれたのは、解る。
やはり、その辺りはイストリアの師匠だ。
きっと言わずにはいられないのだろう。

自ら中立を示したとしても。



でも、やっぱりそれしか思い付かないって事は、とりあえずそれでいいんだよね………?


少し不安になって、金色を確認する。

先程の場所には未だ自由に寝そべっている金色が、いて。

「いつでもいいぞ」という優し気な色を宿した瞳で、私を誘惑しているのが分かる。

いやいや、まだ。
まだ、もうちょっとはっきり…?

うん?でも、もう無いかな?


その時ふと、思い出したあの白い箱。

スタスタとお気に入り棚へ取りに行き、ベッドへ戻る。

キラリと箔押しが光るその箱に手をかけた時、気が付いてしまった。


「ん?あ、でもこれ読めないんだった………。」

ヒラリと落ちた、一枚のカード。

それと共に挟まっていた一枚の紙が落ちる。
割と小さなその紙には、カードのメッセージが書かれているがそれは読めない古語なのだ。


いつの間にやら起き上がっていた金色が、シーツの上のカードを手に取りじっと見ていた。

そうして私にその一枚を、戻すと。


人間ひとは何故「普通の正解」を求めたがる?お前の。「本当」なのだからお前の感じた事で良かろうよ。」


描かれた、丸に放射状の点線があるカードに視線を留めたまま、そう言ったのだ。

「成る、程………。」

確かに。

だから?

フリジアは、特に何も言わずにこのカードを寄越した?
きっと、私がこの文字を読めない事はあの人なら解っていた筈だ。


じっと、手元を見る。

ホログラムが美しいそのカード達は、どれも想像力を掻き立てる、簡単だが何とでも取れる図柄だ。
きっと、見る時の気分で左右される様な、その類のカード。




やはり、「私の真ん中」が、それだからこそ見えるという事なのだろう。

「直感」を。
生かせということなんだ。



「そう、かぁ………。流石だな………師匠。」

確かに、このやり方ならば「その時の私の真ん中」は分かりやすいと思う。

「それなら、ちょっと引いてみようかな………。」

そう、すっかり忘れそうになっていたけれど。

そもそも私は、アリススプリングスに呼ばれているのだ。
その、前に。

景気付けに魔女にお呼ばれする予定だった。

だけど。

、なっちゃったんだよねぇ………。


チラリと金色を確認しつつも、カードをバサリとベッドに拡げる。
キラキラと金の箔押しが光って、どれも見える様にどんどん拡げていった。

もしも、この金色が彼の金色に反応したならば。

もっともっと、キラキラと輝く筈だと。

そう、思ったからだ。


全てを拡げ終わったところで、腕組みをして真剣に考え始めた。


さて?
どれだ?

どの子?
私を、呼んで?

どう、すればどう立ち回れば。

あの家では、無事に済む?

それに。
そう、ウイントフークも言っていた。
あの、家には。

きっと、シンがいると。


何故だか私も、そう思って知っていて、それは確信でもある。

できれば会いたいとも、思う。

それができなくとも。
元気でいるか、無事か、どうかは。

そのくらいは、知りたいのである。


まあ、あの人がどうこうなるとも思えないんだけどね…でも一応、心配じゃない?
ねえ?
私の中の、「あの人」の事もあるし………。


目の端が、一瞬キラリと光った。

あれだ!

パッと手が反応して、光ったカードをパシンと取る。
するとやはりそれは、光るのを止めて普通のカードに変化した。

「さて?」

少し、胸に当ててからそっと捲る、一枚のカード。

それには、何の紋様が。
描かれているのだろうか。


「えっ。」

なに、コレ。

キラキラ。
キラキラ、だよね??

そこにあったのは、所謂、あの絵文字にある「キラキラ」の様な尖った菱形の様な、紋様で。

どうしたって「光」や、「キラキラ」「金色」を、思い浮かべる柄なのだ。


そっとそれを再び胸に当て隠し、チラリと視線を投げる。

「見た、な?」

ニヤリと笑う、悪い金色。

そうして見た事もない、得意気な顔をしながらこう言った。

「心配ない。ウイントフークも、言っていたろう?「色」が、合うのか。確かめる、だけだろうと。」

「えっ?知ってるの??」

「まぁな。」


てか、「色が合うか」なんて。

何、するの?
何か、されるの??

不安しか、無いんですけど???


そうして私のぐるぐるは、再び。

謎の渦へ、巻き込まれていったのだ。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...