上 下
478 / 1,483
8の扉 デヴァイ

今の本当の私 4

しおりを挟む

たまに、思う。

この人は。

この、石は。

 私のことを、全部、解っているんじゃないか。

そう、思うのだ。




結局、すっかり解った気になって緑の扉を開けてから。

実は、何も解っていなくて。

本当ならば謝ろうと思っていた事すら。

何故だか逆に、慰められた様な気分になってホワホワしていた私。


ちょっと、これは。
由々しき、事態ではないだろうか。

なんで?


「凡そ人の事など分からぬ」とか、言ってる石の方が大人なんですけど?



「うぅーーーん。」

ぐりぐり、ぐりぐりと金髪を撫でていた。

撫でて、いると。
何故だか側にいるのに、寂しくなってきてしまうのは何故だろうか。

あの頃は。
いつでも、すぐに撫ぜれるところに、あった金髪。

でも今は。

…………なんかたまに、極彩色あるし?

それじゃない。


それじゃ、ないんだよ…………。



「ふぅん?」

あ。やば。

確実に上を見ているであろう金の瞳を隠すべく、ギュッと胸に閉じ込めた。
いや、私が隠れたいだけだけど。


しかし、音沙汰のない金髪が心配になってそっと腕を解く。

窒息とか?
するの?石だけど??
でも、息はしてるよね………?


チラリと見た視線が合うのと、体勢が逆転するのと、チカラを注ぎ込まれるのはほぼ、同時で。

瞬時に勢いよく流れ込む金色に全身が震えるのが分かる。


ピリピリと痺れる様な感覚、それが指先までを支配して成す術もなくそのまま、融けて消えたくなるのだけど。

ギュッと、私を縛るその腕が「まだだ」と言って現実へ呼び戻される。

身体はもう金色に支配されていて、そろそろ、頭の中も金色一色に、染まりそうな、頃。


フッと、私を解放したこの人は少し悪い目をして私に訊ねた。

「して。「本当の私」とは。何であった?」


えっ。
今?

生憎今の私の中身は、殆ど金色、なのだが。

思いっきりジトっとした目を向けてやったが、いい顔で笑っている金色を見るとやはり怒れない。

悔しくなって、とりあえず腕の中から抜け出すと。

端に座り、改めて考えを纏める事にした。

纏まるのかは。
分からないけど。






んん?
でも、なんか途中だったよね?

えっと、「本当の私」なんだけど…………。

て、いうか。

「本当の私」、私の真ん中、私というこの「外側」の中にある、ものとは。

「な、に………?フリジアさん、難題…。」


とりあえず、あの時は。

確か「金色」と言われて「あ、あの事だ」と反射的に思ったのだ。

「本当」という、言葉。

その時私は、その反対が「嘘」だと思った。
だから。
パッと思い浮かんだ、最大の嘘。

本当ならば、吐きたくない嘘だ。


だから、「本当の私」は正直であることだと思ったんだよね………とりあえず、この世界に合わせて我慢している事をやろうと思ったんだ。

それに。
フリジアは「色がくすむ」とも、言っていた。

燻むのか、変わるのかは、分からないけど。
を、「望んでいない」と言ってくれたフリジア。

「どちらでもない」とは言っていたけれど、私を心配して助言してくれたのは、解る。
やはり、その辺りはイストリアの師匠だ。
きっと言わずにはいられないのだろう。

自ら中立を示したとしても。



でも、やっぱりそれしか思い付かないって事は、とりあえずそれでいいんだよね………?


少し不安になって、金色を確認する。

先程の場所には未だ自由に寝そべっている金色が、いて。

「いつでもいいぞ」という優し気な色を宿した瞳で、私を誘惑しているのが分かる。

いやいや、まだ。
まだ、もうちょっとはっきり…?

うん?でも、もう無いかな?


その時ふと、思い出したあの白い箱。

スタスタとお気に入り棚へ取りに行き、ベッドへ戻る。

キラリと箔押しが光るその箱に手をかけた時、気が付いてしまった。


「ん?あ、でもこれ読めないんだった………。」

ヒラリと落ちた、一枚のカード。

それと共に挟まっていた一枚の紙が落ちる。
割と小さなその紙には、カードのメッセージが書かれているがそれは読めない古語なのだ。


いつの間にやら起き上がっていた金色が、シーツの上のカードを手に取りじっと見ていた。

そうして私にその一枚を、戻すと。


人間ひとは何故「普通の正解」を求めたがる?お前の。「本当」なのだからお前の感じた事で良かろうよ。」


描かれた、丸に放射状の点線があるカードに視線を留めたまま、そう言ったのだ。

「成る、程………。」

確かに。

だから?

フリジアは、特に何も言わずにこのカードを寄越した?
きっと、私がこの文字を読めない事はあの人なら解っていた筈だ。


じっと、手元を見る。

ホログラムが美しいそのカード達は、どれも想像力を掻き立てる、簡単だが何とでも取れる図柄だ。
きっと、見る時の気分で左右される様な、その類のカード。




やはり、「私の真ん中」が、それだからこそ見えるという事なのだろう。

「直感」を。
生かせということなんだ。



「そう、かぁ………。流石だな………師匠。」

確かに、このやり方ならば「その時の私の真ん中」は分かりやすいと思う。

「それなら、ちょっと引いてみようかな………。」

そう、すっかり忘れそうになっていたけれど。

そもそも私は、アリススプリングスに呼ばれているのだ。
その、前に。

景気付けに魔女にお呼ばれする予定だった。

だけど。

、なっちゃったんだよねぇ………。


チラリと金色を確認しつつも、カードをバサリとベッドに拡げる。
キラキラと金の箔押しが光って、どれも見える様にどんどん拡げていった。

もしも、この金色が彼の金色に反応したならば。

もっともっと、キラキラと輝く筈だと。

そう、思ったからだ。


全てを拡げ終わったところで、腕組みをして真剣に考え始めた。


さて?
どれだ?

どの子?
私を、呼んで?

どう、すればどう立ち回れば。

あの家では、無事に済む?

それに。
そう、ウイントフークも言っていた。
あの、家には。

きっと、シンがいると。


何故だか私も、そう思って知っていて、それは確信でもある。

できれば会いたいとも、思う。

それができなくとも。
元気でいるか、無事か、どうかは。

そのくらいは、知りたいのである。


まあ、あの人がどうこうなるとも思えないんだけどね…でも一応、心配じゃない?
ねえ?
私の中の、「あの人」の事もあるし………。


目の端が、一瞬キラリと光った。

あれだ!

パッと手が反応して、光ったカードをパシンと取る。
するとやはりそれは、光るのを止めて普通のカードに変化した。

「さて?」

少し、胸に当ててからそっと捲る、一枚のカード。

それには、何の紋様が。
描かれているのだろうか。


「えっ。」

なに、コレ。

キラキラ。
キラキラ、だよね??

そこにあったのは、所謂、あの絵文字にある「キラキラ」の様な尖った菱形の様な、紋様で。

どうしたって「光」や、「キラキラ」「金色」を、思い浮かべる柄なのだ。


そっとそれを再び胸に当て隠し、チラリと視線を投げる。

「見た、な?」

ニヤリと笑う、悪い金色。

そうして見た事もない、得意気な顔をしながらこう言った。

「心配ない。ウイントフークも、言っていたろう?「色」が、合うのか。確かめる、だけだろうと。」

「えっ?知ってるの??」

「まぁな。」


てか、「色が合うか」なんて。

何、するの?
何か、されるの??

不安しか、無いんですけど???


そうして私のぐるぐるは、再び。

謎の渦へ、巻き込まれていったのだ。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

甘灯の思いつき短編集

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:5

evil tale

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:22

レナルテで逢いましょう

SF / 連載中 24h.ポイント:455pt お気に入り:1

黄色いレシート

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:228pt お気に入り:0

無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:0

如月さん、拾いましたっ!

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:540pt お気に入り:1

処理中です...