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8の扉 デヴァイ
今の本当の私 4
しおりを挟むたまに、思う。
この人は。
この、石は。
私のことを、全部、解っているんじゃないか。
そう、思うのだ。
結局、すっかり解った気になって緑の扉を開けてから。
実は、何も解っていなくて。
本当ならば謝ろうと思っていた事すら。
何故だか逆に、慰められた様な気分になってホワホワしていた私。
ちょっと、これは。
由々しき、事態ではないだろうか。
なんで?
「凡そ人の事など分からぬ」とか、言ってる石の方が大人なんですけど?
「うぅーーーん。」
ぐりぐり、ぐりぐりと金髪を撫でていた。
撫でて、いると。
何故だか側にいるのに、寂しくなってきてしまうのは何故だろうか。
あの頃は。
いつでも、すぐに撫ぜれるところに、あった金髪。
でも今は。
…………なんかたまに、極彩色あるし?
それじゃない。
それじゃ、ないんだよ…………。
「ふぅん?」
あ。やば。
確実に上を見ているであろう金の瞳を隠すべく、ギュッと胸に閉じ込めた。
いや、私が隠れたいだけだけど。
しかし、音沙汰のない金髪が心配になってそっと腕を解く。
窒息とか?
するの?石だけど??
でも、息はしてるよね………?
チラリと見た視線が合うのと、体勢が逆転するのと、チカラを注ぎ込まれるのはほぼ、同時で。
瞬時に勢いよく流れ込む金色に全身が震えるのが分かる。
ピリピリと痺れる様な感覚、それが指先までを支配して成す術もなくそのまま、融けて消えたくなるのだけど。
ギュッと、私を縛るその腕が「まだだ」と言って現実へ呼び戻される。
身体はもう金色に支配されていて、そろそろ、頭の中も金色一色に、染まりそうな、頃。
フッと、私を解放したこの人は少し悪い目をして私に訊ねた。
「して。「本当の私」とは。何であった?」
えっ。
今?
生憎今の私の中身は、殆ど金色、なのだが。
思いっきりジトっとした目を向けてやったが、いい顔で笑っている金色を見るとやはり怒れない。
悔しくなって、とりあえず腕の中から抜け出すと。
端に座り、改めて考えを纏める事にした。
纏まるのかは。
分からないけど。
んん?
でも、なんか途中だったよね?
えっと、「本当の私」なんだけど…………。
て、いうか。
「本当の私」、私の真ん中、私というこの「外側」の中にある、ものとは。
「な、に………?フリジアさん、難題…。」
とりあえず、あの時は。
確か「金色」と言われて「あ、あの事だ」と反射的に思ったのだ。
「本当」という、言葉。
その時私は、その反対が「嘘」だと思った。
だから。
パッと思い浮かんだ、最大の嘘。
本当ならば、吐きたくない嘘だ。
だから、「本当の私」は正直であることだと思ったんだよね………とりあえず、この世界に合わせて我慢している事をやろうと思ったんだ。
それに。
フリジアは「色が燻む」とも、言っていた。
燻むのか、変わるのかは、分からないけど。
それを、「望んでいない」と言ってくれたフリジア。
「どちらでもない」とは言っていたけれど、私を心配して助言してくれたのは、解る。
やはり、その辺りはイストリアの師匠だ。
きっと言わずにはいられないのだろう。
自ら中立を示したとしても。
でも、やっぱりそれしか思い付かないって事は、とりあえずそれでいいんだよね………?
少し不安になって、金色を確認する。
先程の場所には未だ自由に寝そべっている金色が、いて。
「いつでもいいぞ」という優し気な色を宿した瞳で、私を誘惑しているのが分かる。
いやいや、まだ。
まだ、もうちょっとはっきり…?
うん?でも、もう無いかな?
その時ふと、思い出したあの白い箱。
スタスタとお気に入り棚へ取りに行き、ベッドへ戻る。
キラリと箔押しが光るその箱に手をかけた時、気が付いてしまった。
「ん?あ、でもこれ読めないんだった………。」
ヒラリと落ちた、一枚のカード。
それと共に挟まっていた一枚の紙が落ちる。
割と小さなその紙には、カードのメッセージが書かれているがそれは読めない古語なのだ。
いつの間にやら起き上がっていた金色が、シーツの上のカードを手に取りじっと見ていた。
そうして私にその一枚を、戻すと。
「人間は何故「普通の正解」を求めたがる?お前の。「本当」なのだからお前の感じた事で良かろうよ。」
描かれた、丸に放射状の点線があるカードに視線を留めたまま、そう言ったのだ。
「成る、程………。」
確かに。
だから?
フリジアは、特に何も言わずにこのカードを寄越した?
きっと、私がこの文字を読めない事はあの人なら解っていた筈だ。
じっと、手元を見る。
ホログラムが美しいそのカード達は、どれも想像力を掻き立てる、簡単だが何とでも取れる図柄だ。
きっと、見る時の気分で左右される様な、その類のカード。
だから。
やはり、「私の真ん中」が、それだからこそ見えるという事なのだろう。
「直感」を。
生かせということなんだ。
「そう、かぁ………。流石だな………師匠。」
確かに、このやり方ならば「その時の私の真ん中」は分かりやすいと思う。
「それなら、ちょっと引いてみようかな………。」
そう、すっかり忘れそうになっていたけれど。
そもそも私は、アリススプリングスに呼ばれているのだ。
その、前に。
景気付けに魔女にお呼ばれする予定だった。
だけど。
こう、なっちゃったんだよねぇ………。
チラリと金色を確認しつつも、カードをバサリとベッドに拡げる。
キラキラと金の箔押しが光って、どれも見える様にどんどん拡げていった。
もしも、この金色が彼の金色に反応したならば。
もっともっと、キラキラと輝く筈だと。
そう、思ったからだ。
全てを拡げ終わったところで、腕組みをして真剣に考え始めた。
さて?
どれだ?
どの子?
私を、呼んで?
どう、すればどう立ち回れば。
あの家では、無事に済む?
それに。
そう、ウイントフークも言っていた。
あの、家には。
きっと、シンがいると。
何故だか私も、そう思っていて、それは確信でもある。
できれば会いたいとも、思う。
それができなくとも。
元気でいるか、無事か、どうかは。
そのくらいは、知りたいのである。
まあ、あの人がどうこうなるとも思えないんだけどね…でも一応、心配じゃない?
ねえ?
私の中の、「あの人」の事もあるし………。
目の端が、一瞬キラリと光った。
あれだ!
パッと手が反応して、光ったカードをパシンと取る。
するとやはりそれは、光るのを止めて普通のカードに変化した。
「さて?」
少し、胸に当ててからそっと捲る、一枚のカード。
それには、何の紋様が。
描かれているのだろうか。
「えっ。」
なに、コレ。
キラキラ。
キラキラ、だよね??
そこにあったのは、所謂、あの絵文字にある「キラキラ」の様な尖った菱形の様な、紋様で。
どうしたって「光」や、「キラキラ」「金色」を、思い浮かべる柄なのだ。
そっとそれを再び胸に当て隠し、チラリと視線を投げる。
「見た、な?」
ニヤリと笑う、悪い金色。
そうして見た事もない、得意気な顔をしながらこう言った。
「心配ない。ウイントフークも、言っていたろう?「色」が、合うのか。確かめる、だけだろうと。」
「えっ?知ってるの??」
「まぁな。」
てか、「色が合うか」なんて。
何、するの?
何か、されるの??
不安しか、無いんですけど???
そうして私のぐるぐるは、再び。
謎の渦へ、巻き込まれていったのだ。
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