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8の扉 デヴァイ

今の本当の私 3

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あれ

結局?

それ、で?


どう、なったんだっけ…………???



ふんわりと温かい焔の中、私の頭はすっかり働いていない。

この、中は。

私を駄目にする、天才なのである。


そう、何も考えられなくて。

ただ、この心地良さに身を任せる。


でも多分。

それ、正解だよね……………。


揺らめく焔、金色の無数の羽、燃え上がり消えていく橙と紅の小羽。

時折舞い降りる緑や青の小さな羽を楽しみながら、変化を見る。


この、羽が。

沢山の違う色に侵食されてもきっと美しいだろう。

しかしそれは時に全くの金色に戻り、燃え、浄化され更にまた新しい色を、含んで。


  「不死鳥」

パッと思い浮かぶ、この言葉。

「フフッ」

そうだ。

この人、不死鳥フェニックスだった。


何度でも生まれ変わり美しくなる彼に、追いつきたいと思う。

そして。

一緒に羽ばたいて。

何処までも。

 永遠に。


「キャッ!フフッ。やだ!はずかし………」


「何を、やっておる」

一際大きな羽が私を包んで、キュッと抱いた。


うーん。
腕も、いいけど。

これも、なかなか…………。


「して?スッキリはしたのか?」

ゆっくりと響く声は何処からともなく聞こえて来る。

私を取り囲む小さな羽達が、全身で囁いている様だ。

「そう、だね…………。うん。」

なんとなく…………分かった、と思う。


なにしろこの心地良い空間は、私の思考能力を奪うくせに心地良くだけはしてくれる。

もし、分かっていなくとも。

分かった気に、なりそうで怖い。


でも、多分。

はっきり、何がどう、変わったわけじゃないけれど。





この、金色の言葉が、全てで。


私の真ん中も。同じじゃ、ないだろうか。


「今は。が、分かれば、解っていれば。」


いいって、事じゃない…………?


私の言葉を聞きブワリと燃え上がる小羽、現れた紫や赤の焔は自分を伸ばし、伸び伸びと舞い始めた。


結局、私は。


どんな色も、置いていけないだけだ。

あの、蝶達と、同じで。


ぐるりと目だけを動かし、多色の焔を映す。

そして。
あの、光を思い出す。

「みんな」が、昇る時。

全部が、全てが、キラキラと光って美しくて。


「ああ、人間ひとは。美しいな。」

そう、思った筈なんだ。


どんな、色だとしても。

それは、輝いて。


何度も変化して、脱ぎ去って、最後には。


煌めいて美しく、昇る。


全てが。

きっと。




大きな白金の羽が現れ目の前を塞ぐ。

いきなりのそれに驚きつつも心地良くて、目を、瞑った。


もう、私は。

完全に、彼の中だ。


そうして少しだけ熱くなってきたその、新しい焔に。

ゆったりと、身を委ねて、いた。








「むん?」

ふと、気が付くとウェッジウッドブルーが映る。
どうやら部屋へ戻ってきた様だ。

何故。
戻ってきたのだ、ろうか。


て、言うか。
何か解決したっけ?
うん?
したした。
みんな綺麗で、違う色でいいって事だよね?

あれ?
そもそも。

でも、それだと最初に隠れようとした意味が………?




「あっ。」


ヤバ。

気が付いてしまった。
そもそも、私が。

恥ずかしい?いや、言い訳がましくなるから?
最初に、あっちの問題を考えようと、思ったからで?

うん?
それであっちが解決する前にこっちに帰って来ちゃったってこと??

え。

ウソ。


私は、今。
ベッドの上である。

何故だか寝そべって、あの金色に抱かれて、いる。

これは。

ピンチなのでは、ないだろうか。


え?え??
なんで?
やだ!
だって。の、方が。

なんだか直接、顔を見て、話す方が。

「無理無理無理無理無理。恥ず………っ。」

いや?
待てよ?

そもそも、朝は何て言ったんだろう?

「婚約の事は無かった事にするらしいわよ」とかだったら?
とりあえず、「ごめん」って?
言っとけば、いい??

いやいや、そんな軽くじゃ…………。


再びギュッと締まる腕、物言わぬこの人は多分私の心の、動揺くらいは。

解っているに、違いない。

しかし、何と言っていいものか、考えあぐねている私は言葉を選べずにいた。

だって。
もし、逆の立場ならば。

「謝る」ことに、意味があるとは思えなかったからだ。

「ごめん」じゃ、ないんだ。

欲しいものは。
でも。

私と、彼とは違うし。
何を欲しているのかも。

、分からない。

多分、彼が私を分かってくれる、それより私の方が。
彼を、知らないと思うからだ。


今。
どう、思ってる?

知ってる?

もう、私、隠さなくて、いいんだって。
気焔のこと、好きなこと。

いいんだって。

そのまま、出してて………。


いつの間にか見上げていた、金の瞳。

その目はただ、優しい金色でふんわりと温かく、何色をも含まずに。
ただ、そこに揺れていた。

私の言いたい事が、解ったのだろうか。
この、ふんわりと、温かい色は。

「ごめんなさい」とも、言いたいけれど。

を彼が望んでいないのは、分かる。
それに、そういう事じゃ、ないことも。


「………自己満足だよね…。」

ポツリと呟いた私の言葉を受けて、口を開いた金色は意外な事を話し始めた。

きっとこれまで口にする事など、考えていなかったであろう、自身の事を。
私を、安心させる為に話し始めたのだ。


「吾輩、正確にはいないのかも知れぬ。凡そ、の気持ち、心など。知れるものでは、無いからな。」

少し深みが増した金で私をじっと見つめたまま、髪を撫で言葉を切る。

その言葉の意味が頭に入って来ず、見つめ返すと返事が来る。

私の瞳の、色で。
相槌になっているのだろうか。


「お前がブラッドフォードの婚約者となる事。とは言っても。なるのかは。知らなかったし、知ろうとも、思わなんだ。知る事が良い事とも思えなかったしな。」

「しかし、その一方で。」

キロリと回り朱をふくむ金の瞳。


は、である。は、動かしようの無い、事実でもある。」


「うん?気焔が、私?」

意味が、分からない。
ハテナ顔のまま、その朱を含む瞳を見つめる。

「左様。「こちら側の定義」で言えば、まあそうなる。それであれば、問題は無いのだ。だがやはり、吾輩も変化しを知った。今、こうなってみて考えれば、やはり危うかったかも知れぬな?」

「えっ?何が?」

「彼奴の婚約者、という立場の、意味。その場に、居たならば。燃やしていたかもしれん。」

「………。」


あの………。
それって、あの件ですよね………。


何も、言われなかったけれど。

あの日、ギュッと握っていたロケットの中。
あの小さな空間でもきっと、美しく揺らめいていたであろうその焔はやはり、知っていたのだ。

でも?



「こうなって」みて?


結局、どっち??

怒って、る?

大丈夫、なの………??


私の顔を見て、少し仕方無さそうな目をした金色は再び腕に力を入れ私を懐に閉じ込めた。

そうして大きな、溜息を吐くと。

「まだまだ。お互い、足りぬ様だな?」

そう、言った。


「足りぬ」?
何、が??

えっ ウソでしょ  いやいや

まさか  
ねぇ?

自分がどんどん熱くなってくるのが、分かる。

ぐるぐる、ぐるぐると回る、私の頭とドキドキ煩い心臓。


そんなカッカとしている私を抱く腕を緩めると、ゆっくりと覗き込んで。

「浅慮だと、いう事だ。」

「えっ。」

あー!
悪い顔、してる!!


ちょっと?!何?!!
どういうこと???


「まあまあ、そう怒るな。」

「知らないっ。」

恥ずかしさに思い切り、顔を背ける。
しかし再び腕に取り込まれた私に逃げ場は、無い。


程良い腕の強さと温かさ、馴染んだ感覚と匂い、「私の場所」という確固たる思い。

顔の熱さとドキドキが、収まるのにそう時間はかからなかった。



ひたすら心地良いこの、腕の中にずっといたいと、思う。

優しい金色の中、微睡むフワフワのベッドはあの揺り籠の様な、しかし私だけの空間だ。
思う存分、堪能すべく顔を埋め匂いを、嗅ぐ。

そうして一頻り、それを楽しむと少しずつ頭が働いてきた。

何故、こちら側に出てきてから。
この話が始まったのか。

それが、解る様になってきたのだ。


あの真剣な瞳、その色の変化、私の変化を見ながら言葉を選び、伝えようとしてくれたこと。
多分、私が謝らなくていい様に。
話の方向は、ここへ落ち着いたのだろう。

彼が変化している事を、今更ながら改めて実感する。


ウイントフークに、私達の話をしていたこと。

「人の事は分からぬが、お前に抱く気持ちが他とは違う」と言っていた、あの頃とも。

また、更に変化して、いる。


すっぽりと腕の中に入っていた私は、モゾモゾとその懐から這い出ると、逆に金髪を自分の懐へ入れた。

なんとなくした、その行動で。

最近、撫ぜていなかったことに、今気が付いた私はぐりぐりとその感触を確かめ始めたのだ。




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