476 / 1,684
8の扉 デヴァイ
今の私の本当 2
しおりを挟む「そもそも。「いい」とか、「悪い」とか。私の常識でいいのかって事だよね………でもやっぱり駄目なものは駄目じゃない?………やっぱり難しいな。」
「へえ。今日はお悩みね?」
適当に相槌を打つ鏡を良い相談相手に、お肌の手入れをし髪を乾かす。
最近いつもの定番である。
「うーーん。そもそも、ここの常識で、駄目じゃない訳じゃない………うん?また分かんなくなってきたな??」
「なーんで今度はまた「ここの常識」とやらで悩み始めたのよ?仕方無いじゃない、あなたは外から来たのだから。」
「………うん。それ。そう、そうなの。すーぐ戻っちゃうよねぇ…何これ。」
カチリとガラス瓶を置き、大きな溜息を吐いた。
「なぁに?今すぐ、決めなきゃいけないの?」
「そうじゃないけど………多分?」
「なら、分かるまで放っておきなさい。自ずと「正解」は。分かるわよ。」
「「正解」………でも多分、「正解」を探してる訳じゃないんだよね………。」
「じゃあ、何を?」
あ。
「「本当」の自分?私の、真ん中??」
そうか。
「正解」なんて、無いんだ。
「私の真ん中」しか。
ない。
あり得、ない。
それだけは、確かだ。
「ん!分かった!ありがとう!」
「はいはーい。転ばないでよ?」
「うん!」
最近は鏡にまで心配されるのである。
今朝なんて、よっぽどボーッとしていたに違いないのだ。
機嫌良くテキパキと、道具を片付ける。
そうしてぐるぐるの迷路から抜け出した私は、ウキウキと緑の扉を潜った。
「あれ?」
「いや、朝どのが。寄っていけと、言うのだ。」
目に飛び込んできたのは、ウエッジウッドブルーの中の、金。
お風呂を上がった私を待っていたのは、件の金色だ。
朝~!!
まだ纏まってないのに~~!!
焦りの色を気取られない様に、ゆっくりと動く。
明日の支度をしているかの様に、クローゼットに頭を突っ込み、ぐるぐると考えていた。
え?
嘘!?
何話す?
婚約の、婚約。うん、婚約………。
あれ?
別に焦る事無くない?
うん??
いや、でも………。
チラリと、振り返ったのがいけなかった。
「!」
まんまと、金色に抱き竦められた私はそのままベッドへ運ばれ、厳戒態勢の、まま。
そう、あの金の瞳に、見つめられたのである。
えーーーーーー
う、うん
あの
ね うん
うぅん?
ベッドの、上。
特に何を言われるでもなく、ただ黙って私の髪を梳くこの人は、何かを察しているのだろうか。
怖くて金の瞳は、確認できない。
多分、一目見れば。
分かるのだろうけど。
何から話そうか、まごまごしてぐるぐるしているうちに、なんだか面倒になってきてしまった。
とりあえず、婚約者の件は。
脇に置いて、「私の真ん中」から考えた方が早い気がする。
そう閃いて、モゾモゾと腕の中で座り直した。
そう、ドキドキして何も考えられないモードを変える為である。
なにしろ。
一旦、別の話をした方がスムーズに行きそうだ。
んで?
えっと?
「私の真ん中」。
白も、黒もなくて。
灰色?グレーゾーン?
いや、そういう事じゃ、ないな。
曖昧とかじゃなくて………「善」と「悪」が無い、かな?
だって。
チラリと思い浮かぶ、フワリとした茶髪。
いつだって私の背中を押してくれたレシフェは、初めは完全なる「悪人」だった。
あの時は。
やはり、私の世界のルールでは通用しないのだと。
思った、筈なんだ。
だから。
「うーん。事情が、分かれば。いいのかなぁ。でもそれで、現状が変わる訳じゃないし…。」
「変えようと思うな」
パッと思い浮かぶ、フリジアの言葉。
「だよね………私が、駆けずり回ってどうこうする事じゃない、って事だよね…?自ずと、そう、なる………ように?」
「私が、本当で、あれば…………?」
なる、って、事だよね…………。
いや、なるとまでは言ってないか?
うん??
気の、所為ではないだろう。
私を閉じ込める、腕の中が。
狭くなってきている。
既に髪を梳く手は止まり、私を抱きしめ始めた腕はまるで私を急かす様にも、思えるけれど。
きっと、本人にその気は無いのは分かる。
でも多分。
彼の、心の何処かが、そうさせているのだろう。
なんだか切なくなって、くるりと金の瞳を探した。
ああ、美しいな。
今日は鮮やかな緑が虹彩を刻む深い金は、時折違う色も含む様になった。
近くでじっと、よく見ないと判らない、程度。
だが。
それが軽くも、曖昧でも、中途半端な事でもないのだけは、分かる。
彼の中では何かが、はっきりと。
変化しているのだ。
ただ純粋なだけであった石はもう、無く。
より深く美しく、透明でいて潔い、色。
そんな変化が、私にも。
できるだ、ろうか。
自然と両頬に手を当て、金の瞳を近くで捕える。
「私の真ん中」
そこにはきっと、これが、ある。
でも。
待って。
「私の」だから。
これは、ちょっと、脇に置いて。
私が、どう、したいのかって、ことなんだ。
ふと思い浮かぶレシフェの変化した色、黒や茶の暗い色、アリススプリングスの変化した色。
暗い色だからって。
嫌いな訳じゃ、ない。
私の蝶達だって、始めは燻んだ色だった。
それでも少しずつ、変化して。
今はとても、綺麗な色だ。
それに。
「綺麗な色だけじゃ。つまんないし、成り立たないよね?」
返事の様に、キュッとする腕。
絵の具だって、なんだって。
白やピンク、黄色や水色、爽やかで可愛い綺麗な、色だけで良ければ。
黒は無い筈だ。
パステルカラーだけの、絵も可愛いけれど。
しっかり濃淡があって、深みのある絵だって素晴らしいものがある。
「ねえ。私が、降さなかった色って。分かる、よね?」
凡そ人では無い美しい瞳を目の前にして、訊く。
吸い込まれそうな金は少しだけ色を変え、私に返事をする様に複雑な赤を含んだ。
やっぱり。
この人は、分かっている。
見えたんだ。
そう、無意識に判断して実行した私を。
どう思ったろうか。
一瞬だけ、目を逸らした。
なんとなくだけど。
後ろめたかったのだ。
形の良い唇が動く。
「それがどうしたのだ?」
「いや………。うん。」
言葉が見つからない。
何を言っても、言い訳になるからだ。
私は、そこで。
「白黒」つけて。
「ジャッジ」を、した。
無意識のうちにでも、あの色は駄目で、この色はいいと。
善悪があると、「分けた」のだ。
「何を悩んでいる。そう、深く思い悩む事はない。」
「…………。」
そう?
そうなの?
確かに。
フリジアも「考えるな」とは、言っていた。
私の心のままに、直感で。
進めば、いいと。
朝だって「アレコレ考えない方があんたはいい」と。
「過去を憂いているのか?あれはもう「違うお前」だ。忘れろ。」
「うん?「違う私」?」
いきなり何を言い出すのだ、この人は?
離した手を握られ、真っ直ぐ私を捉える金色。
その瞳に。
混じり気は、見えない。
「あの時のお前と、今のお前。違うのは、分かるか?同じでは。」
「ないであろう?」
ぐっと私に入ってくる金の瞳は、深い所へ沈まざるを得ず、私は私の中を探す。
「あの時の私」を。
「私の中」で。
確かに、私の中にはあるのだけれど、確かに。
「今の私」とは、違う。
中身も違うし、なんなら外見だって違う。
髪型、服装、色の少しの変化、どれをとっても私達が重なると「ズレ」が起こり、「同じ」ではない事が分かる。
「なる、ほど………?だから?仕方無い、の?」
「あの時のお前に戻って、やり直す事ができないならば。それはそのまま、置いておくしかあるまい。これからお前が全ての色を受け入れればいいのだ。何色であれ、大事なのだろう?」
「そう、だね………うん、大事。」
「大切なのはどの色も美しいという事だけだ。吾輩から、してみれば。」
「うん?」
「言ったで、あろう?」
優しく揺れる、金の瞳。
「どの、色も。自分の色を懸命に燃やして煌めく様は、羨ましくも、ある。吾輩ただ、「在る」ものだった故。ああして、皆が燃えている様を見ると何故だか泣いている者も、叫んでいる者も。怒れる者、足掻きもがく者程。燃え盛り、美しいと思うがな。」
「そう、だね………。」
確かに、「色」で捉えるならば。
それはみんな個性でみんな違って当たり前で、其々がそれぞれの役割を。
懸命に、担って。
思い切り、「私はこの色なんだ!」と叫ぶから。
美しいんだ。
綺麗なだけの。
世界は存在しない。
少なくとも、この、世界は。
様々な色を含んで、それ特有の美しさがある、そう思うから。
もしも、天国があるのなら。
真っ白か、明るく美しい色だけなのだろうけど。
「でも。それも分かんないよね?アバンギャルド天国とか、あるかもしんないし?なんなら、ダーク天国?………フフッ、いいかもな………。」
ギュッと締まる腕、その無意識の催促に応える時が来た様だ。
確かに。
助けてもらってばかりの私に、できる事ならばなんでも。
してあげたい、したい、とは。
思っては、いるのだ。
ただ。
恥ずかしい、だけで。
いや、うーん、でも。
言わねばならぬのだ、ろうな?
そうしてスポンと腕の中から顔を出し。
金の瞳に、潔く捕まったのである。
うむ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる