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8の扉 デヴァイ
今の本当の私
しおりを挟む「ねえ。何か言った方がいいと思う?」
「まぁね?だって急にベタベタし出したら逆に心配されるんじゃない?………いや?無いか…。」
ウイントフークの部屋から帰った後、ずっと考えていた。
勿論、午後もボーッとしていたし夕飯も、自分の部屋に帰ってきてからも。
この「金色に言うべきか言わぬべきか」という問題についてぐるぐるしていた私は、森のお風呂に入りつつ朝に相談していた。
でも、一瞬で終わったけど。
「ま。とりあえず、覚悟はしておいたら?」
「えっ?何の?」
「………そりゃ。解ってるでしょうに。じゃあね。のぼせない様に上がるのよ?」
「………はーい。」
バスタブの隣、まだ濡れていないフワフワのバスマットに丸くなっていた朝はスタスタと洗面室を出て行った。
多分、毛が湿気を含むのが嫌なのだろう。
私が入ると適温になるお湯の温度は、なかなか便利なのだがやはり湯気は増える。
窓から遠く見える紺色の景色も、一枚ベールを被った様で目を凝らさねばあの塔の灯りも見えない。
「そう、ベールも。だよね………。」
軽く掬ったお湯は、透明である。
今日は何の石も持たずにそのまま、ボーッとお風呂へやって来た為久しぶりに無色透明のお湯、キラキラも降っていない。
ただ、湯気がホンワリと包む、木の枝の下で。
ゆっくりと、掬ったお湯の感触を楽しんでいた。
水面に映る枝の影が、揺ら揺らと私を催促する。
気を抜くと、そのままボーッとして終わりそうなこの時間。
どうやら紺色の影は「考え事じゃないの?」と言っている様だ。
本当は、私の中が言っているのかもしれないけれど。
パシャリとお湯を弾き、気を取り直して意識を自分の中へ戻す。
とりあえず。
でも。
言わなきゃ、駄目だよね?
うん。
外で急に「コラ」とか言われても困るし?
それに、私が「フリをする」と決めた事で、それを忠実に守る為だとしても。
「触るな」とか「近づくな」とか、言われたら。
「うーーん。凹む。いや、凹むだけで済めば、まだいいかも…。」
あまり、想像したくない。
うん、やめとこ。
危険危険。
とりあえず、婚約の事は言うとして、後は普段通りでいいって事だよね?
あ、ベール?
これって………許可?
でも、別にしてないからって捕まるとか犯罪な訳じゃないでしょ?
うーん?
習慣、って言うか慣習、って事だよね?
なら………。
しれっと?やっちゃう??
それでパミールのとことかに出かけて、後で怒られたらなんとかすればいいかなぁ?
でもパミールに迷惑とかかかんないよね…?それだけは確認必要かも。
うん、オッケー。
あれ?
て、言うか。
私がベールしてなかったら、そもそも銀だってバレないんじゃない??
いや、流石に目立つからバレるか………。
でも多分、すぐにはバレないよね。
多分、「あいつは誰だ」的な事になるって事でしょ?
それならいいかな………。
それで店も始めて…うーんお客さんって来るのかなぁ?
まあ、来なくても勝手にあの部屋で楽しんでればいいんだもんね?
それなら楽勝。
はい、解決。
あと何かあったっけな………?
ふわりと浮かんでいた湯気が薄くなって、街の明かりが遠くに見えている。
森とはいっても、ここも部屋だ。
きっと部屋の中が温まってきたのだろう。
遠くに見える、白い塀と黄色と赤の灯り、すっかり境目の無い夜空と街の星達。
もう少ししたら、きっと夏だ。
春の祭りは、終わったろうか。
私は、雨の祭祀を終えてから移動したから。
きっと次の季節は夏の筈なのだ。
ここは、四季が無いのかも、しれないけれど。
ふっと、思い出す、あの虹、フリジアの「この世界に無い」という言葉。
詳しく意味は、聞いていない。
だけど、私の直感はそれは「自然」の事だと告げていて。
「四季」も無いであろう、ここ。
「外」も無くて、「空」も無くてきっと「生き物」も、いない。
動物はいたとしても、まじないなのだろうか。
ブラッドフォードは「猫はいる」と、言っていたけれどそれはまじない猫だ。
植物すら、まじないで。
「そりゃ、そうだよね…外がなくて、太陽だって無いんだし。」
何も、育たない。
生きているものが、「人間」しか無くて。
その、世界が。
行き着く所は。
何処なのだろうか。
どんなに、贅沢をしたとしても。
それは。
「楽しいの、かなぁ…………。」
トプンとお湯に沈み、上る泡を目に映す。
ここの人達は。
何故、どうして。
こんな所に、閉じ籠もって?
何を、している?
どうして、こうなってるの?
「こうなってる」
ふと思い浮かぶ、この世界の仕組みのこと、初めて聞いたシャットのあの部屋。
シュツットガルトの、ごちゃごちゃの部屋が思い出されてフッと笑うと危うく水を飲みそうになってしまった。
「グッ、ゴホっ….あぶな………。」
搾取されているラピス、何かがきちんと込もるものを作りながらも奪われてしまうシャットの職人、祈りを捧げながらも力を吸い取られているグロッシュラーの、こと。
「どう、して?」
未だ決定的な「悪人」には、会っていない。
これから会うのかも、しれないけど。
それに、気になっているけれど隅に追いやっていたことも、ある。
貴石の事だ。
「向こうに行かないと解決できない」とイストリアは言っていたけれど。
そもそも、ここに来て私が貴石についてできる事など全く思い当たらないのだ。
エルバは「以前よりはずっといい」と言っていたけど。
それは多分、「いい」ではなくて「マシ」の、筈だ。
アラルも言っていた「どっちがマシ」か、ではなくて。
「両方、「いい」にしないと駄目だよねぇ………。」
「うん?両方?それって変?なんだかよく分かんなくなってきたな………。」
いつもの様にこんがらがってきた頭をバスタブに乗せ、ぐっと上を向いた。
深緑の木の葉、深い色の枝、赤黒い木の幹。
そう、赤黒い。
あの、色ね………。
私には、解っていた。
多分、「あの時」。
降らなかった、色。
いや、降らせなかった色だ。
「好きな色だけ」、降ろせばいい。
その、意味を。
多分、私は分かっていたけど深く、考えていなかった。
今も、どっちが「いい」のかは、判らない。
でも。
「どっちが、「いい」じゃ、駄目だって。こと、だよね………。」
フリジアの言葉が、頭の中を巡る。
「どちらでもない者」と、自分のことを言うフリジア。
それ聞いて私の心臓はドキリとした。
だって。
私も。
本来ならば、その「どちらでもない者」でなければ、ならないのだから。
そう、あれは失敗だったのだ。
本部長的には、正解だったのかもしれない。
この世界の。
「悪者」は、見つかるのかもしれない。
殆ど薄くなり見えなくなった湯気、その代わりに私の蝶達が舞い出ていて。
辺りを舞っているのに、今、気が付いた。
ふわり、ふわりと舞うこの子達も大分色が変わって。
沈んだ色から明るい色に何度も、変化し、更に美しくなって。
私がその時、嫌だった色。
それだってきっと、変化はするに違いない。
それは、分かる。
その、嫌な色は。
多分、あのアラルのブレスレットの石の色だ。
あの時、私を捕まえようと手を伸ばしたあの人の、変化した、色。
それが無意識に「嫌な色」として自分にインプットされていたのだろう。
本来、嫌いな色など、無いのだから。
「嫌な、色。色の、変化。悪い、人?他人は、変わるのか?変われる、のか??」
自分の思考とフリジアの言葉、ついでに頭もぐるぐるしてきて、湯船から出る事にした。
このままでは、まずい。
ゆっくりと立ち上がり、休みながら着替える事にした。
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