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8の扉 デヴァイ
私のぐるぐる
しおりを挟む「ねえ、アレ。どうしたの?なんか気持ち悪いんだけど。」
「知らん。まあ、放っておけばまたすぐ何か勝手にやり出すんじゃないか?」
なんだか向こうから、失礼な声が聞こえなくも、ない。
次の日の朝の食堂、美味しい匂いがする温かい部屋でイリスの得意顔を見ながら食事を済ませた。
食後のお茶を飲んでいたところで、入ってきたウイントフークは朝に連れられて来たに違いない。
昨日、帰って来てから。
明らかに、私の様子がおかしいからだ。
しかし、おかしいと言っても。
普段より、口数が少ない、だけなんだけどな………?
いつもの「飛ぶ」とは、違った感覚のフリジアのまじないは、やはりかなり体力が削られる様だ。
本来ならば小動物に誘われ、普通に歩いて訪問する様なのだが、私の場合は。
どう、なっているのか分からないけれど「虹」に乗って、やって来たのだと言っていた。
いつもの金色とそう変わらない雰囲気を不思議に思わなかった私は、おかしな子だと思われたに違いない。
まあ、今更だけど。
あの金色に包まれる時に「見た感じ」は似ているのだけど、こちらは私のチカラで飛ぶのだろう。
移動した後の体力の減少が、ハンパないのである。
フウフウ言いながら、ドサリとバーガンディーに倒れ込みそのまま再び、ぐるぐるしていた。
いや、ぐるぐるせざるを得なかった、に近い。
フリジアの言っている事は、解ったと思う。
でも。
あ、また「でも」が出ちゃった………。
兎に角、ウキウキ訪問になる筈だった魔女のお招きが齎したものは、更なるぐるぐるだった。
しかし、それが。
私が前に、進む為には必要だという事も、解って。
「うーーーーーーーん。」
そうしてこんがらがった私は、案の定朝が呼びに来るまでそこで寝ていたのである。
「そもそも、お腹が空いてないってのが、おかしいのよ。今迄一食抜くくらいはあったけど。昨日の昼は食べてない、夜もイマイチ、今朝だって。………まあ、全部は食べるんだけど勢いがね………。」
朝は、私の事をイノシシか何かだと思っているのだろうか。
勿論ウイントフークの返事も、適当なものだ。
この二人、本当に相性がいいと思う。
「そりゃいよいよアレかもな………。俺の作戦に影響が無いならいいんだが、あいつの暴走の範囲が拡がると面倒だな…。まあ、計画外だから、面白い部分も、あるが。」
私はびっくり箱じゃないんですよ、ウイントフークさん………。
しかし。
「俺の計画」とやらの、話を聞いた方がいいのだろうか。
一晩寝てスッキリするかと思っていた、私の心は。
そうでもなく、意外とまだぐるぐるしていた。
寝ると殆どの場合は、スッキリするのだが今回はやはり内容が内容だ。
「はいじゃあ、こっち」みたいに、スッパリと決められないのである。
「うーーん?でも「考えるな」って、言ってたしな…。結局。考え過ぎると、こっちに合わせちゃうって事だよね………?」
えっ。
見てる。
チラリとウイントフークの様子を伺うと、茶の瞳と目が、合った。
私のぐるぐるの内容を、察しているのかどうか。
「この後、部屋へ来い。」
そう言ったウイントフークは、食後のお茶を飲まずに自室へ戻って行った。
この後の話の内容もだけど、お茶はいいんですかウイントフークさーーん。
食後のお茶が欠かせない私としては、その方が気になるのである。
「それならこちらをどうぞ。」
そう、気の利くシリーに言われてトレーには冷たい飲み物と私のクッキーが乗せられている。
「運びましょう」というリトリを断って、一人トレーを手に青の廊下を歩いていた。
うちのスピリット達は、色々と手伝いたいらしいのだけど何せ私とウイントフークの事だ。
多分、人間の使用人なら「楽なお屋敷」とでも思いそうなものなのだけど、あの子達は物足りないらしい。
代わりにミニ庭園の水やりを頼んで、ウイントフークの部屋へ向かっていた。
うん?
これ、両手が塞がってるな?
扉の前で首を捻っていると、朝が開けてくれた。
猫用扉が完備されたお屋敷ではあるが、朝が開けられるタイプのノブが付いているのである。
いつもの様にカチリと開けてくれた扉を通り、テーブルにトレーを置いた。
「お邪魔します」とは言ったものの、ウイントフークはいつも通り奥の部屋にいるのだろう。
物音はすれど姿は見せない。
私は朝が奥へ行ったので知らせてくれたと思い、一人のんびりとクッキーを摘んでいた。
シリー、また腕を上げたね?
これはあの二人の所に遊びに行く時、持って行ったら喜ぶよねぇ。
ていうか、私癒しとかじゃなくてクッキーでも良いかもしんない。
イオス的な店なんてどうかな?
うーん、イケなくも、ない?
まあ、でも。
あっ、またでもって言っちゃった。
フリジアさんが言うのは、「好きなことを好きにやれ」って事だよね………?
うーーーーん?
どう、なんだろうな………。
私の。
真ん中、光、キラキラ、本当の。
こと、とは。
目を瞑り、ボーッとしていた。
昨日から考え過ぎて、逆にポッカリと空いた、私の頭の中。
そこへ、ぼんやりと浮かんできたものは。
ふわりとした、優しい金色。
視界は、それで溢れている。
いや、私の頭の、中なのか。
ただそれが。
やはり、私の真ん中に共にあることだけは、分かる。
やっぱり?
それ?
それなの?
でも。
ああ、また「でも」が………。
できるかな?多分?
どうだ、ろうか。
ただ一つ、確実に判ることは、ある。
こうなってみて、真剣に考えると。
あの人は、かなり私に譲歩してくれてるって事だ。
もし。
私が、逆の立場なら。
きっと、この世界すら…………
「おい、コラ!!」
ん?
パッチリと目を開ける。
何か大きな本で私の周りをパタパタしているウイントフーク、呆れた目で見ている朝。
そうして私の周りには、沢山の金の光の、渦が。
ぐるぐると周りを取り巻いて、いたのだ。
「ごめんなさい。」
「全く。」
「ちょっと待ってろ。」
朝に小言を言われ、しかしウイントフークは未だパタパタに夢中である。
その様子を見るに、きっとあの本に私のチカラを挟んでいるらしいのだが、一体何の本なのだろうか。
そっちの方が、気になってしまう。
かなり光が薄くなり、落ち着いてくるとやっとドサリと座ったウイントフーク。
テーブルに置かれた本に釘付けになっている私に、こう言った。
「それはお前は触るな?で?どうだったんだ?その所為で、変なのだろう?」
「変って………。」
「早くゲロっちゃいなさいよ。一人でぐるぐるしてたって、ろくな事無いんだから。」
「ゲロ…うん、まあ。そう、ね。」
何から、話そう?
婚約の、話?
「本当のことは知りたくない」話?
もし、変わらない人と私達が対立するなら。
フリジアが、「敵」になる、話?
「いやでも、「敵」では、ないんだよな…それじゃ、駄目なのは分かる。だから、対立しちゃ駄目なんだよ。二つに別れない様に、する?でも、それってやっぱり?一つに、するって事だよね??」
こんがらがってきた私のぐるぐるを聞きながら、質問を繰り出してくるウイントフーク。
私はいつの間にか、一人ぐるぐると喋りながら茶の瞳を確認していた。
この人ならば。
私の疑問に、答えをくれるかもしれない。
いい作戦を考えて欲しい。
そう、顔に出ていたのだろう。
要点だけをポツポツと訊いてくるウイントフークに、素直に答えていった。
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