透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

真・魔女部屋

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次の日に、迎えは来なかった。

とても楽しみにしていた私は、一日ですっかり待ちくたびれてしまったのだけど。


「多分、あそこじゃない?」

そう、普段通りの生活をして屋敷内をウロウロしていた私はふと、思い付いた。

もしかしたら、あの魔女部屋に。
迎えが来るのかと、思ったのだ。


そうそう、もしかしてもう来てるのに私が居なかったら気付いてないとかかも知れないしね…。



そうして青の廊下を歩き、今日もポツンとある、その扉を開けたのだけど。

「うん?変わった所………は、無いな?」

ぐるりと見渡す部屋の中に、おかしな物、人、動くもの。

何も、見当たらない。

「うーーーん?まだなのかな?」

くるりと回ってもう一度確認すると、異常が無いのを確かめバーガンディーに腰掛けた。




「面倒で恐ろしい方、か………。」

程良い硬さのバーガンディーに沈み込み、ゆったりと身を任せているとついウトウトとしてしまう。

まだ、午前中なのだけど。

大きな窓からの程良い陽気、ハーブの匂い、土の気配。
ここにある古いもの達からは、埃の匂いは無く心地の良い木の香りだけだ。

きっと、呼吸をしているから。
その「モノの古さ」が溜まらないのだろうと、思った。


そうして鼻だけをヒクヒクと動かし部屋の気配を感じ取っていると、フッと何かが加わったのが判る。

そう、今迄は無かった気配がこの部屋に突然、現れたのだ。


なんだろうな、これ………。

半分ウトウトしている私は、目を瞑っている。

心地の良い空気、いい香りにゆったりと流れる時間。
その中に急に現れた気配に、驚かなかった訳ではない。

でも、余りにも自然に、この部屋に溶け込んだその感覚からはすぐに目を開ける必要性が感じられなかった。

だから。
そう、目を瞑ったまま「これは何だろうな?」とゆっくり考え始めたのだ。


明るい。
キラキラ?
なにしろ、嫌な感じは一切、無いね?

何だろうな~キラキラの妖精さんとかが迎えに来てくれたなら、めっちゃテンション上がるな?
うーん、でもあんまり小さくないな…。
え?でっかい妖精さん?
いや、いなくはないだろうな?

てか、これって「迎え」なのかな?


ふと、湧き上がる疑問、しかしそれは私の頭の中に「一応」湧き出てきた思い。

紛れもなく「さあ、来たよ」という雰囲気を纏うは、目を開けなくとも「迎え」だという事だけは。

解る。

そうしていつもならば「来た!」とウキウキしながら目を開けるだろう自分が、何故こうも落ち着いて考え事をしているのか、急に気になった。

自分の事ながら、よく分からないこの感覚にぐるりと思いを巡らせる。

なんだ、ろうか、この感じは………。


嫌ではなくどちらかと言えば心地の良い、まだ見ぬ感覚と僅かに乗る「知っている」想い。

だが、その「知っている」想いが。

「相手が自分のことを知っている」のだと、辿り着くのに時間はかからなかった。
、嫌な感じがしなかったのと、寧ろ思い出す懐かしい感覚。

「私」は知らないのだけど。

私の中の誰かを、知っているのだろう。

きっと、そんな気がした。


そうして少しずつ開いた瞼に映り込む光に、それが正解な事が知れる。


そう、私を「迎え」に来たは。


窓から私を覗く、「七色の虹」だったからだ。




いや、正確に言うならば。

それは多分、七色以上ある煌びやかな光で虹の形をしているだけだ。
窓から見えるその光は、近いのか遠いのか、とても大きな光なのだが私を覗きこの部屋へ「迎え」に来た事だけは何故か分かる。

実態の無い、勿論顔すら無い声も聞こえない、「虹の形をした多色の光」なのだけど。

が。

私のまじないの色を表しているのだけは、分かる。

それに、は呼んでいるのだ、私を。

「さあ 行くよ」

声でもない何かが自分の頭に直接語りかけてきた事が、解った瞬間。


「あれれ?」

目の前に現れたのは。

そう、明らかに「魔女の部屋」だと判る、深い森の様な部屋だったのだ。





えっ。

なに?

どうすれば、いいの??


きっと招かれたであろう、私を迎える者は誰もいない。

しかし、目の前に広がる空間、それは私を「おいでおいで」と強烈に誘っているし、普段の私ならば。

きっと一目散に辺りの様子を確認しに歩き出していただろう。

でも。
なんだ、ろうな………この感覚。


薄暗い部屋、所々に灯る蝋燭の灯り。

その時折揺れる炎以外に部屋を照らすものは無く、部分的に見えるこの部屋はそう広くは無さそうだが、狭さは感じない。
所狭しと不思議なものは見えるのだが、ハーブの香りと草の気配の所為だろうか。

外の様にすら感じるこの空間に、嫌な気配は一切、無いのだけれど。

何故だか「勝手に動いてはいけない」事を知っている私は、主が現れるのをじっと、待っていた。



あの棚も見たい、あのハーブは何だろう、この草の匂いはまさかここにもプランターが??

色々なことをぐるぐると考えつつも、体はピタリと止めたまま、目だけを動かしていた。
なんだかちょっと暗い、この部屋にあるもの全てが。
私をウキウキにいざなうものばかりだと、いう事だけはハッキリしていた。

そう、観察だけはしっかりしていたのだ。


壁面いっぱいの棚、所狭しと下がるハーブ。
幾つかのテーブル、そのどれもに魅力的な怪しいものが沢山乗っているのが見える。
あの揺れる液体は、ウェストファリアのところで見たものと同じだろうか。
色は違うけれど。
ガラス容器の中で勝手に踊る液体、震えている何かの実、古い謎の道具たちに黄ばんだ厚い漉き紙の様なメモ。

雑然としている様だが、見ているときちんと区画は別れているのが分かる。

何かの実験の様な机。
ハーブ関係であろう、机。
本ばかりが積まれた机。
それに、カードがある、机。

どれも魅力的過ぎる机だけど。

私の目はやはり、カードの机に吸い込まれていた。
しかし、ここからだと細かい紋様やどんなカードなのかは分からない。

近づいたものか、どうしようかと考え始めたところで突然、声がした。


「久方ぶりだね。」

えっ?

同時に「パチン」と音がして、灯るあかりに殆どが現れた、室内。

そうしてが、動いていい合図なのが何故だか分かって、私はくるりと振り向いた。

その声色で。

その人が、確実に「私を知っている」事が、分かったからだ。

同時に、私の中の誰かが。

その人を「知っている」、事も。



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