透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

宝探し

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しかし。

やはり。

私一人の頭には、限界があった。


そもそも。

ウイントフークの考えている事なんて、分かりっこ無いのだ。

あの人、「サトリ」通り越して予知能力持ってるんじゃないだろうか………。



とりあえずの、事実は。

「長はアリススプリングスの所にいるということ」

ん?
待てよ?

これしか、無くない??


ウイントフークに色々言われて、ぐるぐるしてしまったけれど。

言われた事は衝撃的な注意点と、金色の変化の話。
いや、変化したと、思っているのは私なのだ。

ウイントフークが言った「事実」は。

ただ、これ一つ。

そして、その側にシンがいるであろうという、予測。

これだけなのだ。


何に、引っかかってるんだっけ…………?



自分の中を、ずーっと探していく。

揺蕩う様な感覚の中、あの揺り籠を思い出して少し懐かしくなる。
そう、遠い昔の事ではないのだけれどどうしたって。

扉の移動をすると、隔てられた感は否めないからだ。


揺ら揺らと自分の中を探して、一つ「ここかな?」という部分が見つかった。

「あいつらの守り方が違うだけで」

「あらゆるものから」

ここかな………。

なんとなく、筋道が通らない、違和感。

「守り方が違う」と、言うのは。
シンが「見てるだけ」になったからかと、思ったけれど。


あの、深緑の館、二階の部屋で。

喧嘩をしている訳ではないが、微妙な雰囲気だった二人。

多分、それだよね………?

でも、私には今の二人の関係は分からない。

とりあえず、それは横に置いておこう。
うん。
それは、考えても仕方の無い方なのだ、きっと。


でも「あらゆるものから」。

これじゃない?

気に、なるやつ。

なーんか、含みがあるんだよなぁ………。
でも、これも。

考えても、分かんない方かなぁ………。



段々集中が切れてきて、ベッドにゴロリと寝転がる。

星空仕様になっている天井は、星図の日もあればこの星空の日もあって。

私を、楽しませてくれるのだ。


紺色の夜空と、下がる金の房、閉じた事は無いけれどこのカーテンを、閉じたなら。

プラネタリウムの様になるのかも?と少し楽しくなってきた。

しかし、起き上がる気にもなれない私はそのままボーッと星空を眺めていて。

いつもの様に、うっかりとうたた寝をしてしまったのである。







何故だかスッキリと、目が覚めた。

そうして「この問題は置いておくやつ」だと、すんなりと納得できた、私。

やはり、睡眠は頭の栄養なのだろうか。

眠る前までぐるぐるしていた私の頭は、やけにスッキリとして判断ができる様になっていたのだ。



多分、これは。

あの人が「私に内緒でウイントフークへ頼んだ」話で。

きっと、気になるからと言って穿り返さない方がいい話の筈だ。

きっと、直接私に何かあるならば。
言ってくれるのは、分かる。

だから。


「そう、放っておこ。」

そうして今日は予定の無い私は、魔女部屋へ行く事にした。

何か、アリススプリングスの家へ行くに当たって、作っておくものがないかと思ったからだ。

そうして予定が決まると、青の廊下を足取りも軽く進んで行った。







明るい光、ハーブと濡れた、土の匂い。

この部屋も、大分、私に馴染んで。
扉を開けた途端に香る、この生命の香りに大きく息を吸い込んだ。

そのまま大きく息を吐き出して、中へ入って行く。

さて。

今日は、何から始めようか。


ぐるりと部屋を見渡し、目に留まった壁一面の引き出し。
ふと、この前をつけて紐を見つけた事を思い出した。

あの中には。
きっと、まだまだ面白そうなものが入っているに、違いない。

そう確信して、そこから着手する事にした。

何か見つけたもので、役に立つものがあればそれを利用すればいいからだ。


「さぁて?何処から開けようかな?でも………まぁ端っこからだよね?」

今回「何か」を探している訳ではない。
きっと、探し物があるならば見当をつけ開ければ、そこに入っている気がする。

しかし、何を探している訳でもない私はとりあえず順に開けていく事にした。
全部調べておけば。
後々、役に立つ事もあるだろうから。


部屋の隅から丁度良さそうな丸椅子を持って来る。
勿論、天井すぐから始まっている引き出しの上部は届からないからだ。

やはり上は開けづらいからなのか、縦長の引き出しになっていてギリギリ手は届きそうだ。
なんとかゆっくり背伸びをして、一つ一つ調べていった。



「あ、これ………。」

その調査も半ばに差し掛かった、頃。

一つの小さな引き出しの中に、収まっていたものはなんだか惹かれる箱だった。

白に銀の箔押しで、美しい紋様が描かれているそれは、この青の空間に合う図柄である。
そう、あのホールの紋様に似た植物を模した幾何学柄だ。


もしかして。
これは、私が好きな、じゃないだろうか………。

ドキドキしながら、縛られていた紐を解く。

被せになっている蓋を、そっと外すと。

やはり、中から出てきたのはカードだ。
箱の装丁に似た、白に銀箔の美しいそのカードはあのウェストファリアの絵画調の物とも、イストリアが持っていたピンクのデザインとも違う雰囲気だ。

製作者が違うのか、それともデザイン違いか。

捲れば判ると思い、裏を返した。


「うーん、これは。ヤバいね………。」

サクサクとカードを捲り、ウェストファリアの方かイストリアの方か。
考えていたけれど、もしかしたら他にも製作者がいるのかもしれない。
それに、物凄く多彩な人で。
ひょっとすれば、一人の人が作っているかもしれないのだ。

「そうだったら凄いな………。」

しかし全ての柄をチェックする前に、私は誘惑に負けた。

どうしても、このカードを。
引いてみたく、なったのだ。


一緒に箱に入っていた説明書きの様なものは、古語だった。
引いても、分からないかも、しれないけど。

でも私の心は「これを引け」と言っている。

それなら。

椅子を下りて、辺りを見渡す。
そう、まだ椅子の上でカードをチェックしていたのだ。

あそこかな?
やっぱり。

「さて。」

そうして、大きな文机の上の石達を脇へ寄せると。
ザッと、カードを広げてぐるぐると混ぜ始めたのだ。




「ふぅむ?」

古い紙、そこに書かれている古語をなんとか解読したところによると。

「待て、とな。そうだよね?私の記憶が、正しければだけど。でも多分、そう。」

白いカード、表のデザインもスッキリとしたそれはキラキラと光るクリスタルが描かれた「待つ」というカード。

シャッフルした私が選んだ、一枚はそのカードだった。

解説までは、読めない。
紙はそう大きなものではなく、小さな古語がびっしりと書かれているのだが多分これは筆記体の様なものだと思う。
その、メインの言葉はしっかり読める文字だがそっちは分かる気がしない。

しかし、カードが指す意味が分かれば充分だ。

そこから何を、受け取るのかは。

自分次第、だからだ。



うーん。

「待て」「待つ」「待てば」「待つほど」
いやいや、遊んでる場合じゃない。

しかし、そこまで真剣になる程でも、ない。

カードはあくまで、アドバイスで。

それを受け取りするのかは。

私なのだ。



ここで、出た「待つ」のカード。

それが私に、与えるヒントとは?

なんだ、ろうか………。



カードをそのままに、机の上のクリスタルを持ってドサリとバーガンディーに座る。

そう、カードに描かれたクリスタルに似た、乳白色の石だ。

くるくるとそれを弄びながら、じっと座る。


窓から差し込む光、何の芽かは分からないがプランターからは緑が見える。

ドライのハーブ、仄かな香り。
今は、土の匂いが勝っているけれど。

これが、大きく育ち、花開いたなら。


花かな………花だよね………?
まあ、花か………。

ま、楽しみができて、いいだろう。

何が出るのか、分からなくとも。

それが、「いいもの」だという事は分かっているのだから。


そう、黙って。

待つ、のだ。



特に、何も思い付かない。

待つもの。
待つこと。

強いて言えば、このプランター?

でも。

、まだ。

分からないだけなのかも、しれないけれど。


「うん。」

きっと、解らないなら解らないで、いいのだ。

その、タイミングになれば。

嫌でも、訪れるであろうもの、こと、人。


「とりあえず、焦るな、って事かな…。」

確かに私はせっかちで、答えをすぐに求めたがる。
それを諌めると、いう事ならば。


「それ、即ち。楽しめと、いう事なり。」

そうして何かを作りに来た筈の、私は。

楽しむ事に専念しようと、再び引き出しの調査を始めたのだった。

うむ。




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