透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

作戦と言うかなんと言うか

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「いや、しかし。助かったな。」

「何がですか?」

糞ブレンドのいい香りが鼻へ届き、ふと横を見るとイリスがティーポットを傾けている。

すっかりお茶を淹れるのも上手くなったイリスは、もう少し茶器の扱いを丁寧にすれば、完璧だ。
ガチャリと私達二人にお茶を出すと、得意げな茶の瞳を見せて皿を下げて行った。


憂鬱な気分の私に、ご機嫌なウイントフーク。

「助かった」とは、一体。

なんの、事なのだろうか。

まさか………いや、有り得る。
この人の事だから…。

「私が、呼び出された方が作戦が上手くいく、って事ですよね?」

半分投げやりで訊いてみたが、やはり普通に頷くウイントフーク。
「当たり前だろう」という様な。
顔まで、しているのはどうしてだろうか。


ちょっとこっちの身にもなって下さいよ、ウイントフークさん………。


「いや、お前。は、お前が探している方だ。」

「え?」

何の事やら、意味が分からない。

私が、探しているもの?

えっ?
ウイントフークさん、知ってたっけ………?


一瞬のドキドキとぐるぐる、しかし私の頭に浮かんできたのは「白の本」。

そう、禁書室に置きっぱなしにしてきた、アレだ。

多分、それで…かな?


イストリアとラガシュとも、話した。
あの本はセフィラが書いた二人への、メッセージでも、ある。

確かに、あれを読んだなら。

この人なら、私が探しているのは「長」「ヴィル」だと判る筈だ。


しかし、本部長の頭の良さと、自分のうっかり加減をよく分かっている私はウイントフークが話し始めるのを待っていた。

きっと、その「探し物」の事を。

これから、彼は話すだろうから。


予想通りウイントフークは、少し考えながらも作戦の大筋を話し始めた。

どうやら彼は私の事も、きちんと作戦内容に入れてくれていた様だ。

「お前はおさに会いたいのだろう?全てではないが、大筋はあの金色から聞いている。」

「えっ。そうなんですか??」

その言葉を聞いて、驚いたのと、何故だか嬉しかったのと。
私の心は複雑だったが、同時にふわりと灯りも、燈った。


凡そ私の事など。
いや、私達の事など他人ひとに話す筈もないと思っていた、金色が。

この、一番確実であろう本部長に話をしていた。

それが、心底意外だったのだ。


じんわりと自分の中から湧き出す何か、あのガラクタ部屋で向けられた「あの瞳」から、彼が変化していたこと。

の、秘密を。

カケラだけだとしても、話す気になったということ。

私に対する態度が変化するのとは、訳が違うこの、話。
ウイントフークはどんな顔で。

あの、金色の話を、聞いたのだろうか。


ああ、うん、多分。
普通に聞いてたよね、きっと…。


私の中のあの人が、イストリアに知れた時の事を思い出してクスリと笑う。

多分、同じ様な、反応で。
聞いていたに、違いないからだ。


「しかし本当に丁度良かったんだ。なにしろ長は。アリススプリングスの家の、管轄だからな。俺も頭を悩ませていた部分だった。ブラッドフォードと婚約してくれた方が動き易いのは事実だが、お前の目的から言えば。多分、あいつと婚約する方が話は早いからな。」

「え………。うん?そう、なんですか………。」

そう、いえば。

すっかり失念していたけれど、「金の家」は今はもう無い。

いや、実際「長一人」が、そうなのだろうけど実質場所も地図上には無かったし、名だけが残って。

所謂、言い伝えや伝説かの様に思えていたのだ。
これから、探しに行こうと、いうのに。


道を進めば、分かると。
思っていたのは、事実だ。

しかし、よくよく考えれればすぐに。
判る筈なのだ。

この、世界の最高権力者が。

」を、握っているだろうと、いう事を。


チラリと茶の瞳を確認する。

私が戻ってきたのが判るのだろう、ウイントフークはつらつらと注意点だけ、述べ始めた。

すれば、いいのかは教えてくれなかったけど、どうすれば駄目なのかは。
しっかりと、教えられたのだ。


「まず気焔は呼ぶな。まあその辺は解っていると思うが、あいつが飛んで来ると色々バレる可能性が高い。お前の事も、含めてな。だから、よっぽどの事がある迄は耐えろ。」

「流石にその場で手籠めにはしないと思うが、監禁される程度なら大人しくしてろ?後で助けに行くから。」

「後は………とりあえず、興奮するな。ベイルートは付ける。だが、千里は別室で待たされる可能性が高いからな。あいつも呼べばすぐに行くのだろうが、なにしろそう大胆な事はすまい。ある程度の事は自分で切り抜けろ。」

「多分、あいつとお前のまじないが「合う」かどうかが見たいんだと、思うがな?は多分、大丈夫だから。言う通りにしておけ。」


つらつらと並べられる、ウイントフークの注意点。

なんだか全く大丈夫な気がしないのだが、それは私がおかしいのだろうか。


え?手籠め?
監禁?
まじないの合う合わないを、見る??

何それ。
どーゆーーこと?!

キロリと睨んで見るも、どこ吹く風のウイントフークはそもそも私の事なんて見ちゃいない。

既に、新しい作戦について考え始めたらしい彼は、ブツブツ言いながら食堂を歩き始めていた。


えーーーー。

やや途方に暮れる私の元へ、玉虫色がやってきた。
キラリと背中を光らせ「とりあえずどうぞ」と、ティーカップを示したのだ。

ソーサーの縁で私を見るベイルートが可愛くて「可愛いって言ったら怒るよね…」と思いつつもお茶を一口飲む。
やや冷めた糞ブレンドは円やかに香り、やはりお茶作りが上手いなぁと水色の髪を見る。

え。
見てる。

放置されている私だったが、見られている方が怖い。
嫌な予感がして、とりあえずお茶に集中するフリをした。
全く持って、意識はそちらに向いていたけれど。


「お前、それで長に会ったらどうするつもりなんだ?いや、今回行っても会えない可能性が高いが。」

「うん?そうなんですか?」

「そりゃお前、秘密を「はいどうぞ」と見せる訳はなかろう。」

「まあ、はい。………秘密。」

やっぱり?
秘密、なんだ?

でも、一応この、世界の。
「長」なんだよね??

それが、「秘密」なの?

どうして………?



「俺は、あの家にシンがいると踏んでいる。」

は?

意外な名前が、出た。

思わずジロリと睨む様に目を大きく開けウイントフークを見てしまったが、まだ歩きながら話している彼は気が付いていない。

驚きが隠せない私、構わず話し続けるウイントフークの話は私が考えていた内容とは、少しずつズレてきて、いた。

「思うに、付かず離れずお前を守る為にいるシンは、多分ゴール近くにいる筈だ。どうしたって、避けて通れない長への訪問。どんな形でなるのかは分からないが、まあそこにいると思って間違いない。他の場所にいる要素が無いからな。」

「あらゆるものからお前を守りたいと。あいつからは、頼まれている。しかし、シンだってお前を守りたいのは事実な筈だ。あいつらの「守り方」が、違うだけで。」

。アリスの家へ行ってもそう大した事にはならんと思うが、気を付けろ。おかしな事に、なると。どう、出るかだな、向こうが………」


勝手に、沢山喋って。

再び、何処かへ行ったウイントフーク。
いや勿論、食堂を回っては、いるのだけど。


私の頭は混乱していた。

「あらゆるものから」私を守りたい?



「シンだってお前を守りたい」?

え?気焔と、シン??


自分の中で。

違和感があるのだけれど、が、なのか。

ピタリと、嵌まらない。

それに、「ゴール」?

えっ、ちょっと待って?
ウイントフークさんと私が思ってた事違くない??

何を、どこまで、知っているの………?



しかし、本人にこれを訊いて。

私が無事でいられる保証は無いし、なんならボロを出す保証は、ある。

多分に、確認した方がいい筈だ。


そうと、決まれば。

「分かりました。ちょっと、考えますね。」

「………ああ。」

聞いてないな、これは。


丁度入ってきたシリーにお茶を片付ける様、頼んで私は部屋へ戻る事にした。

何しろゆっくり。
頭の中を、整理する必要が、ある。


そうして大きく深呼吸すると、青の廊下を歩いて行った。
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