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8の扉 デヴァイ
呼び出し
しおりを挟む仄暗い、何処か。
ぼんやりと浮かび上がる金色の舞台、辺りには闇しかなくそこだけが静かに光る、空間。
よく見ると、それは。
明るい金色の内包物が水流の様に走る、大きな透明の石だ。
繊細な糸の様なその金色を宿した巨大な石が、幾つも折り重なるその舞台に主役は不在だ。
そう、その上には何も、誰も、見えない。
しかし、ただ。
本当はいるのだという事は、分かる。
今は、いないだけなのだ。
「何処に行ったんだろう?」
そう、思ったけれど探す事もできないし、きっと探しても。
今は、見つからない事は知っている。
そう、今はいないのだ。
主役不在のその舞台から、何故だか目が離せなくてじっと、見ていた。
すると、その脇の、暗い部分に。
何かが、形取られてきたのが判る。
徐々に、現れたそれは。
見覚えのある、あの人ではなかろうか。
黒く、長い髪、黒づくめの服装は闇に紛れてよく見えない。
だが、その赤い瞳が。
彼が「彼」だという事を私に告げていた。
まさか?
え、嘘でしょ?
黒い………黒なんて、初めて…。
黒、黒い、石。
えっ。
過ぎる、確信と少しの安堵、そしてその瞳からはやはりこれ迄の彼と同じ雰囲気を感じる。
そう、「傍観」の意。
ただ、私を見ているのである。
じっと。
何も、言わずに。
「ああ、待ってるんだ」
そう、思った。
彼が今、黒いこと。
黒の石は、数が少ないこと。
私が今知る、黒の石はレシフェとヴィルヘルムスハーフェンしか、持たないこと。
誰もいないこの空間、金色の舞台、その傍にただ佇んで何かを待つ、彼。
そうか、今回は。
そこ、なのね?
何故かは分からないが、私の中で腑に落ちたのでゆっくりと頷いた。
彼に、私のことが見えるのかは分からない。
そのくらいの距離、仄暗い空間。
しかし、きっと真っ直ぐに向けられている赤い瞳が。
「そうだ」と言っている様で、少し安心した。
良かった。
それなら。
大丈夫、なんだ。
でも。
そこまで、どうやって行くかは、考えねばならぬのだろうな?
ふと金色口調になった自分が可笑しくて、クスクス笑うと瞼が白んできたのが分かる。
これは、夢か、現実か。
「まあ、どっちもだろうな………。」
「そうだな。」
いきなり私の空間に侵ってきた紫の声、ホワホワの感触。
いやしかし。
多分、ホワホワなのは私のベッドだ。
いきなり飛び込んできたその声は、嫌ではない。
嫌では、ないのだが。
人型だったら、文句言ってやる………。
しかし、瞼は重く、こじ開けるのは少々面倒だ。
少し考えたが、仕方なく目を擦ると視界の端から消える極彩色の毛並みが見えた。
既に、逃亡した様だ。
うーん………。
今、何時?
起こされ損?
そうして私の夢は極彩色に追いやられ、とりあえず朝の支度に思考が移ったのである。
支度をして、青の廊下を歩く。
既に馴染んだこの屋敷は、心地よく朝の挨拶をしてくれる私の空間だ。
壁紙から調度品、空気までみんなが。
「おはよう、いい朝だね」と言ってくれてるのが、分かる。
「みんな、おはよう。」
ぐるりと見渡し声を掛け、進む。
返事は無いが、「おはよう」の空気になったのが分かり、ニコニコしながら食堂へ向かった。
「おはようございま、す?」
食堂の扉を開けると、そこには小難しい顔で手紙を読んでいるウイントフークが、いた。
テーブルに用意された食事、しかし彼はその背後の壁にもたれ、立ったまま手紙を読んでいる。
きっとハクロが聞こえていないのを解って、食事の用意だけをしておいたに違いない。
確かに、呼び掛けるよりは。
いい匂いをさせた方が、まだ効果があるかも知れない。
「おはようございます?ほら、食べながら読んだらどうです?」
肩を叩き、手紙から目を離さないウイントフークを椅子に座らせ、私も向かい側に座る。
「シリーはもう食べたの?」
「はい、今日はお先に。こうなるのが、解ってましたから。」
うちの人達はどうやらかなりウイントフークの扱いに慣れた様だ。
運ばれてくる朝食に舌鼓を打ちながら、まだ手紙を読んでいる茶色の瞳を見る。
うん、やっぱり。
見てる、だけだよね………。
一枚だけの便箋と、封筒。
捲る必要すら無いその短い手紙を、ずっと読んでいるとは思えない。
きっと、内容についてどうするか考えているのだろう。
しかし。
そんな、この人を考えさせる内容の手紙とは。
一体、誰からの手紙なのだろうか。
ま、嫌な予感がしそうだからとりあえずご飯食べようっと。
「いただきまーす。」
「おい。」
「えっ。食べ終わってからにしません?」
その、「おい」で嫌な予感が当たりそうな気配を感じた私は、朝食だけは美味しく食べようと小さな抵抗を試みた。
でも。
やっぱり、無駄だったけれど。
「呼び出しだ。」
「えっ?誰から、誰がですか?」
もしかしたら、呼び出されたのはウイントフークかもしれない。
そんな事は無いだろうと、知っていながら一応最後の抵抗だ。
ついでにパンも齧ろう。
うん。
そうしてモグモグしている私に、スッパリと現実を突き付けるウイントフーク。
テーブルに手紙をポイと置くと、自分も食べ始めながらこう言った。
「思ったより早かったな。本命からの、お呼び出しだ。」
「むん?モン名??」
スープでパンを流し込みながら、チラリと放られた手紙に目をやる。
パッと目に飛び込んできたのは、「ヨル」「来るように」「アリス」の、要点。
やっぱり?
呼び出しって、そこ?
ウイントフークの態度と、先日の披露目の茶会。
そこから導き出された答えを肯定するその手紙は、テーブルの真ん中でその存在をアピールしていた。
きっと、日時や場所なども、書かれているのだろうけど。
そこまでは確認する気になれなくて、とりあえずスプーンを口に運んだ。
向かい側のウイントフークも、とりあえず食べる事に専念している。
私も余計な話が始まる前に、美味しく朝食をいただく事にした。
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