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8の扉 デヴァイ

一人反省会

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あの後、お兄さんは。

「いや、無い無い。は、馬鹿のする事だろう…。」

人の顔を見ながら、ブツブツ言いガゼボをぐるぐると回っていたし。


帰ってきて、本部長は。

「概ね、良好。」という、逆に安心できないセリフを口にして、いた。



うーーーーーーん?

結局?

いいんだか、悪いんだか………?


夜の、森の湯船の中。

白い霧の様な湯気に包まれた私は、今日一日の疲れを癒すつもりで、ここでゆっくりしているのだけど。

やはり。

あの、昼間の事がフワリと湧き上がって、来るのだ。



金色の雲から降り注ぐ小さな星屑とキラキラ、お湯に弾ける気持ちのいい感覚。

ロケットに入っていた焔は、着替えの際開けると再びあの、金色の雲になって。

私を癒す為、活躍をしてくれている。


今日も程良く肌寒い夜の森、お湯の温かさが沁みる空気。

パチパチと鳴る音と弾ける感触を楽しみながら、手のひらで掬ったお湯を肩へ流す。

ゆっくりと息を吐きながら、視線を窓の外へ移した。

こんな時は。

あの景色を見て。


ただ、在るのだ。

そう、私は私の、真ん中に。



チラリと奥の森を見る。

暗い青、薄い霧の奥にも木々がずっと続いているのが分かる。

「いつだって、彼処へ行ける」

そう、だけで。

こうも、心強いのは待っていてくれる人がいるからなのか、それとも私の心が。

あの、青を求めているからなのか。

きっと、両方なのだろうけど。



でもまだ。

行く事は、できない。

中途半端に帰れないというのもあるし、まだ。

私は、きちんと一人で歩けるからだ。

彼処ホームへ帰るのは。

まだ。先のこと。


これからどうなるのかは、分からないけど。



ふと浮かぶみんなの顔、私は一人じゃないという想い。

それに賛同してか、更に金色を降らせる雲、段々とお湯も金色に染まってきた気が、する。


えっ。
なんか。
ちょっと、?

お湯が金色のアレなのはなんだか恥ずかしい………のは気の所為??


ポッと顔が熱くなって、この熱が彼に伝わらない様祈りながら湯船から出る。
流石に、この状況に飛んで来られても。

「困る。」

ふわりとした毛並みのバスマット、濡れた身体の体温を奪う森の空気が今は心地良い。

とりあえず急いで、身体を拭きパジャマに着替えた。





「えっと?何に、悩んでたんだっけ?」

青の鏡の前、化粧水をヒタヒタしながらそう、口に出すと至極最もな返事が来た。

「大した事じゃないのよ。それなら忘れて、どの保湿をするか考えた方が。生産的よ。」

「確かに。」

目の前に並ぶ美しいガラスの小瓶、それを差し置いてよく分からない事を悩んでも仕方が無い。

そう、多分。
は、ぐるぐるしても仕方の無い方の、悩みなのだ。
私が、どうこうしなくとも。

勝手に、転がって行くタイプの、問題。


そもそも、「問題」なのかな………。
 

「ほら。」

手を止めた私に声を掛け、保湿を促す鏡。

「ていうか、鏡は喋る方がいいね。朝の支度が捗りそう。」

「何言ってるのよ。とりあえずは無事終えたのでしょう?早く寝なさい。お肌に悪いわ。」

「確かに。ありがとう。」

そうして支度を済ませ、緑の扉を出た。




「あれ?」

パタンと閉じた扉、極彩色の尻尾が見えたそれはきっと千里が出て行った所だ。

代わりに、金色が。

ベッドに座っている。

うん。
なんでだろ。

座ってる、ね?


やましい事は何も無い。

何も、無いのに。

今日一日を反芻して、「やましいポイント」を探してしまうのは癖なのだろうか。


茶会の様子をぐるぐるして、ホッと息を吐き「なんだ、大丈夫じゃん」と思った所で「庭園、ブラッド」の場面がポンと出た。

あ。

え。

これ?

バレて、る?

いやいや、きっちりと。

蓋は、閉まっていた、筈…………。


あちらを見るべきか、見ぬべきか。

しかし、じっと。

見られているのは、分かる。


うーーーーーん????




 「依る。」



あ。大丈夫だ。


その、一言で。

ジワリと滲む、金色の何か、それは私の中に残る彼の色なのかもしれない。

一瞬にして温かい何かに包まれるその声色を、恐ろしいとさえ、思ってしまう。

私を支配する、私の中の、金色。


しかし、それが心地良いのは。

、彼が私を支配しないことが解るからなのだろう。


そう、彼は私を傷付けない。

私を、侵さない。

どれだけ、私の中に金色が侵食しても。

どれだけ、私たちが。

溶け合ったと、しても。


私の中に金色がある時、私の色と彼の色は混ざり合うが棲み分けられている。

私は、私。
彼は、彼。

すぐにパッと、離れられるのだ。


溶け合いたいと、混じり合いたいと。

思わない、事もない。

、夢を見てからは。

が、とてつもなく心地良いことも知ってしまったからだ。

感覚は、無いけれど。

想い、だけは。


でも、あんなのまだ想いだけで充分なのだ。

私は、まだ走る必要がある。

あの、心地良さを味わってしまったなら。


走り出せるか、抜け出せるのか。

自信が、無い。

やはり、経験してみないと分からないのだ。
それくらい、あの夢の中は。

心地良かった、から。




ジワリと滲み出す、あの人のこと。

探している、もう一人のこと。

いや、探していると言うならば。

私の探し物は、沢山ある。


私達以外の金と銀のこと、姫様のこと、私の蝶達の、還る場所のこと。

そう、色んな想いを、運んで。

今、ここにいるのだ。



ふわり、ふわりと舞い出る蝶、その色は始めの頃から大分変化し美しく煌めく。


多分、みんなの、置いていけない想いは。

私の、私の中の、置いていけない想いも。

こうして、徐々に消化して、浄化して、美しく羽ばたいて。


何処かへ、飛んで行ってもいい。

一緒に「還るべき場所」を探しても、いい。


ただ私が。

置いて行けない、置いて行きたくないことだけは。

確かで。


ふと、思う。

祭祀で光を受け取れなかった人。

この、世界で。
所謂、陰謀の中枢にいる人すらも。

私は。

置いていけないのでは、ないだろうか。



顔を上げ、チラリと金色を捉えた。

しかし、一瞬でもあの美しい色を目に宿してしまったなら。

逃れられる、訳がないのだ。



 「依る。」


もう一度私を呼ぶ、その、声が。


私を全て、肯定していて。


もう、それだけで、いいのだと思う。




そうして、触れられてすらいない私の全体は、私の中から溢れ出した金色に包まれて。

ふんわりと、温かく、なる。


そして、真っ直ぐに差し出された両手に抗える筈もなく。

頭を空っぽにして、そこへ吸い込まれて行ったのだ。



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