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8の扉 デヴァイ
披露目の茶会 3
しおりを挟む思い返して、みれば。
確かに、そうだったのだろう。
やはり「銀の一位」の動向に。
みんなが、注目していたという事なのだ。
お茶会が始まってから、私はある事に気が付いていた。
そう、その女の子二人が。
アリススプリングスを、とても気にしている事を。
あの二人は、もしかして………?
「お兄さんは、人気無いのかな………」
そんな事を、呑気に考えていた。
しかし、だからこそ、その二人が。
寧ろ、好意的な雰囲気だったのだと。
振り返って、判ったのだ。
何故だか私のベールが無くなると、アリススプリングスは頬杖をついて私をじっと見て、いた。
この人にじっと見られるのは。
あの、白い神殿の廊下以来だ。
そう頻繁に顔を合わせていた訳じゃないし、そもそもこの人はアラルの想い人だ。
私はどちらかと言えば、彼を避けていた。
だから、始めは。
珍しいのかと、思っていたのだ。
しかし、振り返った私が見たのは、雰囲気の変わった二人。
二人のベールは、そのままだ。
表情が、見える訳では無いのだけれど。
明らかに、雰囲気が変わったのが、判るのだ。
このタイミングと、二人の意識の先。
それで、変化の原因が頬杖をついたこの人なのだと分かる。
え?でも、なんで?
なにが?
そもそも、私、「ブラッドフォードの婚約者」として、今紹介されたんだよね?
おかしいところ、無くない??
なんでこんな、騒ついちゃうの?
ベールが無いのでベイルートに訊く事も、できない。
そのままブラッドフォードが、アリススプリングス以外の人に私を紹介するのを、ただ耳が聞いていた。
私の意識は。
ぐるぐると、何処かへ行っていたけれど。
「おい、終わりだ。」
「はいっ?」
ポン、と肩に手を置かれやや飛び上がった私は呆れた様な青い瞳を捉えた。
久しぶりの、お兄さんの瞳だ。
「………おに………ブラッドは、あまり人気が無いんですか?」
「お前、開口一番、一体何を訊くんだ。」
気が付くと、既に温室には誰も居なかった。
いや、正確に言うとまじない人形だけは片付けをしているけれど。
「あれだろう?大方依るがそんな格好をして来たから。舐めてたんだろうな。」
「うん?格好?」
千里が突然、そう言い出した。
どこへ行ったのか、ウイントフークの姿は見えない。
この部屋に残っているのはブラッドフォードと千里、私の肩にはベイルートが留まっている。
この人まじない人形って設定なのに、こんな口の利き方したらバレない………?
私のドキドキとは裏腹に、ブラッドフォードは気にしていない様だ。
その千里の言葉に頷きながら、私の事を観察している。
「まあ、確かに。あいつらに比べれば、大分地味だからな。」
「え?そこ??」
「俺はこの位でもいいと思うけどな?ヨルに良く似合っている。しかし、女の格好はよく分からん。」
「それには同感だね。」
同意している千里をパシッと叩くと、頼みの綱のベイルートへ話を振る。
ベイルートは商家だ。
二人よりは、女心が分かる筈。
そんな私の期待を裏切らないベイルートは、的確な観察結果を報告してくれた。
「銀の家の若い女は、あの二人とアラルエティーを入れて三人だけだ。ヨルを入れると四人にはなるがな?元から決まっていたアリススプリングスの婚約者は、アラルだったのは聞いたよな?」
「はい。」
「本当は年の頃からすればあの二人の方が適齢なんだ。丁度いいと言っても、いい。だが、多分アラルが一番まじないが強いんだろうな。年齢よりも優先されるとしたらそこしか無いだろう。」
「うーーーん。成る程。」
まじない、ね…。
それに、思ったよりも。
やはり、銀の人数は少ない様だ。
白はあんなに広かったのに。
しかし、そういう視点で言うならばこの空間だって広い。
人の数から割り出すならば、だけど。
「え?でもその私が地味なのと、あの人達の雰囲気が変わったのと。何か、関係あるわけ?別に問題なくない?」
何故か、呆れた目つきのブラッドフォード。
千里は、私の言葉を予想していたのか、あまりこちらに構わず温室内を楽しそうに見ている。
「え?なんで?」
「まあ、ヨルは。目立つからな。」
「うん?」
そう言ったのはベイルートだ。
何故、何が。
目立つのだろうか。
よく分からないまま、髪に手をやりアキを確認する。
うん、付いてる。
今日は編み込みのハーフアップを複雑に纏めた、凝った髪型だ。
器用なシリーがやってくれた。
これで少しは、お嬢様っぽくなったつもりだったんだけど………?
下りている分の髪を弄び、サラサラと手櫛で解く。
そうしているとブラッドフォードが意外な事を言った。
「その、髪。それも珍しいのかもな。」
「え?髪色ですか?」
クリーム色のドレスの上では少し緑がかってもいる、私の髪。
しかし抑え目の水色に、見えない事も、ないんだけど………?
これだけじゃ、まじないがどうとか、分からないよね…??
「違う。真っ直ぐな髪が、そう、無いんだ。」
「ん?ストレートってこと………?」
そう、言われてみれば。
私が知っているサラサラ髪はガリアだけかもしれない。
トリルも真っ直ぐだけれど、私やガリア程「サラサラ」という訳ではないのだ。
しかし、髪がストレートだというだけで。
あの人が、何かする?とか、関係あるの……?
すると、ベイルートがいきなり私を褒め始めた。
「それに、ヨルは美人だからな。」
「やだ!ベイルートさん、何も出ませんよ!」
「おい、止めろ…。」
虫捕りよろしく、私達が戯れつく様子をじっと見ているブラッドフォード、そこへ千里がやってきてズバリとこう切った。
「何やってるんだ?お前、敵認定されたんだぞ?結局、そういう事だろう?」
くるりとブラッドフォードの方を向き、最後にそう問い掛けた千里。
ブラッドフォードは、ただ眉を顰めただけで。
何も、言わないけれど。
うん?
「え、でも。私、お兄さんの婚約者ですよね??」
「ブラッド。………関係無いのだ、本当は。あいつが本気になれば。覆せない事など、無い。」
無意識にロケットを握って、いた。
苦々しい表情の彼が、それが真実だと物語っていてそれ以上の質問は無用なのだと、分かる。
だから。
あの二人は、もしかしたらアリススプリングスが私を望むかもしれないと。
思ったと、いう事なのだろう。
しかし、未だに「ただ見てただけ」で、そうなるとは、私には思えなかったけど。
でも、あの二人にとっては。
そうじゃない、という事が重要なのだ。
でも………。
アラルとだって、結局、仲良くなれたし………?
話してみれば、分かんなくない?
「止めておけ。ここは、向こうと違う。変化は難しいだろうよ。」
そう、冷たく言い放つ千里。
口に出していないぐるぐるの返事が来る事には、慣れてきた。
でも。
今は、って、事だよね………?
紫の瞳を、じっと見つめていた。
すると、横からパッと手を、取られて。
私は温室の外に、連れ出されたのだ。
「お、…………ブラッド?」
コツコツと響く靴音、白の煉瓦は今日もいい音を私に聞かせてくれる様だ。
中々の早足で歩くブラッドフォードは、無言で私の手を引き何処かへ向かっている。
でも。
お兄、さん?
ちょっと、私の裾が………。
「ちょ、ちょっと、ストップ!」
薄い生地が、踵に引っかかった気がして慌てて手を引いた。
しかし、勿論靴は姫様のヒールだ。
多分、私の作ったドレスが破れるとか、そんな事は無いだろうと思うけれど。
少し裾を捲り、確認しようとすると「こら」と言われバッと抱き上げられた。
そう、「お姫様抱っこ」というやつだ。
「え?え?ちょ、ブラッド?!」
「お前ここで裾を捲るつもりか?少し我慢しろ。いい宣伝にも、なる。」
うん?
宣伝??
そう言われて、庭園をぐるりと見渡す。
ベールを既に戻した私は、遠慮なく辺りを確認できるのだ。
そうして見ると、チラリと見えたベール、幾人かのメイドの様な人達。
確かに。
私達の様子を窺っているとしたら、この手は有効かもしれない。
絶対、金色には言えないけれど。
今回閉じ込めてきたけど、大丈夫かなぁ…。
あんまり動揺しないように、しないとな………。
そこまで考えて、パッとロケットから手を離す。
そうしてやっと、ここまでずっとそれを握っていた事に、気が付いたのだった。
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