透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

披露目の茶会

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「美しさというものは、完璧の中に宿るとは限らない。」

「えっ?」


支度の、途中。

ブラッドフォードと私の婚約、その披露目のお茶会。
それは、気が付くともう今日である。

私の部屋、できるだけ淑やかに見えるクリーム色のドレスに身を包んだ私に向かって、そう宣ったのは勿論、あの極彩色だ。


あれから千里は、特に何も、言わなくて。

勿論私も「それならいいや」と、その件については放っておいたままである。

きっと、時間ときがくれば。

自ずと、知れるか教えてくれるのか。
その、どちらかなのだろう。

イストリアと話をして「運命の輪に踊らされないこと」と、言われた私は考えた方がいいことと、放っておけばそのうち上手く回ることの、区別がつく様になってきていた。

多分、この件は放っておいた方が、いいのだ。

そう、頭を悩ませるだけ、無駄なのである。



「なんか、含みがあるなぁ………。」

そう言いつつも、シリーが「素敵ですよ」と言ってくれる様子に頬が緩む。

やはり、私だってドレスを着て。
心が躍らない訳では、ないからだ。

「でも、本当に素敵ですよ。やっぱり、ヨルは綺麗ですね。ベールを着けるのが勿体無いです。」

「えへへ。」

「その返事はどうなの。」

朝にツッコまれながらも、鏡の前でくるりと回る。

あまりヒラヒラした物を好まない私が作る、ドレスは至ってシンプルなものであの二人からは「地味ね」と、言われたけれど。

だって、無理だよ、ヒラヒラのフリフリとか………。


「それって珍しいわね」と言われた、ハイネックにレースが付いた首元、ボディは少しだけゆったりとしているが身体に沿う様、ドレープを寄せてある。
袖もスカートも、ふんわりとボリュームがあるが薄いオーガンジーの様な生地を幾重にも重ねてボリュームを出し、しっとりとした雰囲気に仕上げている。

あまり、「若い娘」が着る様な雰囲気では無いかもしれないけど。

「私らしいのが、イチバン。て、いうか。あれでしょ?銀の人しか、来ないって言ってたよね?」

今更ながら、「この人なんで着替え中に入って来たのか」と思いつつ、千里に話を聞く。
勿論、着替え自体は終わってから入ってきたけれど。


「そもそも連中は、自分達以外に知らせる必要など無いと、思っているだろうからな。勝手に拡まったんだ、お前達の話も。」

「えっ?通達されたんじゃなくて?」

「まあ、大方何処かから聞きつけた奴が通達したのだろうな。勝手にお前に手を出す奴はいないとは思うが、何しろ相手が決まってないと外野が五月蝿い。」

「ふぅん………そうなの。」

「ま、なにしろ今日もお前はニコニコしてればいい。ベールは流石に外すからな。気を付けろよ?」

「あー、そうなんだ?流石に?まあ、浮かれる場面も無いだろうからね…。」

まさか場所は、あの応接室じゃないだろうけど。


何処でやるんだろう?
お兄さんの家だよね?
銀の他の家の人かぁ………とうとう、庭園でチラチラ見てた人達も来るのかなぁ………。
うーーーん。


その時、カチリと部屋の扉が開いた。

「おい、支度は出来たか?」

「はぁい。今行きまーす。」

てか、乙女の部屋のノックはして下さいよウイントフークさん…。

言っても無駄だと思うから、言わないけど。


そうして私達は、いつものメンバーで。

とうとう「披露目の茶会」へ、出かける事になったのである。







勿論、心の、真ん中に。

あの、焔は入れてきた。

今日はキラキラのロケットペンダントに。

しっかりと、入れてきたのだ。



黒の廊下を静かに進みながら、その実物のロケットをギュッと握る。

そう、私は前以て魔女部屋にて金色のロケットを作成していた。
この日の、為に。


二人に相談してこのクリーム色のドレスを決めた後、ふと、焔の事を思い出した私。

なんとなく、だけど。

今度の茶会は、実物が欲しい。

そう、思った。

多分、やはり本番は心細いのかも、しれない。

いくらなんでも、この前よりはきっと私のやる事も、話す事も。
あるだろうから。


そうして一等綺麗な黄色の石を選んで、金色のロケットを作った私は小さな焔を一つ、しっかりと閉じ込めてきた。

この前は隙間がある方がいいかと、思ったけれど。

今回はなんとなく見られたくないし、なんなら見られない、方が。
いいのは、分かっていた。

私の心の真ん中に、で、いいのだ。



大きな黒い扉が開き、ウイントフークが先頭で中へ吸い込まれてゆく。

それを、なんとも言えない気持ちで見ながら「行くぞ」というベイルートの声で、進んで行った。


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