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8の扉 デヴァイ

あの、後

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「しかし、お前は本当に。予想通り、だな?」

「む?」

パンを頬張っている私は、すぐに反論ができなかった。

その、ウイントフークが言う「予想通り」の内容が。

本部長の、作戦通りだという事が解っていながら、だ。


私がむせるのはよくあることである。

いつもの様にシリーが水をすぐに差し出してくれ、それを飲んで一息ついた。
いつか、喉に詰まらせないか気を付けないとそのうちやりそうである。

「だって、その方が。結局、良かったって、事ですよね?」

「まぁな。概ね作戦通りだ。」

コワッ。

何を何処まで、どう、予想しているのか分からないけど。

キロリと睨んで見るも、そもそも私の事など気にしちゃいないウイントフークはさっさと食事を終えて実験室へ戻って行った。

結局。

どう、なったのだろうか?

あの、白の区画は………。


「まあ、そう大事には至ってないさ。」

私を慰めるのは勿論ベイルートだ。

問題を投げるだけ投げ、放置して去って行った本部長の代わりに白のその後を掻い摘んで話してくれた。



「あの後ウイントフークは銀の家へ行ったんだ。」

「え?銀?」

何がどうして、銀へ行ったのか。
さっぱり分からない。

「あの、鐘の音って。凄く、響きました?」

「ああ、凄いなんてもんじゃなかったぞ?多分、外まで響いたんだろうな。まずあいつは先に銀の家、…ミストラスの家と言った方が分かりやすいな?そこへ行って根回しした様だ。」

ん?
ミストラスさん??

余計に分からない。
何か、彼が関係あるのだろうか。

「忘れたのか、あのベルを貰ったろう?」

「はい。それと、これが、どう………?」

確かに私も、思い浮かべた。

あの、ベルの様に美しく響き渡り、みんなに知らせる、鐘の音を。

しかし、それとこれとがどう、関係あるのかがさっぱり分からないのだ。

「ミストラスの家が、「音」の家なんだそうだ。グロッシュラーで、時を告げる鐘のまじないもあの家だったろう?ここでは鐘は鳴らないが。「音」関連はあそこの管轄らしい。それでだな………。」

「あー!そう言えば?そんな、こと?言って………は、なかったっけ?うーん?」

でも確か。

あの、湖の上でベルを鳴らした時。

ミストラスさんの、鐘だと。
なんだ、と思った事は憶えている。

しかし。

「うん?根回し?」

「そうだ。今回、あの鐘はヒプノシスの家の物だという事にしたんだ。ヒプノシスはミストラスの所の現当主だ。おけば。あの鐘がどれだけ美しい音を透そうとも、ついでに何かが、起ころうとも。あの家の所為おかげになるならば、悪い取引ではないだろうからな。」

「………ほ…う?ん?何かが、起こる?」

「それはお前、「ヨルの鐘」だぞ?何も影響がない方が、おかしいだろう。」

「ええ~………。」

でも。

確かに。

何も起こらないとも、思えないのは確かなのだ。
それに、聞いた所によるとやはりあの大きな扉から「音が漏れる」事自体が、普通ではないらしい。

確かに各家のまじない空間は。
独立していた様に、思えるからだ。


「まあ細かい部分はあいつが巧く言っているだろう。しかし今の所は祈りの時間に鳴るだけらしいから、そう心配はいらないだろうな。」

「今の、所は……。ですね、うん。」

「あまり心配しなくていい。実際問題、見ていたのはユークレースだけだ。あいつは多分、鐘にかかりきりになってそれどころじゃ無いだろうし、そもそも他に言う様な奴じゃない。落ち着いたら様子は見に行けば、いい。」

「うん?「鐘にかかりきり」?」

その瞬間、ベイルートは「しまった」という空気を醸し出した。
もし、表情があったなら。
きっと顔に出ていたに、違いないのだけど。


私の顔を見て、逃げられないと思ったのか釘を刺しつつ話し始めた。

「あの屋根の部分に、鐘が。出来たんだよ。でも、すぐには見に行けないからな?」

「えー!絶対見たかった!あれですよね、教会の上で「カラーンカラーン」って鳴るやつ!」

しかし私の話を最後まで聞かずに、ベイルートはキラリと飛んで行った。
これ以上の追求を避ける為なのだろう。


それに、しても。

本部長………。
嘘でしょ?
どこまで?

いやいや、私があの人の思い通りとは、思いたくないし。
やっぱり。

異常に、機転が効く、って事だよね………。

どちらかと、言えば。
そう願いたいものだ。


千里みたいな人が沢山いても、困るしね………。

そう思いつつ。
食後のお茶を飲み部屋へ戻る事にした。



青の廊下を部屋へ、戻る。

さっきの話をぐるぐると考えつつも、昨日の千里の事を考えていた。

結局、あの時金色の焔から脱出した私を待っていたのは。
朝だけだったのだ。



「ん?え?あれ?千里、は?」

「どっか行ったわよ?なんだか気焔のこと、ずっと見てたけど。満足そうにニヤニヤして、出て行っちゃった。」

「え、え~???」


全然、意味が分からない。

そもそも。

あの人が、言い出しっぺじゃなかったっけ??


あの時、確か。
私達の何かを確かめたいと、そんな事を言って私はなんだかムカついたのだ。

何故、千里に。
そんな事を、確かめられなきゃ、いけないのかと。

「それなのに?確かめないで、どこ行ったんだろう??」

「さあ?でも満足気だったけどね?」

「えー?余計に分かんないな………。」


そうして結局、千里が既にいなかったので金色もすぐにパッと戻って行った。
きっと何かの途中だったのかもしれない。

突然、現れたから。


そして私は、ふと気になっていた事を尋ねた。

これ迄は。
あまり、人目のある場所であの焔に呑まれた事は無かったからだ。

「ねえ?あの、私が焔に包まれてる時って外からは見えるの?」

少し考えて朝は、こう言った。

「炎に包まれてる?うーん、私が、見た感じだと。ただ、依るが消えただけだけどね。」

「えっ。そうなの?」

「そうね?千里には何かが、見えるのかもしれないけど。」

「…………あり得なく、ないね…。」

あの時の、事が。

見られていたとは、思いたくないけど。


しかし、見えていたと言うならば朝が言った「満足気に去った」と言うのも頷ける。
いかにも、千里が取りそうな行動だからだ。

そうして朝は、ついでの様に興味深い事を言い始めた。

千里が。

何故、という名前なのか、その理由を。

「あの狐。多分、の類いでしょう?それだから思うけど千里のって。「千里眼」の、千里なんじゃない?」

「…………。」

くるりと青い瞳を回して、そう言う朝。


なんだかあまり、認めたくない、その言葉。

でも、確かに。
そう言われれば、しっくり来るのだ。


「ま、とりあえず。合格?だったんじゃない?」

「え?」

「あの子はあの子なりに。心配だったんじゃないの?あんた達の事が。その気持ちは、解るわぁ。」

そう、言いながらも朝はぴょこぴょことしっぽを揺らし、部屋を出て行った。


私達が、心配。

それは。

腕輪の、石だから………?

仲間だからなの?

でも、他の石達は。
心配………してないわけじゃないのかな?

うん?
どうなんだろう?
そう、言えば聞いたことないな………。


え。
でも。

「私と気焔のこと、どう思う?」とか。

訊くの?

無理無理。
いくら私の石だからって訊ける事と訊けない事があるよ………。


そうしてそのまま、ドサリとベッドに横になる。

「うーん。」

そのまま、目を瞑ると。


眠るつもりは無かったのだが、満腹なのと、頭を使った私は。

すっかりお昼寝をしてしまったのだった。








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