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8の扉 デヴァイ

心に浮かぶもの

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なんだ?

この、白い空間に似合う。

一番、ここに相応しい、美しく響くもの。


それは、なんだ?



目を瞑って、暫く。

私は自分の中を、彷徨っていた。


彼方、此方と。
この、白に相応しいもの、美しく白く。

この、空間に一番ピッタリと嵌る、なにか。

それがきっと、浮かんでくる筈だ。


大きく息を吸うと、少し古い匂いが、する。

少し鈍い金、この繊細でいて美しく細く息づく礼拝堂に、似合う鐘。

私は、それを思い切り、叩いた。

勿論、私の、中でだ。


「うん。」

パッチリと目を開け、を思い出した。
そう、ミストラスに貰った、あのベルだ。

あれは手で扱える、小さなものだけど。

白の教会と、言えば。

頭上で鐘が鳴り響き、時を知らせ、祈りの時間や、生活の時間を、知らせて。

そう、生活の中にある、祈りだ。

ここ、白の人達はどのくらいの頻度で祈るのかは、分からないけど。

「知らせましょうか、鳴らしましょうか。」


そうして開いた、目を閉じて。

鼻から、音を出し始めた。

そう、始まりの音だ。
歌でもなく、歌詞もない、ただの、音。

口を閉じたまま、ただ喉と鼻から音を、出す。

その、声でもない音を充分に響かせた、と感じた時に口を開いて声を出した。

ここからも、歌でもない、ただ響かせることを第一に考えた高い音だ。

遠くまで、響く様に。

みんなに、知らせる音だ。


「さあ、祈りの時間ですよ」

「祈れば、思えば。光は、降るし、力も湧く。いい事づくめ。」

「みんな、自分の中にある、鐘を。鳴らして?あるから。まず、探すことから始めようか。」


いつの間にか節がついて、歌になる、言葉。


まだ、まだだ。

拡がらない。
どうして?
いつもなら。

もう、鐘が響いて、私の蝶がきっとこの白い空間を彩るのに。


「あ。」

靄がかった頭を振ると、原因が分かった。
ベールだ。

流石、性能がいいな?

そう思いつつも、パッと外す。


チラリと視線を飛ばした極彩色は楽しそうだし、未だ蝶を出していない私にベイルートはあまり注意を向けていなかった。

「フフ」

しかし、それを確認しながらベールを外し、声を出したその、瞬間。


「う、わわっ!」

ガタンと音がした。

あれ?
出し過ぎた?

うん?
でもいつも通り、綺麗な私の蝶達だけど…?


驚きの声を上げたのは勿論、ユークレースだ。

しかし彼がベンチに捉まり立ち上がるのを確認すると、再び天を仰いで手も広げる。

これ迄は、膜が掛かっていた感じだったのだ。

スッキリ、歌いたくなったって。

仕方、なくない??



よし

響け 響け

何故だか分からないけど 白は  音で


  澄み切った音がこの空間の隅々まで 響き渡る

音で  歌 で。


みんなに 知らせるんだ


光は あって。

そう、どんなに 小さくとも それは

みんなが 祈れば 歌えば

「ある」と 思えば。


遠く 近くに  光り続けて

あなたを照らすから。


歌って?  祈って?  声を、上げて?

ほら 時を告げる 鐘が鳴る


 ここから 鳴り響く 白の 鐘が


もう  時間だ  

光が 満ち始める   時間

黒も 闇も  覆って 包んで

白く 光で  全てを 包めば


きっと。


 大きな光に  きっとなる から。




瞑っていた瞼にも、白い光が見えてきた。

始めは小さな、光だったけど。

徐々に、徐々に。


それは、大きくなっていったんだ。






「こら、もうお終いだ。」
「むん?」

白い光の中、物凄く気持ち良く歌っていた私の口を塞いだのは、千里だった。

パタンと大きな手で蓋をされた私の、口。

しかし辺りにはまだまだ美しい蝶は舞って、いたし。

ユークレースの緑の瞳は見開かれたままだ。

しかし。

「まずい。人が集まる前に、戻るぞ。」

「ああ。ウイントフークへは、俺が。」

千里とベイルートが通じ合い、私は千里に拉致されそのまま礼拝堂を出る。


そうして、そのまま。

極彩色の星屑に包まれて、何も見えなくなったのだ。








ふんわりとした感覚、馴染んだ匂い。

これは。
私の部屋では、なかろうか。


え?
千里も、飛べるの?
なんで?

………でもスピリットじゃないって、言ってた………んだっけ??

あれぇ?
でも。

ふと、過ぎるきっと正解であろう、思い。

「金色と似ている」飛ぶ時の、感覚。

馴染んだ気配、同じベッドに居ても違和感の無いあの子は。


「え?まさ、か………?」

「今頃気が付いたのか?」

「えっ、えっ、えーーーーーー?!?嘘でしょ?何で?え?自分から??え?」

ちょっと、待って?

千里………千里、は。


初めは確か、悪戯されて。
揶揄われた、筈だ。

そうして何故だかスピリット達を仕切り、ウイントフークに協力して私の側にいる、この人は。


確かに、辻褄は、合う。

気焔が反対しなかった、理由も。

馴染んだこの、感覚も。

私の事をよく分かっているのは、何故だか知らないが人型になったり、抱えて飛んだりできる、そんな存在はあの、金色しか知らないのだ。

しかし千里が、同種のもの、そう、私の石ならば。

「あり、得る………。」

でも?
確か、「人型になるのは自分だけ」って、あの人言ってなかったっけ………?


ベッドに私を下ろした後は、少し離れて私のぐるぐるを見守る千里。

その瞳に揶揄いの色は見えない。

ただ。

静かに、私の理解を待っている、そんな感じだ。


えっ。
ちょっと、待って?

それって探してないけど見つかっちゃったって、こと??
寧ろ、自分から現れたけど?

そんなの、アリ…………??



暫く、ぐるぐる、してみたけれど。

不都合は、何ら見当たらない。

寧ろ。

好都合な事、ばかりなのだ。


「えーーーーーー…………。」

私のその声を聞いて、やっとニヤリと笑った千里。

私の何かを確かめる様に見ていた彼は、徐ろに、こう言った。

「俺としては。のが、意外だったけどな。」

「………、なっている………?」

意味が分からない。

どう、なってるの?何が?


きっと、私の考えていることなんてすっかりお見通しなのだろう。

そういえば最初の頃に。

「サトリ」みたいだなぁって、思ったんだよね………。
まさか、妖怪じゃなくて私の石だったとは…。

しかし、それならば仲間の筈だ。
何故、何をそんなに。

含みのある様子で、私を見ているのだろうか。


を変えたのは。お前だろう?」



アレ?って?

「あいつだよ。凡そ、変化など有り得なかった、金色の石だ。」


「!」

駄目。


瞬間、何故か自分の中の何かが燃え上がったのが、分かる。

ブワリと膨らむ感覚、あの、禁書室でグロッシュラーの大地と繋がった時と、同じ。

自分の中の、「なにか」が。

膨らんで、迸るのが分かる。

この青の空間に私の光が走るのが判り、隅々まで蜘蛛の巣の様に、細く鋭い光が。

走り出して、しまったのだ。



ちょっと、待って。
大丈夫、だって。

彼は、仲間、私の石の一つ。

違う、大丈夫、違う。

駄目、心配かけられない違う、多分。


   「私は 試されている」


ぐるぐる渦巻く自分の心と光、しかし確かにそれだけは、解っていた。

そうだ、確か金色とそんな話をしていた筈だ。


「見極める」


何を見極めるのか、分からないし、そもそもこの人、この、石に。

私達が、見極められる必要、ある??


なんか、ムカついてきたな………。


段々と違う方向に私のぐるぐるが向き始め、それにより落ち着いてきた光、プツリと私と光の繋がりが解ける。

その瞬間、サアッと光が粒子に変化し空間に溶けたのが判って、ホッと息を吐いた。


「ちょっと。ここに。座りな、さいよ?」

まだ、楽しそうに笑う極彩色をキロリと睨む。

そうして私が、ベッドの端を示したのと。

朝が「何事?!」と部屋へ飛び込んできたのと、金色がパッと現れたのは同時だった。


そうして私は話し合いをする前に。

あの、焔の中に捕らえられて、しまったのだ。

うーん、まずい。


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